漫才「茶碗」
漫才25作目です。どうぞよろしくお願いいたします。
茶碗屋の前を青年が通りかかる。
店主「お茶碗いかがですかー」
お客「お、茶碗屋かあ」
店主「そこの若旦那、茶碗どうですか?」
お客「丁度良かった。昨日の夫婦げんかで割っちゃったからなあ。二つ買って帰って、仲直りのきっかけにするとしよう」
青年が店に入っていく。
店主「どうも、いらっしゃいませー」
お客「ちょっと茶碗を見せてください」
店主「どうぞどうぞ。この茶碗なんかどうです?」
お客「なるほど、いい柄だねえ」
店主「ありがとうございます。包みますね」
お客「ちょっと待ってよ、まだ買うとは言ってないでしょ」
店主「サービスしちゃいますから、買って行ってくださいよ」
お客「サービスって、なにかおまけでもつけてくれるの?」
店主「いいですよお。つけちゃいますよお」
お客「何を奮発してくれるのかな?」
店主「なんと炊飯器! どうです?」
お客「もらった! いくら?」
店主「6万円です」
お客「高いなあ、それってさあ、炊飯器代を込みにした値段でしょ」
店主「いやだなあ、お客さん。炊飯器はあくまでもうちからのサービスですって。料金もあくまでも茶碗だけのもの、純粋に茶碗代だけですよ」
お客「でもさあ、なんで茶碗がそんな値段になっちゃうわけ?」
店主「うちは老舗なんですから。持っている技術レベルが並大抵のものじゃあないんです。新旧併せ持ったその技術をふんだんに盛り込んで作り上げた茶碗がこの作品なんです」
お客「ふーん」
店主「なにせ、うちは縄文時代からやっているんだから。創業は縄文元年でしてね」
お客「はあ?」
店主「お客さんだって、教科書で見たことがあると思いますよ」
お客「それって土器のこと?」
店主「そうそう。知ってるでしょ。あれ、ほとんどうちで作ったものだから」
お客「そんなわけないじゃん」
店主「ほんとですって。博物館にだって納品してるんだから。うちの技術は国からも認められているんですよ」
お客「土器は遺跡から掘り出してきたものでしょ」
店主「あれ、洗ってあそこまできれいにするのは大変なんだよね」
お客「埋まっていたんだから、それは仕方ないでしょう」
店主「うちだったら同じ技術できれいなものができるんだもの。なにせ昔ながらの創り方もしっかりと引き継がれてきているんだからね。同じものが出来るんなら、洗わなくて済むものの方がいいでしょ。その方が手っ取り早いでしょ」
お客「まあ・・・そうですかね」
店主「焼き上がった茶碗をパリンと割って、糊付けすれば完成」
お客「わざわざそんなことを?」
店主「昔の人たちもそうやっていたんだからね」
お客「うそお」
店主「見事な仕上がりはうちならでは。技術の蓄積が百年二百年どころの話じゃないんだよ」
お客「なんか、有難味がなあ」
店主「何を言ってるの。骨董品とか、伝統工芸品の最たるものなんだから」
お客「考えたけど、やっぱいいです」
店主「そんなこと言わないの。ご飯よそうから、ちょっと食べてみてよ。これで食べるとうまいんだから。はいどうぞ」
お客「もぐもぐ」
店主「どうです?」
お客「うん、確かにおいしい」
店主「でしょ」
お客「おかずは?」
店主「お昼の余りものしかないけど」
出してくる。
お客「うんうん、これで充分」
店主「ならよかった」
お客「おしんことお茶を」
店主「はい」
お客「爪楊枝を」
店主「どうぞ」
お客「ごちそうさん。いくら?」
店主「六百八十円です」
お客「じゃあ、丁度で」
店主「ひいふうみい、確かに」
お客「また来まーす」
店主「ありがとうございましたあ」
お客「どうもねー」
青年が帰っていく。
店主「あれ?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。