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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
16歳、隣国篇
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昔話は、感謝と愛情と共にやってくる。

 



「足元、気をつけろよ。」


 庭園まで出ると、エドがそう言って私に向かって手を差し出す。

 エスコートの為に出されたそれにそっと手を添えると満足げな笑みを浮かべ、そのまま庭園の奥に向かって歩き出した。


 昔、どうしても辛くてしょうがなくて、他の誰の目にも触れたくなかった時、私はこの庭園の奥に逃げ込んで居た。

 そんな時、必ず探しに来るのはエドだった。普段は王太子としての勉強から逃げ回っていた彼だったが、私が何処かに隠れていて居ると知ると、必ず探しに来てくれた。


 今思えば王太子殿下にさせる事では無いとは思うが、それでも当時自分の味方が誰も居ない様な状況で彼が親身になってくれた事は、紛れもなく救いだったのだ。


「……何か、懐かしいな。」


 歩きながらぽつりと落とされた言葉に、エドの顔を見上げる。


 ここに逃げ込んで居た頃は同じ様なら目線の高さだったのに、もうこうやって見上げないと視線が合うことすら無い。その年月の長さに僅かに寂しさを憶えながら、エドの言葉の先を待った。


「ホントはさ、もっと色々と話そうと思ったんだよ。アイツに邪魔されないでこんな風に話せる事なんて、これから早々無さそうだし。……でも、色々考えてるうちに何を話して良いのか分からなくなった。」

「エド……」

「だからさ、一つだけ、聞かせろよ。」


 そう言って立ち止まったエドの視線が酷く真剣で、その瞳から逃れられない。思わず詰めてしまっていた息をそっと吐いて、エドの紫紺の瞳と視線を合わせた。


「……なに?」

「うん……リアは、今……いや、これから、幸せになれると思うか?」


 僅かに口篭りながらそれでもきっぱりとした口調で問い掛けられた問いに、思わず困った顔で首を傾げる。


『幸せになれるか』


 そう問われた所で、私には判別出来ない。勿論ロセ様にあれだけの啖呵を切った以上、2人で幸せになりたいとは思う。


 しかし、ロセ様が来てから怒涛のように過ぎた日々が少し落ち着いてふと考えてみると、『強制力』の文字が頭を掠める。

 まだクロージアに居た頃、兄様と少し話した事がある。この世界における強制力は、どこまで有効なのだろうか、と。


 実際の所同じ攻略対象である筈の兄様とロセ様に対する強制力の働き方はかなりズレて見えたのだが、ここ数年兄様からの手紙が途絶えていた事すら何か他の意味がある様にも感じられる。


 情報が何も無い中悩んだところで答えなんて出ない事は分かりきって居るのだけれども、それでも考えずには居られない。


 結局『強制力』とは何なのだろうか、と。


 ゲームと同じ筋道を辿らせたいのであれば、ゲーム修了時期からかなり経っているのだから、既にその影響は無くなっていなければおかしい。それでも未だ影響が出続けているのだとしたら、他の要因があると考える方が自然だろう。


 それとも突拍子も無い話だが、兄様が昔クロージア王家は女神の加護が働いて転生者が多いと言う言い伝えがあると口にしていた通り、神や女神と言った神話の様な存在が居ると言う事だろうか。しかしそうだとすると本当に途方も無い話で、それが事実だったとしても対処法なんてどう考えても分からない。それこそ本当の意味でお手上げだ。


 でもだからと言って、ロセ様に宣言した以上幸せを諦める訳には行かない。私の事以上に、優しいあの人に、幸せになって欲しいと心から願ってしまったのだから。



 そこまで考えて、目の前でじっと私の答えを待っているエドに意識して笑みを向ける。


 お茶を濁して答えたい気持ちは、勿論ある。

 本当は先行きなんて分からないし、不安でいっぱいだ。

 それでもエドには私の答えをきちんと説明しなければならない。


 それは、この国でずっと味方で居てくれた、彼に対する私の最大限の誠意だ。


「……ロセ様がこの国に来てくれて、傍に居てくれ、私は今幸せだと思うわ。そして、この先出来れば2人で、幸せになりたい、と思う。」


 転生者についての話題はクロージアの国としてのトップシークレットだ。私がおいそれと他国の王太子に話す訳には行かない。

 それを省いた説明ではあるが、これが今私がエドに伝える事の出来る精一杯の答えだった。


「……そっか。一応聞いておくが、そこに俺の入る隙間はあるか?」

「ごめんね、エド。私が好きなのはロセ様で、幸せになろうがなれなかろうがそれは変わらない。」

「それが例えばお前が不幸になる道だったとしてもか?」


 苦々しい表情でエドが吐き出した言葉に、更に意識して笑顔を向ける。それこそ不幸な結末なんて、この数年間ずっと考え続けて来た。それでもロセ様がこの国に来てくれて一緒に帰ろうと言ってくれた時、私はどんな結末であろうとその手を取ると決めたのだ。


「……うん。エドが言ったのよ?自分の気持ちは自分だけの物だって。それと同じで、私の気持ちは私だけの物で、それは環境によって左右されるものでは無いの。幸せになれるなんて断言出来る訳では無いけれども、それでも不幸になるかも知れないなんて曖昧な物の為に手放す事なんて、しないわ。」


 一言一言区切るように伝えた言葉に一瞬顔を伏せたエドだったが、次の瞬間には切り替えるかのように顔を上げると私に笑みを向けた。


 いつもの人好きのする、エドらしい笑顔で言葉を紡ぐ。


「……うん。分かった。それなら、俺はお前の道を応援しよう。アイツは確かに気に食わないけど、信用に足りる人物だとは思ってる。リアの事を任せても大丈夫だと思う事も出来る。……まあ、本音はまだ納得行かないけど……それでもそれがお前の幸せなんだって言うんなら、俺は応援するよ。」


 にっこりと笑いながら口に出された言葉に、思わず涙が溢れそうになるがぐっと飲み込む。


 泣くな。今泣いていいのは、私じゃない。


「……ありがとう、エド。」


 辛うじてそれだけ口にした言葉に、エドが笑みを深くする。

 そのまま私の頭を撫でて、視線を合わせながら言葉を繋げた。


「おう。……いいか?それでも不幸になるなんて事は許さない。もしどうしても、クロージアで何かあったらいつでも戻って来い。……これは兄からの命令だからな。」


 昔この庭園で自分の事を兄だと言った言葉と掛けて居るのだろうか。懐かしい物言いでそういったエドがぽんぽん、と私の頭を撫でて笑う。


 その言葉にまた涙が出そうになるが、それでもぐっと飲み込んで頷くことで肯定した。



 そんな私の様子を見たエドは再び満足そうに、笑った。



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