転生令嬢、乙女ゲームの概要に初めて触れる。
情報整理の為にも紙に書くか、という兄様の言葉に紙とペンを用意して再び兄様の対面に座る。そしてそのまま兄様の前に差し出すと、受け取った兄様が何やら書き出し始めた。
「さて……じゃあ何処から話すかな。ゲームの名前は……『恋の秘密を貴方と』。俺も比較出来るほどこの手のゲームを知ってる訳じゃねぇが、スタンダードなタイプの乙女ゲームだと思う。平民から男爵令嬢になったヒロインが、貴族専用学校に入学する所から話は始まる。」
そう言いながらゲームの名前を書いた兄様が、私の用意した紙に様々な名前を書き出し始めた。その中に見知った意外な名前がある事に少し驚きつつ、口に出しそうになるのを堪えてじっと兄様の手元を見詰める。
暫くの間無言で色々な名前を書き出していた兄様だったが、知ってる名前も知らない名前も混じったその文字の羅列を書き終えると、おもむろに1番上に書いた名前を指さした。
「……ヒロインの名前はデフォルトで『リリーシア=ノエル』、本来のヒロイン像は明るくめげない、守ってあげたくなるタイプ。まあ、今の『リリーシア』との共通点はめげない、位かも知れねぇな。」
少し可笑しそうに笑った兄様に、苦笑を返す。そう言えば、昔お茶会で見た『ロセ様に接するリリーシア嬢』の様子が、正にそんな感じだった。
……まあ、あの段階で既にロセ様にはリリーシアの中身はバレていたのだけれども。
「攻略対象は5人プラス隠しキャラが2人。それぞれにライバルキャラとして婚約者が設定されてる。まあ、ロセを生徒会長に、副会長、書記、会計、あとは生徒会に反抗するライバルキャラとして不良っぽい奴が1人だな。この辺は昔お前がロセに捕まったお茶会に招待してたヤツらなんだが……まあ、あの時はすぐに部屋に退散したらしいから、顔は合わせてねぇだろうな。」
「そうね。……リリーシア嬢のお陰で直ぐに退場する羽目になったのよね……懐かしいと言えば懐かしいわ。」
あの時、会場の隅でリリーシア嬢に絡まれて、突き飛ばされて。これ幸いと退場しようとして、ロセ様に捕まったのだ。
「まあ、この4人に関してはこの頃から同行を探らせて居るが、リリーシアに選ばれなかった所為か、この時もこの後も特に特筆する問題は起きなかった。在学中はリリーシアに惚れては居たみたいだが……リリーシアが選んだのがロセだったからな。大した影響は現在を含めても起こっていない。」
「その点は兄様と一緒ね……。」
「ああ。この点から見ても、リリーシアに選ばれなかった攻略対象には、大して影響が及ばないと言う事が分かる。」
兄様がそう言いながら、生徒会メンバーと思しき名前の部分に大きなバツをつける。監視はしているがあまり関係ないメンバー、と言った所だろう。
「攻略対象は残り2人。まあ1人は俺だな。2週目以降に解放される王太子『ルカ=リヒト=クロージア』。そして俺に対しての影響もほぼ無いと言って良い。まあ既に結婚してるしな……そして、残りは1人。」
自分の名前にバツを付けると、残り1人の所をコンコン、とペンで叩く。そこに書かれてい名前は先程私が内心驚いた、意外な名前だった。
「……隣国の王太子『エドワード=クレイグ=カラント』。コイツについては雛の方がよく知ってるだろ。」
「知っているけど……あの当時エドは10歳よ?攻略対象になるの?」
「ああ。俺が出てくると、俺の妻となるセレスティアが城に現れる様になる。そのセレスティアにカラントからくっ付いて来るのが、エドワードだ。2週目以降に攻略出来る、姉離れ出来ない我儘な少年。まあ、俺には良く分からんが一定以上の人気があったらしい。」
「でも、エドを選んだとしてエンディングはどうなるの?乙女ゲームって結婚が目標なんでしょう?」
「お前の知識も相当偏ってるなぁ……。」
疑問を口にした私に、兄様がそう言って笑う。
しょうがないじゃないか、ゲーム自体した事が無いのだから。小説に出てくる乙女ゲームは、結婚が目的の場合が多かったから、自然とそう思ってしまったのだ。
「まあ……このゲームに関してはあながち間違ってねぇけどな。エドワードを選んだ場合は、俺とリアの婚姻が成されたのを切っ掛けにエドワードは自国に戻るんだ。将来結婚出来る歳になったら嫁に貰いに戻って来るから、と約束してな。」
「それって……エドが成人したら、だから……丁度今の年代って事……?」
「ああ。図らずともそのタイミングでエドワードがクロージアに来る。しかも城にはリリーシアが居るんだ、出来すぎだろう。」
「そうね……。偶然……で片付けるにはちょっと……」
リリーシア嬢とエドがそれ程の接点を持つとは思えないが、偶然だろう、で片付けるには少し出来すぎている。それでも現状これ以上考えた所で、新しい情報が出てくる訳でも無い。エドの名前に三角印を付けた兄様が、次の名前に進む。
「ロセの部分は……まあ言わずもがな、だな。攻略対象としてリリーシアに選ばれたからなのか、影響は計り知れない。もう誰も覚えて無くてもおかしくない『ファーストダンス』の件が未だに払拭出来て無いのを見ても、かなりの影響があると思って良い。」
兄様の言葉に、無言で頷く。
大体、2回踊った位の話が10年も引っ張られてる事自体が異常なのだ。そして誰もそれを疑問に思っていない事も。そこにはやはり人知を超えた力が働いている様にしか思えなくて、知らず知らずのうちに溜息が漏れた。
「……他の攻略対象のライバルキャラは影響が無い上に、特に変わった事は無いから除外して……最後。お前だ、雛。」
そう言いながら兄様が指さした所に書かれた名前、『フィルリア=アルフリア=リンドノート』。
私が知ってるのは悪役令嬢で、ロセ様の婚約者で、最終的に国外追放される事位だ。
「フィルリアは、幼い頃から国母となるべく王宮で教育を受けた、生粋の公爵令嬢だ。冷静沈着、品行方正。あまり感情を表に出す事が無いから、『氷の令嬢』と呼ばれて居る。ゲーム開始時の年齢は15歳。ロセの1つ下で、リリーシアと同い年。……この時点でお前とは違うな。」
そう言った兄様の言葉に、内心驚く。確かに昔リリーシアに何故小さいのか、と言われた事はあったが、あまりそこは気にして無かった。やはり本来であればロセ様と一緒に学園に通っている歳だったのか。
「正しく幼馴染み……と言うやつかしらね。」
「そうだな、年齢と城で殆ど過ごしていた事を考えるとそう言えるだろう。……ただな、環境は大分違うんだ。」
「環境?」
兄様の言葉に疑問を口にすると、苦笑が帰ってくる。
その顔に何処か含みを感じて首を傾げるた私に、兄様は苦笑を浮かべたまま話を続けた。
その内容は、私が想像していたより、私自身と掛け離れた物だった。
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