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4-4 懺悔

・前回までのあらすじ


 香月が仲間になった


 戸水市特別緊急事態宣言で、街をいく人も車も露骨に少ない。

 わずかな通行人は一般人なのか、それともメイヘムのメンバーなのか確認するすべはない。

 当然だ。メンバーといっても一般人と変わらないんだから。

 だが人が少ないおかげでサングラスジャージ女体男と、防衛軍パワードスーツが束になって闊歩(かっぽ)していてもは問題ない。


 立派な門扉のある高校についた。

 平日の昼間で授業中だから、校門ごしに見えるタイル張りの広場には人影はない。


「そこのネカフェで制服に着替えて、使われていない裏門から入るわよ。彼女は、昼休みにしか仕事をしていないから急ぐわよ」

「なんか、やっぱりボクが基地爆破してたの怒ってます?」

「軍時代に先輩から教えてもらったとき、私も馬鹿にされてるんじゃないかって思ったわ。しかも母校だしね。あと怒ってないわ」

「違う、そうじゃなくて……」



 学校名プレート:イーリベゴイス女学園中学校高等学校。



「ボク男だから、その、スゴい頑張らないと、バレるんじゃ……」


 黒に赤のスカーフがはえる制服に袖をとおしているボクは、構内の踊り場にある大きな鏡に映る自分の綺麗な姿に見惚れていた。

「これが、ボク……?」

「くっ……まさに似合ってるわね。この筋肉がなければ、高校生と見分けが付かないというのに……あと怒ってないわよ」


 香月は顔がいい。眼鏡をした涼しげな瞳とあいまって知的な印象を与えてくる。

 制服を着た大人の女性だ。

 筋肉の影響は体型が確かに少しガッチリして見えるが、そういう問題ではない。

 香月がすれ違う生徒にナチュラルに挨拶して、挨拶が返ってくる。

 ボクがおかしいのか……?


「ここよ。ここに情報屋のグレイヴがいる」

 渡り廊下をとおって美麗な中庭の端を歩き、白い教会の扉を開けた。

 大きなステンドグラスに照らされた長椅子には誰もいない。

 声を出すのもはばかれるくらいに清廉で清んだ空気に満たされていた。


 5つ連なっている懺悔室の5番目で丸椅子に座る。

 証明写真機くらいの狭い空間の正面には格子状の窓があった。

 ボクは教えてもらったとおり格子の隙間から、香月からもらうのを躊躇した1万をいれて合言葉をいう。


「FHDF、ハイフン、1593……1、コロン、27……!」


 1万が闇に消えると、低い低い低音が腹を震わせてきた。よかった、合ってた。

『いいか、要件を端的に話せ。こちらが訊いたこと以外しゃべるな。時間は10分。わからなければ情報はそこまでだ。いいな』

 慎重になれ。人生が決まる10分だ。


「ハッカーを探しています。本名は知らないのでしゅが……「墓」と名乗っていました」

『他は』

「数秒で監視カメラにダミー映像を流したり、リアルタイムでスマホに侵入できたりするくりゃいのスゴい腕前で。たぶん、大学生です。作戦時間に授業中だったらしくて、数学の答えを叫んでました」


 返事がない。噛みすぎたか。

 いや、耳を澄ますと……キーボードを叩く音。データベースで検索でもしているんだろう。

『…………はい』

「ネットとリアルでは話し方を変えてるみたいで、ネットでは「じゃな」「やな」とか典型的な民だと思いましゅ。リアルだとたぶん敬語で話してるはず。だだ漏れてたから。かっこ迫真とか声にだすんだなあって関心してたのでよく覚えてますねえ」


 ガドンッ!! 台を殴ったようだ。

「す、すみません。しゃべりすぎまひた」

『どこでそれを聴いた』

「聴いたって言うか、対象だったっていうか、知り合い……同志なので」

『帰れ』


「は? なんで急に、そんなしゃべってないでしょ! 頼むよ、アンタが最後の希望なんだよ」

『反社会的組織の構成員はお断りだ。そこにポスターも貼ってあるだろうが、文字よめんか』

 暴力団追放!


「そ、違う! 今は――」

『てめえは犯してはいけないラインを超えた。それは情報屋を詮索すること。情報屋の情報は一方通行じゃなきゃならねえ』

「意味がわからない、ボクがいつ、あんたを詮索した?!」


『しらばっくれるなメイヘム野郎が!! 幾人もがオレを詮索して、脅し、情報をかすめ取ろうとしてきた。……いっとくがてめえの命はねえぜ。その調子ならオレが何人防衛軍につまみ出したか知ってるだろう。さっさと回れ右して、パンチラ活動でもしていろ!! 二度と来るなカマやろう!!』

「そこまで知ってるのか……?」


『ああんだあ?!』

「カマやろうって、そういうことだろう? ボクがこの女体に押しこめられたことを」


 コイツは本物だ。複雑なボクの状況を知っている。

 なんとしても情報がほしい。

『はあ……自分をフツーと思いこんでいる特殊性癖女、いるんだよなあ、時々そういうヤツ』

 あれ。


『自分は宇宙人だとかリア○ギャ○ガーの生まれ変わりだとか、メイヘム総統だとかよ、本人はまだ生きてるっていうのに真顔でそんなコトいいやがる。オレはテメエみたいな、自分は選ばれた人間だって思いこんでキドッている、目を覆いたくなる ”かまってヤロウ” が大嫌いなんだよ!!!!』

「しょ、そう、思うのも仕方ないが、ウソじゃない――」


 バゴンッ!! 編み目の窓をブッ飛ばして、野太い腕がボクの胸ぐらを掴んだ。

 毛だらけで熊みたいだ。ケモノ臭もする。

『女だからこれくらいで勘弁してやるが、同人ゴロツキTS女、二度とそのキレイなツラみせんじゃねえ!』


 確実にやられる。どう考えても逃げるのが適切だ。

 だからって……!


「ヤマデラは確実に、正義を果たすために何かをやる。この街をみて実感した」

 思い切り腕を掴む。片手じゃ収まらないから両手だ。

「いろんな人に迷惑をかけた。でも後悔はしてない。する権利もない。自分のやったことに誇りだって、かっ、感じているんだ」

 爪をたてれば力など関係ない。力業でどうにかしようなんてボクらしくないのに。


「戸水メイヘムはボクの、ボクが作り上げた職場だ。ヤマデラの復讐めいた正義感で日本を転覆させる片棒を担がせるようなマネ、させられない。だから信頼できる仲間の力が必要なんだよ!! 墓の力がーーーーッ!!」

『人に迷惑かけんが誇りぃ? 正常な倫理観をもってるやつは、そういうのを悪党っていうんだよ!!』


 息を吸う隙間が少しもなくなった。

『手を離せ。そうしたら命だけは許してやる』

 さらに力をこめると食いこんで血液が流れだした。

『コイツ、完全に狂ってやがる』

 もうダメかも知れない。

 ならば最後に、ボクの折れない決意をいってやる!


「た、たとえ、全部の穴にアロンアロファを注ぎこむと脅されても、ばっちい拳銃を口にツッコまれても、金○をガムテープで縛られてナイフを見せられても動くつもりはなあーーーーーーーい!!!!」


 ホントにこれが最後の言葉か平田くんよーーーーい。

『まどろっこしい例えしてんじゃねえーーーーッ!!!!!!』

「円寺さん」


 倒れた椅子の脚にしがみついて喉がすりきれるくらい息を吸う。

 この箱の外からした硬く真のとおった声に助けられたんだ。

 扉が開いてボクはその女子高生に見下ろされていた。


・次回予告


 ……これはやりたくなかった。


 「やってください! よくわかりませんが、あれですよ、えーと……過去の清算!!」

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