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悪魔も恋していいですか?  作者: しみしみ
8/12

8話

「今、どこに向かっているんですか?」

「ポート・ビルビアだよ」

「ポート……港町、ですか?」

「そうそう」


 港、というのは聞いたことがある。

 大きな海という、湖より大きな水溜まりがあって、そこを渡る船という乗り物があるらしい。

 他の大陸との交流が盛んに行われる場所で、様々な国の特産品が売買される、とも。

 新しく知る場所の第一歩を、大事な人と迎えられるのは幸せなことだなぁ。


「でも、なんで港なんですか?」

「他の大陸に渡っちゃえば、追っ手もかなり減るかなって」

「なるほど……!」


 もう随分と歩いてきた。

 多民族国会ミーグの城下町をでて、林を抜けて、襲撃されて。

 それからも何度か魔族による襲撃があったが、ルーさんの自然魔法でなんとか難を逃れてきた。

 いくつもの夜を越えて、何度も助け合って。

 出会った頃に感じた、好きっていう気持ちと、もっと思い出を紡ぎたい、そして今ある思い出をたまに引き出して笑いあいたい。

 そう思えるようになった。


 それでもまだ、恋人繋ぎまでしか進展してないのは、ちょっと遅すぎるだろうか。

 でも、遅いっていうのは世間一般とかいう私達には関係のないものさしだから。

 二人で少しずつ、時間を重ねればいい。

 そうやって今日も共に歩みを進めるのだ。


「この先に村があるね」


 指差す先には村なんて見えなかった。

 どこですか? と訪ねると、探索魔法で確認したから、まだ目視はできないかな、と返された。

 本当に、ルーさんは探索、自然、治癒と冒険や旅に向いた魔法に適応があるんだなぁと感じる。

 だが私だって負けてない。

 夜の火起こしは私の炎魔法でするようになったし、ルーさんの魔力じゃ治癒できない傷も私なら治癒できるから。


「なんか変だな……」

「なにがですか?」

「やけに人の数が多い、そんなに大きな村じゃないのに」

「探索魔法って人もわかるんですか」

「まぁ、見ようと思わないと見えないけどね」

「へぇ」


 ほんと、便利だなぁ。

 と思った刹那。


「助けてーーーー、誰か、誰かっ!!」


 村が目視できる距離になった途端にはっきり聞こえた誰かの叫び声。

 その言葉の後にすかさず、悶え苦しむ声が辺りに響きはじめた。

 ただ事ではない。

 私が走って向かおうとすると、ルーさんは腕を掴んで私の歩みを止めた。


「なんで止めるんですか!」

「あれは魔女狩りだ、間違いない」

「魔女狩り?」

「なにか事件があったとき、魔女のせいにするのさ、もっとも、ここでいう魔女は本物じゃない」

「本物じゃないって……どういうことですか」

「魔女、ってことにするんだよ、適当な人間を」

「そんな、ひどい!」

「そうやって魔女に怒りをぶつけさせて、身内で争いが起きないようにするのさ」

「でも……!」

「きっと村人は怒り狂ってる、人の数からするに他の村と揉めたんじゃないかな」

「……っ」

「今行っても私達に怒りをぶつけにくるだけだ、ここは迂回しよう」

「……っ、はい」


 確かにその通りだ。

 今から向かったところで叫び声の持ち主は助からないし、無駄な争いを生むだけだ。

 でも、そんな残酷なことって。

 今まで私が生きてきた世界がぬるかったの?

 目の前で苦しんでる人がいるのに、助けられないの?

 そんなのって、ないよ

「サキ、人の強さってのは魔力の高さでも身体能力の高さでもない、どれだけ冷静にいられるかなんだよ」

「……」

「人間ってのは感情をもってる、だからそれを飲み込めなきゃ、感情に飲まれるのさ」

「わかります、わかりますけどっ」

「大丈夫、サキは間違ってるわけじゃない」


 ぽん、と頭に手を乗せるルーさん。

 その温かさに、自分の弱さに、涙がぼろぼろとこぼれだした。

 はじめて、ルーさんの前で泣いた。


「大丈夫だよ」


 ルーさんは私を柔らかく抱きしめた。

 私が泣き止むまで、ずっと大丈夫、大丈夫と声をかけて、抱きしめていてくれた。


 なんであなたは、そんなに強いんだろう。

 私が教 襲われた時も、躊躇なく私の前に飛び込んできて、太刀を受けた。

 そんなの、私怖くてできないよ。

 一緒に生きてきて、はじめてルーさんとの強さの差に気づかされた。


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