4-7 一瞬で終わる取るに足らない潜入
・前回までのあらすじ
墓が仲間になった。
ノーターの1stライブにいく
最終決戦の朝、ライブ会場のMHメッセの駐車場にレンタカーをとめた。
バックミラー越しに鉄骨の隙間から、会場の緩やかな弓なりの白い屋根が顔を出していた。
「まだ間に合うわよ」
助手席の香月が寝起きのノビをした。
「時間がブッとぶなければ16時までかなり時間があるし」
「問題なさそうね」
「そういうのいいから、なんでしょう」
「戦闘準備がしっかりできてるわねってことよ」
「何度も言ってるが、ボクがスタッフに紛れて潜入して、ヤツらの思惑を突き止める。最悪、爆弾を仕掛けたってウソで解散させるってだけで、戦闘にはならない」
「そうなると言っているのよ、からなずね。ライブだってトラップに決まっているわ」
窓枠に肘を置いてかっこよくいっても、「人間どもTシャツ」でサイリュームを握っていたら信用できない。
「それとこれとは話が別よ」
「なにもいってませんよ」
「Vのノーターちゃんとメイヘムのノーティーが別人なのと一緒、全力でノーター初ソロライブを楽しむし、作戦のために待機もする。だから問題ないわ、公私混同はしない。絶対に」
よくそんな支離滅裂な言葉を投げられるな。
「ここが天下の分かれ目よ。気を引き締めていきなさい。いいわね。いままでのように不殺の誓いを気取っていたら、何かを失うことになるわよ」
「……」
「覚悟しなさい」
グラサンをして会場へ向かっていく背中はウキウキを画に描いたようだった。
さすがボクよりも戦闘に身を浸しているだけある。
どことなくぼやかしていた部分を突かれた。
まだ時間はたっぷりあるのに、緊張でどうしようもなくなってきた。
あれをやるか……はあー癒やされる。
もんでると気持ちもよくなってくるし、気分もよくなってくるんだよなあ。
この感覚も時間がたてばドンドン薄れていくんだろう。
ボクが男だっていう認識がなくなれば、自分の身体に母性を感じたり欲情するようなことは……。
ガタッ、と物音が。振り向けば当然寝ていた鷹野だ。目を見開いて頬を薄めに赤くしている。
「朝から未成年になにを見せているのですか……?」
「鷹野……いや、墓。これで最後になるから言っておきたい。ありがとう」
「いまじゃない!!」
それから少しした後スタッフTを拝借し、内部へ首尾良く潜りこんだ。
得意の潜入に女の武器が加われば鬼に金棒。
大した障害もなく会場を動き回り……それはステージの黒い幕に覆われていた。
目深にかぶった帽子が意味をなさないほどに見上げる。
ステージに鎮座していたのは二階席を優に超えるドームの天井まである鉄の塊だ。
明かりがついているのに暗く鈍重な表面で、長い切れこみと細かなネジが張り巡らされていた。
『この客席を取り囲むようにしてあるB型がその証拠です。これを使う気なんでしょう。これが何で、どう稼働するのかは知りませんが、』
耳に入れたインカムから墓がいう。
「そこら中をお花畑にするカワイイ機械じゃないよな」
『ライブなんかするつもりない。強い感情を一気に収集して、なにかする気です』
「でもプラスの感情は馬力が足りないはずだ。そんな効率の悪いことをヤマデラが許すか?」
『ここにあるのですから、ともかく止めざるを得ない。セッケンでの収集は115号に食い止めてもらうとして、B型を少しでも多く破壊しましょう。やれることを。私は機能面からどうにかできないかやってみます』
B型の信号から場所を割りだした客席マップがスマホに送られてきた。
電源を抜いてケーブルにペンチで切れこみを入れていく。
ボクだけだったら、こんな迅速に動けなかった。
「コレで最後のヤツだ。墓、後は頼んだ」
『どこへ?!』
衣装部屋の入り口に陣取っていたマネージャーらしき人物に、ステージで使う予定のケーキが間に合わない可能性があると伝えて、中へ入った。
「司令」