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 俺は異世界に転生した。

 そう言うときっとみんなはこう想像するだろう。

 不慮の事故にでもあって不思議な空間で神様と会ったんじゃないか、と。

 だが俺の場合特にそういうことはなかった。

 何故なら俺は普通に老衰によって死んだから。

 普通に死んで、輪廻転生し、異世界にて新たな生を受けた。

 しかし普通と違うのは前世の記憶を持っていること。

 だからこそ俺は異世界に転生したと理解出来た。

 では何故俺が異世界とこの世界を論じているのか、前世の世界と何が違うのか。

 それはまさに今俺の目の前に浮遊している存在が大きい。


「貴方、私が見えてるの?」


 この世界に来て不思議に思ったことは多かった。

 電気や火などを用いない照明、何処から引っ張って来ているのか分からない水道、火打ち石やマッチなどを用いずに点く火。

 これら全ては魔力、魔法という不思議な力によるものだと教えられた。

 まぁこれだけではまだ異世界と言うには難しい。

 もしかしたらそういう力が本当に存在していたかもしれないのだから。

 だがしかし、今目の前にいる存在だけは流石にどうあっても異世界と思わざるを得なかった。

 白銀の髪を靡かせ、蒼穹の瞳は興味深そうに俺を真っ直ぐに見つめる。

 白磁のような綺麗な肌にスラっとした肢体。

 目鼻立ちの整ったその顔はまさに美少女と形容するべきだろう。

 肌触りの良さそうな純白のワンピースをその身に纏う少女の背中からは虹色の半透明に煌めく細長い羽が左右に三枚ずつ生えており、パタパタと忙しなく動いていた。

 そして何より驚くべきはその大きさ。

 パッと見でも全長が俺の顔くらいしかないその存在の名を俺は聞いたことがあった。


「精霊……」


 いくら魔力や魔法なんかがあると言われても、そんな訳の分からない存在が実在するなど俺は信じられなかった。

 高い知能と魔力を保有し、精霊界と呼ばれるこの世界とは別の次元に存在する世界で暮らしている者たち。

 召喚による呼び掛けに応えることでこの世界に顕現し、召喚者と契約することで召喚者に力を授ける存在。

 お伽話だと鼻で笑っていたが、本当に存在していることを知ると驚愕のあまり上手く思考がまとまらない。

 そしてそのお伽話通りなのだとしたら、目の前にいる精霊の羽は左右合わせて六枚。

 精霊の中でも最も優れた能力を持つと言われる上級精霊の証。

 更にその色が虹色ということは……。

 あり得ないことのオンパレードに俺の頭はパンクしかけていた。

 そんな中、目の前を浮遊する純白の精霊は俺を見て笑う。


「あら、本当に見えてるのね……そう、フフッ……貴方、面白い才能があるのね」

「……」


 俺の呟きが聞こえたらしく、精霊は俺に再び語りかけて来た。

 才能があると上級精霊のお墨付きを貰えたのは素直に嬉しい。

 しかし面白いというのがどういう意味か分からないが、魔法に関してはある程度の才能があることを既に知っていたため、別段驚くようなことではない。

 俺が何も言わずに黙っていると、精霊は何が面白いのか微笑む。


「でも残念、私が気になったのは貴方じゃないの、ごめんなさいね」


 精霊が気になる存在。

 それはつまり魔力を多く保有する素質のある者のことだろう。

 呼ばれてもいないのに自発的に精霊が現れることなどそうある話ではないらしいし、何よりこの精霊は虹色の羽を持つ上級精霊、よっぽど気になる存在がこの近くにいるようだ。

 俺のいる街は小さい。

 そんな中で上級精霊が気になるような奴と言えば一人しかいないだろう。


「ロイドか?」

「……ん?……へぇ、ロイドって言うのね」

「みんな言ってるよ、ロイドは天才だって」


 ロイドと聞いて反応が鈍かった辺り、どうやら名前までは知らなかったらしい。

 名前を知れて嬉しいのか微笑む精霊を眺めながら俺は最近よく聞く言葉を口にした。

 ロイドとは俺の幼馴染と言える同い年の少年だ。

 幼馴染と言っても同じ頃から孤児院で育てられただけの関係だが。

 そんなロイドが何故天才と呼ばれるのか。

 それは一重に保有する魔力が膨大なのだそうだ。

 人は誰しも魔力を持っているそうだが、それを用いて魔法がどれくらい使えるかはその保有量に依存する。

 俗に魔法を用いて魔物と呼ばれる化け物と戦う存在を魔法士と呼ぶらしいが、その魔法士になるには一定以上の魔力量が必要だという。

 そして俺が住む王国は十歳の魔力量を測定し、魔法士になる才能のある者を学院に入学させ、優秀な魔法士へと育成することに力を入れている。

 その測定士が先日俺が世話になっている孤児院にも現れ、今年十歳となった子供の魔力量を測定した。

 まぁ、結果はさっき言った通りである。


「ふふっ、貴方も中々よ?」

「そうか。一応今年学院に入学するのは俺とロイドの二人だけだが、あの差は埋まらないだろうな」


 自分のことを卑下しているようにでも聞こえたのか、精霊にお世辞を言われたが俺は特にそういった考えを持っていない。

 俺は俺、ロイドはロイド。

 測定結果の時点でロイドは千年に一人とまで言われる程の逸材で、俺は学院の入学基準をクリアしただけの凡人。

 魔力量が全てと考えられている魔法士の世界において、この差は大き過ぎて埋める気にもなれない。


「冷めた子ね、その差を埋めようとは思わないの?」

「俺は平穏に過ごせたらそれで良い。戦場にも出たくない。才能がなかった方が幾分かマシだったよ」


 冷めた子、ね……流石にこんなちっさな精霊に子供扱いされるとは思わなかったが、精霊は不死の存在と言われているし俺なんかよりもずっと年上なのかも知れない。

 一応前世と合わせたら100近いんだけどな俺も。

 そんなことを考えながら俺は自分の考えを精霊に語った。

 魔法というのはとても魅力的ではあるが、魔法士ともなれば魔物との戦場に出向かなければならない。

 戦うくらいならば魔力が少なく、魔法士になれない方がマシだ。

 平和が一番なのだ。


「ふふっ、変わった子。貴方がどんな魔法士になるのか、少し楽しみが増えたわ」

「……一つ頼み事をしても良いか?」

「何かしら?」


 精霊がフワフワとこの場から離れようとした所で俺は精霊に声をかけた。

 止まってくれなくても別に問題はなかったが、精霊は俺の方に振り返った。

 月明かりに照らされた精霊はとても美しく、その姿に言葉を失いそうになってしまったが気を取り直して口を開く。


「もし、俺の召喚に応じてくれそうな精霊がいたら伝えてくれ。『本当に俺で良いのか?』ってさ」


 精霊が人と契約する理由。

 それは精霊がこちらの世界に干渉するため。

 精霊はそのままの状態、契約をしていない野良精霊のままではこちらの世界に居続けることが出来ない。

 そんな精霊が人と契約してまでこの世界に存在する理由。

 それは魔物を討ち滅ぼすため。

 この世とは別の次元に存在すると言われている精霊界であるが、強力な魔物の中には次元を越えて精霊界へ侵入することが出来る奴がいる。

 精霊は精霊界が邪悪な魔物に荒らされることを嫌い、侵入される前に倒すべく人と契約して魔物と戦う。

 そういう名目の元で契約するというのに、俺は特に戦う意思はない。

 故に、事前に忠告しておいて欲しいと考えたのだ。

 そんな俺の頼みを聞いた精霊はクスリと笑った。


「ふふっ、一人だけ貴方にピッタリな子がいるわ」

「ならその子に頼む」


 精霊の中にも俺と同じように戦う気のないサボリ魔がいるということだろうか。

 そういった奴ならば問題ないだろうが、一応は伝えておいて欲しい。

 そう思う俺とは違い、精霊は楽しそうに言う。


「えぇ、でもきっと、どう足掻いてもあの子は貴方と契約を結ぶでしょう。というより、私がそうさせるわ」

「酷い奴だな」

「野良精霊の中に私に逆らえる子はいないわ。だって私、これでも王様だもの」

「っ……」


 精霊の言葉に俺は息を詰まらせた。

 王様。

 確かに俺の目の前にいる精霊はそう口にした。

 精霊の王様、それはつまり精霊王。

 精霊界において最も強大な力を有する存在。

 そんな雲の上の存在とも言える精霊が目の前にいる。

 虹色の羽を持っている時点である程度の察しは付いていたが、いざ本人から事実を告げられると俺は衝撃のあまり唖然とするしかなかった。

 俺の驚く反応を見て気を良くしたのか、クスクスと小さく笑ってから精霊王は佇まいを正し、恭しく頭を下げた。


「自己紹介してなかったわね、ごめんなさい。私はアリス。精霊王アリスよ。以後お見知り置きを」


 精霊王アリスと名乗ると共にその姿は半透明になっていく。

 いくら精霊王と言えど契約が無ければこの世界に居続けることは難しいのだろう。

 精霊王は頭を上げると俺に向かって微笑んだ。


「二年後が楽しみね、ロイドも、貴方も。私がロイドと契約するまで、ロイドをよろしくね」

「……精霊王の頼みを断る度胸はないよ」

「ふふっ。私に頼み事をしたのだから、これくらいは良いわよね?」

「え……ち、ちょっと!?」


 意味深な言葉と共に指を鳴らした直後、精霊王の姿は消え、そこには最初から何もなかったかのようだった。

 そして俺は精霊王の言葉の意味に気を取られるあまり、 とても大切なことを今更ながらに思い出して精霊王を呼び止めようとしたが後の祭りだった。

 今俺がいるのは街から少し離れた森の中。

 しかも今は夜。

 中途半端に目が覚めてしまい、そこから寝付けそうになかった俺は孤児院を抜け出し、街の外壁の抜け穴を通って夜の散歩に出かけている途中だった。

 そして案の定、俺は森の中で遭難していた。


「帰り道、教えてほしかったな……」

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