序章
必要部分が抜けていたので、全文書き直しました。
見慣れたくそったれたいつも通りの荒野を眺めて、時たまに甲車めがけて跳びかかってくる甲獣類や、鋭い刺をまとった刺獣類を重火器や剛弓で打つ落としつつ、欠伸をひとつ。
今日もいつも通り平和だ。
甲車を牽引する巨大な亀のような姿をしている甲包獣の相棒も、鋭い剛毛のはえた6本足で地面の凹凸などものともせず、絶好調に走っている。
欲を言うならもう少し牽引している、甲車の中身に気を使ってくれやしないかと、思うくらいか。
今回の商品に割れ物がないのは救いだが、だからといって無駄に揺らしてキズ物を増やす危険をおかす必要もないだろう。景気よくガタガタとなる商品達のBGMに、甲車がならすキシキシ音が混じるのは頂けない。
そろそろメンテナンス時だろうかと、今回入るであろう報酬の皮算用でも始めてみる。
荒野を駆け、人間の生存圏である 壁 と 壁 を行き来する俺たち武装商人にとって、甲車は命の次に大切なものだ。その次に商品がくる。甲車を失うということは、荒野のど真ん中で拠点を失うようなものだ。最悪身を隠せる場所もない荒野に出て過ごすしかなくなる。
そしてそうなった武装商人の末路は、大体が獣や蟲に喰われて次の日にうずたかくつまれた糞の仲間入りだ。
ガタンとまた大きく甲車が揺れて、ずれた砂避けを引き上げる。使い古されて、ガサガサと肌触り最悪の一言につきるが、荒野では避けられない砂ぼこり(砂というには粒が大きいが)から致命傷を避けるためには欠かせない。
買い換えも考えたが肌触り最高のお高級品は、当たり前のように値段もお高級だ。
食料と水、弾薬武器各種の補充に、相棒の食費と甲車のメンテナンス。金はいくらあっても足りない。それほど重要でもない物に割く予算はない。
荒野で大半を過ごす武装商人であろうとも、人間であると主張したくば結局は金だ。
世知辛い世の中だ。
世間の冷たさを暇潰しに嘆いていると、砂煙で霞んだ視界に巨大な構造物の影が見え始めてきた。
壁だ。
ようやくの目的地に気分が上がる。
これでしばらくは使い古された、煎餅のように固くごわついた寝床ともおさらばだ。
砂まみれの体も荒野では貴重である水をたっぷりとたたえた風呂で、まっさらに生まれ変わるのだ!
これから待っているだろう、人間を主張できるひとときに胸が踊る。まだまだ黒い影でしかない楽園へ少しでも近づこうと、相棒に速度をあげるように指示を出す。
相棒もまた 壁 が楽しみで仕方なかったのか、ぐんと速度が上がる。
さらに甲高くなる甲車の抗議音も今だけは優雅な音楽だと、鼻唄さえでる。
壁 とはそういう存在なのだよ。
はじまりはじまり