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4-2 ウォーキング・(ウー)マン

・前回までのあらすじ


 ヤマデラだけは許さない


 小雨の中、一時間半かけてたどり着いたタワマンの自動ドアをくぐる。

 戦闘服を着てるのもあるだろうが身体能力はあまり変わらないみたいだ。

 無意識のうちに不摂生と運動不足でアイツの健康を成人男性の平均以下にしておいたのが功を奏していた。


 フロントに笑顔をなげかけて通りすぎようとすると警備に止められた。

 子分からくすねた500円で買ったダイエットコークを掲げる。

 ウーバーイーツです。


「この顔でサングラスだと堂々としていれば、なんだって信じさせられるな」

 エレベーターのドアの反射でまじまじと視姦。

 スゴいな……。芋ジャージなのにそれだけで画になる。

 キリッとさせれば、まるでコメディ映画のスパイみたいだ。


「ある! ない! ある! ない! ある! ない!」

 胸と股を両手で往復して叫んでみた。

「お、おお~~……!」

 サッサッサッサッ! ちょっとセクシーなダンスをしているみたいで気分がアガってきた。

 アイドルとか俳優目指すのもいいかもなあ。

 28にして無職になって、捕まってないけど前科もあるし。

 このパーフェクトボディを日の目に出さずに独り占めするのは申し訳なくなってきた。


「やれそうな気がしてきた……! めざせ、トップアイド」

 扉が真ん中から割れる。メガネの中年隊員と目があった。

 隊員は申し訳なさそうに小さく会釈して、ボクと入れ違いにエレベーターへ乗りこむとボタンを連打して閉めた。


「よし」

 ボクは振り返らずに姿勢を正して努めて綺麗に歩を進めた。

 地下2階の情報収集室にはPCとデスクがずらりと並んでいる。

 絶え間なく人が動き周り、証券トレードのオフィスみたいな熱があった。


 入り口近くの男の肩を叩く。

「ボクっ、わたし、調査部で、極秘に知りたいことが……」

 サングラスにジャージにめんくらっていたが、よしっ。

 このタワマンをメイヘムの本部だと認識して入ってくるヤツはいない。

 見ない顔でも部署名が合っていれば信じさせられる。


 墓とアイツの住所を特定できれば。

「あっそうだ、社員証みせて」

「社員証?」

「知らない? 今日からつけろって配られたんだよ」

「誰がそんなこと決めたんだ」

「そりゃ司令だろ、フツー司令」


 書類の上に無造作においてある社員証ホルダーを指さした。

 ヤマデラ、こんな会社みたいなこと始めやがって。

 そこら辺あやふやにしてるのがメイヘムのいいところなのに。


「……見ます?」

「は?」

 ジャージごしのボクのふくらみに視線が下がった。

「3、2、1」

「3次元はクソ」


 肩を落としてタワマンを出た。

 ボクだったら即断するのに、大賢者かあいつは。

 しかも教えてくれたのがさらに悔しい。


「……ッ! なに悔しがってんだ……!」

 顔が熱くなった。

 ボクは(何年かわからないけど)男で通ってきたんだ。

 もしかしたらその前は女だったのかもしれないが、自分を男で認識してるんだから、ボクは男だよ。

 もう少しで立派なおじさんに慣れたっていうのに、早くしないと心まで女になってしまう。


 逆にいいかも。

 新たな性別で新しい人生を謳歌できるわけだし、考え方によっちゃラッキーなんじゃないか。

「……このままひっそり暮らすのもいいかもなあ」

 何気なく右をみた。紙を手にボクの顔をまじまじと凝視している若い男が電話している。


 早足でそこを離れる。

 大通りの向かい側に、あからさまにダッシュしてきた集団。

 走った。

 すれ違う人々がボクをみているような気がする。

 絶対みてるじゃん。

「暮らせませんよッ!」


 大賢者から授かった付箋の住所を頼りにアパートに着く。

 コイツに頼るのはイヤだったが、もう一人の情報がキレイに消えていたからしかたない。さすがだ。

 ボクはアパートが見渡せる電柱の影に隠れてヤツの帰りを待った。


「防衛軍なのにこんなボロいとこに」

 頂点だった太陽が少しずつ 沈んでいき、遠くのビルの谷間へ消えていった。

 胃袋が変わっても腹は減った。何も食べてないしジャージだと寒い。


「やよい軒、どん兵衛、チキンナゲット……」

 ふらふらしてきた。遅いくらいだ。

 1日超、固形物を口にしていないのに、潜入したり、合計4時間濡れて歩いたんだし。

 ここまできて、腹へりで路傍の花になるなんて、地縛霊になってもおかしくないぞ……。


「あなた大丈夫?」

 ぼやけている焦点があう。街灯に照らされた事務服が近づいてきてボクを覗きこんだ。

 やっと、帰宅した。ああ、でももうエネルギーが――――醤油。

 匂いの元はどこだ。白いレジ袋が虹色に輝いていた。


「びしょ濡れでウワックサっ、いったい何があったの?! もしかして、メイヘムから脱走してきたの?! 許せない! ……あ、忘れてください、妄想です、と、時々あって」

 そんな場合じゃない、ボクのメシアに救いを求めるんだ。

「香月ボナム! メシ頼む!!」

・次回予告


「そういうのもう辞めました」


「大いなる力には、大いなる責任が伴う……か」


 正義はいるんだ。

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