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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
16歳、隣国篇
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転生令嬢、婚約者と共に帰国の日を迎える。

 



その後、エドと別れて部屋に戻った私に、ロセ様は何も聞かなかった。


ただ笑って、最近覚えたんだよ、なんて言いながら器用に紅茶を入れてくれた。正直すこし渋みの残る、侍女ほど美味しいとは言い難いお茶ではあったけど、その温かさに思わずほっと息を吐くと私を見て、笑って私の頭を撫でて下さった。


何でも無かったかの様に2人でお茶を飲んで。

その日は、それでお終い。





そうして慌ただしく過ごす間に、出発の日は直ぐにやってきた。


9年間過ごしたがらんとした客室に僅かな寂しさを感じながら別れを告げ、ロセ様と合流してクロージアの馬車に向かう。一緒に来た文官の方々は既に帰国しており、この馬車で城から出るのは私とロセ様だけだった。


荷物は既に馬車にある為、お互いに旅行用の軽装で城の廊下を歩く。普段はヒールの音を響かせていた足元は、皮のブーツになっている所為か何の音もしない。そんな所にも僅かな寂しさを感じた事に気付いて、自嘲気味な笑みが浮かんだ。


「……やっぱり、寂しい?」


私の表情を目敏く見咎めたロセ様が、苦笑いの様な表情を此方に向けて来た。その瞳が不安そうな色を含んでいる事に気付き、頭を振って否定の意を伝える。それでも不安そうな表情が変わらない事に此方も苦笑いを浮かべながら口を開く。


「いえ、そう言う訳では無いのです。感傷的な気分になっている事は確かなのですが……だからと言って此処に留まりたい、と言う訳でも無い。なんだか、複雑な気分ですね。」

「……ああ……何となく、分かるよ。長く過ごした場所って言うのはそれなりに愛着も増えるからね。郷愁というか……まあ、説明し辛いと言うのは理解出来る。」


私の言葉に苦笑いを浮かべたまま同意の言葉を口にするロセ様に、頷いて肯定を示す。


そう、残りたい訳では無い。でも、前世の記憶を取り戻してからの殆どをこの場所で過ごしたのだ。何となく故郷の様な、実家の様な気持ちを感じている事は否めない。


「……大丈夫?」


そっと私の頬に手を伸ばして顔を覗き込んで来たロセ様に、ええ、と言葉を返しながら笑顔を向ける。確かに郷愁の様な気持ちを感じては居るが、それでロセ様に不安な気持ちを与えてしまうのは本末転倒だ。それに此処で不安を感じて立ち止まる訳には行かない。


私が居たい場所は此処では無い。エドの好意も、この国の陛下との関係も、何もかも断ち切った上で私が居たい場所は、ロセ様の隣なのだから。




自分を弱らせていた気持ちを切り替える為にゆるりと頭を振ると、笑みを浮かべたまま意識して明るい声でロセ様に声を掛ける。


「ロセ様、戻ったら忙しくなると思いますわ。」


笑みを浮かべたまま私が口にした言葉に、ロセ様がきょとんとした表情を浮かべた。唐突に告げられた言葉に着いていけない、と言ったその顔が可笑しくて、くすくすと声を出しながら笑う。


「だって、婚姻を結ぶまであまり日がないのでしょう?私、先日まで結婚するなんて思っても見ませんでしたので、私自身何の準備もしておりませんの。だから、やる事が山積みですわ。例えば、高位貴族の方々への根回しですとか。」


にこりと笑ってそう言ってやると、一瞬驚いた顔を見せた後、ロセ様が表情を崩して笑った。


「本当に……フィリアには適わない。」

「あら、私これでも情報収集は欠かしておりませんでしたのよ?クロージアで私の立場がどうなっているのかくらい、推察出来ておりますわ。」

「そっか……うん、まあフィリアだもんね。本当は戻ってから全部説明しようと思ってたんだけど。」

「ご説明頂けるのは有難いですけれども、その前に自分で把握出来る事はしておきたい性分ですの。……可愛げが無いとお思いになられるかも知れませんが。」

「いや?それでこそ、って感じだ。どうやら見縊(みくび)ってたのは俺の方だ。……ごめんね?」


そう言って笑ったロセ様に、此方も笑みを浮かべたまま頷く。


「そうですわね。このくらい強かでいないと、どうやらロセ様と婚姻を結ぶ事も難しい様ですし。……ロセ様、今更逃げられませんわよ?」


覚悟して下さいませ?とウインクを浮かべて問いかけると、一瞬の間の後、ロセ様が堪えきれない、と言った表情で笑った。


「……っふふ……っホントにもう……適わないなあ……」


本気で楽しそうなその顔に、此方も自然と笑みが深くなる。




兄様の手紙を読んだ後、ずっと考えて居た。


ロセ様は過剰に私の事を守ろうとしてくれているけど、それに甘んじるだけで良いのだろうか、と。


確かにこの国に対する処置やエドとの婚姻の件に関しては私の出来る事も少なかったし、私が出て行って良い場面では無いと思っていたので、守られる立場に大人しく座って居た。


でも、クロージアに帰ってしまえばその立場に甘んじて居るだけでは駄目なのだ。


特にリリーシア嬢の件に関しては、私自身が動かないとダメだ。そうでなければ、また思わぬ方向に話が転がって行きかねない。守られる立場に甘んじていて意に沿わぬ方向に進んでしまった場合、私は後悔するだろう。だから、2人で幸せになる為には自分から動かなければ。そしてそれをロセ様にも、理解して貰う必要があるのだ。


「ロセ様、一緒に幸せになる、と言うのであれば片一方に寄り掛かる様な事は出来ません。2人でしっかりと立って、そして2人で歩まなければ。だからこそ、私は自分で動ける事は自分で動きたい。危険があればきちんと相談するとお約束します。何か不安があれば話し合えば良い。今までとは違って近くに居るんですもの。それが出来ない筈が有りませんわ。」


にこりと笑って口にした言葉に、ロセ様が笑顔のまま頷く。


「そうだね、その通りだ。……余りにも君に逢えなかった所為で、余計に気を回し過ぎて居た。本来であれば手を組む位の気持ちで居たって良い筈なのに。フィリアとならそれが出来ると分かっていた筈なのに、過剰に君を守ろうとしてしまった。………うん、クロージアに帰ったら全部、話すよ。そして、相談しよう。2人でどうすればより良い結果を得られるか。」


笑いながら言ったロセ様の言葉に先程までの不安の影は見えなくなっていて、それまでお互いに僅かに遠慮があった事が伺えた。


話すら出来なかった今までとは違うのだ。

リリーシア嬢の事だって、周囲の貴族達の事だって、2人で話し合えば今までとは違った結論だって出てくるだろう。


「……宜しくお願いしますわ、私の婚約者様。」


そう言って笑ってやるとロセ様が楽しそうに笑いながら既に定形、と言ってもいい続きの言葉を口にした。


「こちらこそ、宜しくお願いしますよ。俺の婚約者殿。」


そう言って笑いながらどちらともなく手を繋ぐと、行こうか、と言うロセ様の声を合図に、馬車寄せまでの道を歩いた。



今度こそ、郷愁も寂しさも全て、置き去りにして。





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