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悪魔も恋していいですか?  作者: しみしみ
2/12

2話

 確か、あの男の人と出会ったのはここだ。

 だがそこにはなんの痕跡もなく、土と、落ち葉が残っているだけだった。

 まぁ仕方ないか、そう思って帰ろうと思った。

 だけどなんでなんだろう、もしかしたらっていう都合のいいハッピーストーリーが頭のどこかにあって。


 気づけば、空気の匂いが変わっていた。

 空の色はじんわり橙、藍と色を重ね、木々の囁きが鮮明に引き立つ時間。

 もう帰らなきゃ。


 歩いていると、あの人とは二度と会えない気がして、涙がぐーっと込み上げてくる。

 しかしそれも一瞬のことだった。

 木々の隙間から柔らかい光が見えた。

 ここはまだ、家の近くではない。

 なにかあったのか、と近づくと、そこには。


「やっと会えたね」


 あの金髪の男の人が、焚き火をしていたのだ。


「な、なんでここに」

「ここにいれば会える、そんな気がしたんだ」


 なんてロマンチックで心に響くことを言うのだろうか。

 私は一歩、また一歩、と近づき、男の横に腰をおろす。

 この距離が、今の私達の心の距離なんだろう。

 遠いなぁ、いややっぱり近いかもな。

 私は下を向いたままだったけど、視界の端でこちらを向いている男の姿がちらつく。


「この近くに住んでいるの?」

「……そう、です」

「そっか、……これよかったら」


 差し出されたコップの中には、赤い液体がはいっていた。湯気を立て、甘い香りが鼻をくすぐる。


「飲まなくてもいいよ、そういう警戒心は大事だから」

「……いただきます」

「ありがとう」


 恐らく、私に心をゆるしてくれてありがとう、

 の意味だろう。

 飲む前に、目を横にちらっと向ける。

 目があった。

 どうしたの? というように首をほんの少し傾けてから目を細めて笑う男の顔は、心地よい安心感をくれた。


 コップに視線を戻し、口をつけ、ずずっと口にする。

 甘さが口に広がり、後からささやかな酸味が追ってくる。

 美味しい。


「口に合うみたいでよかった」

「あの、あのっ、名前を聞いてもいいですか」

「私かい? 私はルークス、君は?」

「私、……サキ」

「サキ……うん、君に似合ういい名前だね」


 サキ。

 いままで生きてきた中でなんども言葉にして何度も耳にした言葉なのに。

 なぜこの人の口からでたサキって響きにはドキドキしてしまうのだろう。


「なぜここにきてくれたの?」

「たまたま……です」

「そっかそっか、運命みたいだね」

「……っ、そう、ですかね」

「うん、運命だよ、きっと」


 男は顔を少し近づけてきた。

 胸の主張が激しさを増していくとともに、心の余裕がどんどん無くなっていく。


「な、なんでこの森に?」


 余裕のなさと、空気を遮るために発した一言。

 なんで空気を遮ろうと思ったのか、自分でもわからない。

 このままが心地いいわけではなかったけど、いつまでも続いてほしいと思っていた。

 不思議だ、この感情はなんだろうな。


「ちょっと、旅をしててね」

「そう……なんですね」

「うん」


 私の右手に、男の左手が触れた。

 あっ、と声がでる。

 同時にすぐに手をひっこめた。


「ごめん、嫌だったかな」

「そうじゃない……ですけど」


 ですけど、なんだよ自分。

 私ですらわからない何かが、これ以上の関係を拒もうとしている。

 私にとって、この人とこれ以上の関係になることは嫌なことではない。


 でも。


 私は。


 悪魔族だから。


 きっと迷惑をかけてしまう。

 だから、これ以上は。

 ぐっと感情を殺すと、苦しさが増す。


「なぜ、自分の心を殺す必要があるんだい」

「えっ……」


 全てをわかっているかのような彼の言葉に、私はまるで運命の相手だと思ってしまって。

 胸の内を、話そうと思った。


「私、あなたのこと好きです。今日もあなたに会いにきました……っ、でも私は悪魔です、あなたに迷惑をかけてしまう、だから」

「だから?」


 私は黙りこんでしまった。

 だから、関係を切りたいですなんて。

 言うべきなんだろうけど、そんなの嫌だよ。


「私、一言でもあなたに迷惑ですって言ったかな?」

「……いえ」

「私への好きは、その程度で殺せてしまう程小さいものなの?」


 がつん、と殻を割られたような気持ちだった。

 そんなわけない、そんな程度ならこんな遅くまであなたを探したりしない。


「……いいんですか」

「いいのよ、私は」

「の、よ?」

「……よく間違われるんだけど、私男じゃないよ?」

「そう、なんですね」

「嫌になった?」

「全然です」

「よかった」


 この好きは、あなたが男だからとか女だからとかではない。あなたがあなただから好きなんだ。あなただからなんだ。

 考えるまでもなく、私は答えを口にして。

 今度は私から手を伸ばして、触れた。


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