4-6 雉
・前回までのあらすじ
墓に断られた。
「わからないの?」
計画を練るために入ったカラオケで、ボクのがおかしいみたいなトーンで香月がいう。
スマホスタンドを立ててYouTube見てるのくらいわかる。
「あの、結構重要な会議をしてるんですが、それを立てることでアイツをやりこめる情報が手に入るんですか」
「急いだところですぐに決まるわけじゃないでしょう。こういうときは、ノーターちゃん動画を見ながらやったほうがいいのよ。憲法にもそういう記述があります」
防衛軍をやめてから頭がおかしくなってしまったようだ。元々そうだったのかもな、しらんけど。
全く悪びれもせずに動画は終わり広告が流れた。
ダサいロゴが16:9に映った。こんなダサいロゴを出して集客しようとしているんだから余程自信があるのだろう。
しかも真っ白い空間にいる社長らしき人が、爽やかな笑顔をみせる。
「わあ~~い、最高の回きました~~ん」
「今の」
「プレミアムじゃないって言いたいんでしょう。クレジットカードが作れるのならば、こんなことにはないんだからね、とだけ言っておくわ」
「そんなしょうもないプライドどうでもいいから、さっきの広告を見せろ!」
ボクの剣幕に”人間ども”はチャンネルを開いて別の動画を押すと、なんのBGMもない映像が映し出される。
メイヘムのロゴがにじみ、白バックのヤマデラがでた。
『このたび総統閣下から総統の任を引き継ぎ、二代目総統の座につかせていただいたフツーです。メイヘムは日本国へ宣戦布告します。明日11月30日、国会議事堂へ襲撃をかけ、我々が占拠させていただきます』
上げた右手の甲には、メイヘムのダサいロゴ。
『それを皮切りに三種の神器を頂戴し、政治のみならず神道にいたるまで、我々が指揮させていただくことを宣言いたします。ではメイヘム二代目総統、フツーでした』
映像が終わって、低音の効いたノーターの歌声が響く。
「っ~~~~~~!! うまくなった。最初はカッチカチでビッビッって感じだったのに、情緒ができたっていうか、悲しげな歌がダントツでうまくなったわね~~」
「そういう反応ではないだろ!」
ツッコみの勢いで足がぶつかりスマホが前から倒れて香月が悲鳴をあげた。
「メイヘム総統とは大きくでましたね」
鷹野がノートPCとタブレットを軽やかに叩きながらいう。
「司令が聴いたヤマデラの言い分が本当ならば、メイヘムは防衛軍の有用性を示すパフォーマンスのため、国に作られた公的組織……語り継がれていた総統が存在しなくても、おかしな話ではないし……」
「言ったもん勝ちだ。戸水どころか全国の支部を丸ごと自分の支配下に置こうとしてるんだ」
メイヘム総統という架空の存在に身体を与え、奪い去った。
この20秒ほどの短い動画で、宣戦布告したばかりかメイヘム隊員の信仰心までも術中に納める宣言をしたんだ。
「司令の意識を上書きされても、自力で自我を取り戻し、国に仕返ししようだなんて。もはや怨念ですね……」
「しかし、いくら人海戦術を駆使したとしても、防衛軍の総戦力に対抗できるだけの力が戸水メイヘムにあるのか」
「ないと思います。でも戸水の科学力があれば、新兵器を作り出すのくらい容易いことかと」
「だとしても2日間で作るなんて」
「元々あった、のでは」
「いやいやいやいや、それはありえない。経営は全部みんなに任せてたけど、兵器に関してはボクの耳に入ってくるはずだ」
「みんな司令が大好きですから驚かせたいのですよ」
「な、あ、ありがとな。ボクも、墓のこと」
「ふざけないでください。前にも一度あったのではないですか? よく思い出してください、隠されていた大きな活動の結果を知らされた時があったはずです」
情緒たっぷりな香月の歌唱が終わった無音が引き金になったのか、
「あれか……ジョークグッツ工場のサプライズ発表。まさか、でも」
「これくらいの規模の秘密が隠されていてもおかしくはありませんということです。それも、生命エネルギーを主体とした兵器と考えていい。メイヘムと言えば生エネ、使わない手はない」
ボクを驚かしてくれて、喜ばせてくれる、生命エネルギーで動く謎の兵器。
まさか、プルトニウム239があれば誰でも作れるっていうあれじゃないだろうな。
「うーん……。墓はなんで、ここにいるの」
「はい」
「なんで返事したの。墓、なんか、すごく泣いて後悔とかして、出てったじゃんか」
「鷹野です。その名前で呼ばないでくれますかっていいましたよね」
「あ、気をつけます。いやボクが攻めてるんだよ」
ボクと香月がなんの建設的もない会議をしていたら、トイレついでにドリンクバーを取りいった自然さで隣に座っていた。
見てみぬをしていたが、建設的な話をされたらツッコまざるを得ないじゃないか。
「顔を洗って着替えをしたかったので席をはずさせていただいたのですが、どうして置いていったのですか」
「あれだけ協力しない感だされて、よっしゃ~~仲間になった、イエイイエイって思うヤツいないだろ。それにあのときは勢いで誘ったけど、やっぱりJKを加担させるわけには……」
「自分のやったことを背負いたいのです」
穏やかな優しい顔が決意に満ちていた。
年端もいかない高校生がこんな表情できるのかってくらいに。
「お願いします、司令。私も連れて行ってください。必ずお役に立ってみせます」
「いや、でも、これは今までと違う、簡単なことじゃない」
「私は……墓は、メイヘムの情報参謀です」
強い瞳。
絶対に引くつもりはない瞳。
……そうだ。元はといえば、これもボクがやったことだ。
墓を巻きこんだのはボクだ。
逃げているのは、ボクなんだ。
「条件がある。絶対に、現場にでてこないでくれ」
「私が一度だってアジトに顔を見せたことがありますか?」
一時の開放に喜ぶような、そんな笑顔。
心強く、重い。
「ボクがお願いしたんだ。あらためて、一緒にあいつを――」
「ああーーッ!!」
湧いて出た絶叫に2人して飛び上がった。
「うるせえぞ ”人間ども”! いま大事なとこだぞコレが!!!!」
「ライブ明日だったああーーーーッ!!」
香月は頭を抱えてのけぞり、壁に後頭部をぶつけてもぐりぐりして悶絶している。
スマホの画面、そこには歌配信アーカイブの最後の告知が映っていた。
ノーター1stソロライブ
サプライズ ~ありがとう人間ども~
日時 11月30日 16:00~ ……
・次回予告
いままでのように不殺の誓いを気取っていたら、何かを失うことになるわよ」
そこら中をお花畑にするカワイイ機械じゃないよな」