夜と朝の境界
まだ月が顔出す早朝。
目が覚めた私は近所の公園へと出向いた。なんの目的もなく、ただ。
30分ほど歩くと飽きがやってくる。やはりまだ学生の身。単純作業はまだ苦手なようだった。
少し高さのある坂をのぼり、てっぺんのベンチに座る。いつの間にやか空は薄ぼんやりと明るくなってきていた。
「おはよう」
しゃがれた声。隣に目をやると、いつの間にか老人が座っていた。
「何をしているんだい?」
突然聞かれ、返答につまる。
実際のところ何も目的はなかったが、やはり若さ。格好をつけたがるものだった。
「夜と朝の境界が見たくて」
私は空を見上げながらそう言った。
いつの間にやら空は暗がりを失い、絵の具を溶かした水のような色を生んでいた。
「そうかそうか」
老人は満足そうに笑う。
空にはまだ、星が瞬いていた。とてもとても綺麗な星だった。
「あの星がいつ消えるか知っているかい?」
「........朝が来たら?」
老人はおかしそうに笑う。
「あの星は消えないよ。ずっとあそこで輝いている。私達が見るのをやめてしまうだけなんだ」
老人はいつの間にか居なくなっていた。
けれどあの星だけは確かに見えていた。遠くの空の焼けるような色。微かに残る秋の匂い。動き出す人間の音。
どれもこれも、今、私が見ている物だった。