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4-9 ヤマデラ


「この国は変わらないよ。でも、目覚めさせるくらいはできる」

「ウソの上手さと金と権力で成り上がってきた社会の化身が9割以上なんだ。うまく利用されるだけが落ちだ」

「君のような人間だよ」


 4人かけテーブルの正面にいるヤマデラがチキンナゲットの切っ先を向けてくる。

 その手の甲には、どうしようもなく紋章が刻まれていた。


「誰だって何か起こってほしいと思っている。僕だってそうだった。やるかやらないか。変えるべき根源が大きくてどうにもならないほど、惨めになって、終わりのない憤りを飼うハメになる。それを跳ね返し、振り切れる人々を増やすのが今回の大きな目標なんだよ。結果はどうでもいい。勇姿を見せるのが重要なんだ」


「アンタにも一般市民みたいな時期があったんだな」

「食べないのかい?」


 テーブルにのっている山盛りのチキンナゲットはとっくに冷めていることだろう。

 こんなにあるのに、ヤマデラは皿にある3個の内1つを5mm程度しか囓らない。


「いらない。どうすればアンタの削られたくない自分の核をブッ壊してやる一番良い方法を考えているんだ。邪魔するな」

「……少しだけ期待してしまったよ。君がボクと同じ志を持ってここにきたってね」


 ボォオーーーー…………、遠くで香月がなんとかしている。

 プラスチックだけどナイフには変わりない。

 ボクが持って、ボクだった首に突き立てた。


「教えろ、止め方だ早く」

「僕のものになれ」

「急いでいるんだよ。話をそらすなら次はないからな」

「そらしていないよ、君が僕の妻になれば止めるといっているんだよ」

「なっ、はぁ? あんた、お前なにいってんだのよ」


 男女が混じりあった。

 コイツはにっこりと微笑む。


「なん、なんでそうなる。お前ずっとボクのことそんな目で見てたのか? あ、いや、この身体か……でもわかってんだろ、ボクは」

「ずっとそう見ていた」


 血の気が引いた。

 まあまあ助けられたり、交流していたけど、全部、ぜ~~んぶ、ボクを口説いてたってわけ?


「人の尊さを決めるのは魂の純度だ。性別なんて二次的なモノにすぎない。そしてその純度とは、善行によって育まれる」

「なに?」

「僕はね、平田くん。天国へ行きたいんだよ」


 こいつぁはマズいぜ。

 政治と野球と宗教の話はするなって学校で学ばなかったのか。


「この組織で流行っている楽園計画なるものを少し利用させてもらった」


 平然とマジメな顔で言いとおすコイツは……。


「これを最後までやりとおせば、かなりの善行をこの世で残せる。天国への近道がこの数時間にこめられている。……君の魂の純度はかなり低い。しかし濁り切った色というのは、どうしようもなく惹かれるものがあるんだよ。よどんだ絵画に心が奪われるように」


 手が差し出された。

 キレイな手だ。


「僕と天国に行こう」


 鼻から吸って口から出す。深呼吸が大事だ。

 心を穏やかにして、筋肉を柔軟に。

 緊張しないのが理想的なパンチを放つコツだと教えてもらっている。

 左フックが眉間を貫く。床に這いつくばったヤマデラにまたがって首根っこをねじり上げた。


「教えろ」

「成長したね、平田くん」


 余裕たっぷりの笑顔に血が沸騰するのを呼吸で押さえた。


「僕の生命反応が消えれば止まる」


 喉が鳴った。

 ナイフを首に突き刺す。

 首に突き刺す。

 突き刺す。

 刺す。

 す。

次回、3月11日に二話分更新。

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