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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
16歳、隣国篇
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閑話.君が手を伸ばす先にあるものは 4

 



「クロージアの第2王子と王太子が来ていた?」


 自室に篭もりがちだったリアを無理やり避暑地へ連れ出し、数週間後に戻った俺が聞いたのは耳を疑う様な言葉だった。


「ええ。同盟国への公式訪問と言う事で急遽決まったそうで…ご存知ありませんでしたか?」


 そう言って首を傾げる家庭教師に、ああ、と生返事を返す。その後も何やら言っては居たが、俺の耳にはもう彼の言葉は入ってこなかった。


 それにしても、間が悪い事この上無い。


 俺達が城に居ない時にわざわざ来なくても良いだろうに。それともそれを狙って来たのか、とも思ったが、公式訪問なのであればその線は薄いだろう。偶然そうなった、と思うには余りにもタイミングが悪過ぎて寧ろこっちが避けたと思われていそうだが、こちらには避ける様な理由なんて無いのに、勝手にそう思われたらそれはそれで腹が立つ。


 そこまで考えて、小さな違和感が頭を()ぎる。

 何だろう、と首を傾げてみるが、幾ら考えてもその正体には思い至らず結局そのまま思考から外した。


 そんな事よりも、この話をリアは知っているのかどうかだ。


 あれだけリアが連絡を取りたがっていた彼等が、この城まで来たのに伝言の1つすら残して行ってくれないなんて向こうはそれ程会いたいとは思っていないと言う事だろうか。

いや、もしかしたら本当に、親父達が俺の返事を待たずに既に婚約解消の要請を送っていたのかも知れない。


 そうだとしたら余計に、絶対にリアには彼等が来た事を知らせたく無い。何せ避暑地で色々連れ回したお陰でやっと少し笑う様になってきたのに、そんな事を知ったら又塞ぎ込んでしまだろう。


 婚約解消自体は歓迎だけれど、これ以上リアの顔を曇らせたくは無かった。


「……様子伺いに行ってみるか…。」


 結局教師の話なんて最後まで耳に入って来ないまま、授業は終わってしまった。この後は時間に余裕があるし、お茶がてら訪れても構わないだろう。


 そう自分に言い訳しながら廊下に出ると、侍女にお茶を用意する様に申し付けてからリアの部屋へ向かった。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「それでわざわざお茶を飲みに私の部屋まできたの?」


 少し呆れた声でそう言われ、思わず苦笑が漏れる。


 数年前に口調を指摘してから暫くは堅苦しいままだったが、今ではすっかりリアの口調は気安い物へと変化していた。

 他の人間の前では以前の口調と同じなので、俺だけ特別だと言われている様で少し嬉しい。


「いや、だって帝王学って必要なんだろうけど俺の思考と合わないんだぜ?そんなの勉強したってつまらないに決まってるじゃないか。」


 教師の説明がつまらなくて惚けていたら授業が早く終わったからお茶を飲みに来た、と言う言い訳を信じたリアに突っ込まれながら返答を返す。実際帝王学の事は嘘偽り無い真実なのだけれど、今日に関しては違う理由だと言うことは隠しておきたかった。


「だからと言って学ばない訳にも行かないでしょう?エドが思っているより沢山の人間が、貴方が将来王となる事を期待しているんだから。」

「期待ねえ…。」


 いちいち的を得ているリアの発言に、何となく反抗的な返事を返す。実際はリアの言う通りだとは思うのだが、どうにも素直に頷く事が出来なかった。


「私だって貴方が立派な王になるのを期待しているんだから、期待を裏切らないでね。」


 不貞腐れた様な表情を浮かべた俺に、リアが笑いながらそう口にした。それはずっと俺の隣で見ててくれるのか?と言う問いが喉元まで出掛かったが、内心慌ててそれを飲み込む。そしてちらりとリアを見遣れば、俺の態度を不思議そうに見詰める空色の瞳と目が合った。


 然しリアの様子を見る限り、彼等が来た事はまだ知らないらしい。


 知らないなそのまま知らないままでいて欲しい、なんて思いながら、未だ不貞腐れている風を装って紅茶を啜る。また凹んで俺とすら余り会ってくれなくなるよりは、まだ少し辛いのかも知れないけどこのまま少しずつ回復しながら過ごして行って欲しかった。


「…まあ、リアが期待してくれてるならしょうが無い、ちゃんと勉強するかな。」


 言外にリアが特別だからと匂わせて返事をするが、彼女は何故か自分が好かれる事を想定していない様で、意外とリアには伝わらない。こんなに何でも出来て容姿だって周りに比べて抜きん出ているのに、何故か彼女は自己評価が相当に低いのだ。


 この間の夜会だって、リアと親しくなりたい奴らに随分と取り囲まれて居たのに、俺と繋がりが欲しい為にリアに言い寄っているのだとかなり間違った解釈をしていた位だ。


 この辺りの自己評価の低さは、やはり例の婚約者の対応の所為なのかも知れない。幼い頃に婚約した相手がこの歳になるまで一切連絡すらして来ないとしたら、自分の価値に対して自信だって無くなるだろう。


 元来こんなに不安そうにしてなくても良い筈なのに、そんな彼女をここまで自信なさげにしてしまう婚約者に、腹が立つ。それでも婚約者の事に言及すると、決まって少し寂しそうな笑みを浮かべながら、それでも待つと口にするのだ。



 然しそんな姿を見る度に、思う。彼女が幸せになれるのは、本当に婚約者の傍なのだろうか、と。

 

 そんな時決まって親父の言った言葉がまた、頭の中をぐるぐると駆け回るのだ。


 婚約解消をして最初は辛くても、先を見れば俺の横で笑っていた方が、彼女も幸せんじゃないだろうか。

 いや、それでも彼女が待つと言っているのにそれを無視してきまうのはどうなんだろう。


 そんな考えが代わる代わる頭の中に現れては消えていく。



「…エド?どうかした?」


 先程から考え事をして黙り込んでしまっていた俺に、リアが遠慮がちに声を掛けてくる。見れば不安そうな瞳が俺の様子を伺っており、その様子に慌てて笑顔を向けた。


「いや、何でもない。…悪いな、やっぱり今日の授業が合わなかったのかな。自分でも思った以上に疲れてるみたいだ。」


 そう言って笑ってやると、俺の表情を見たリアが僅かに安堵の溜息を漏らす。この件に関しては自分の心が決まるまで絶対にリアには知られたくない。思った以上にきちんと表情が作れていた様で、内心自分でも安堵する。


「…大丈夫?熱とか無い?期待しているとは言ったけど、無理はしないでね?」


 そういいながら俺の額にリアがそっと手を伸ばす。熱を測ろうとしているのか、額に充てられたリアの手の体温が俺よりも低くて、さらりとした滑らかな感触と相まって何とも気持ちがいい。


「…大丈夫だよ。悪いな、心配掛けて。」


 本当は触れられた部分が熱を持つように熱くなって行くが、それを隠して笑顔を向ける。そんな俺の言葉に少し安心したのか、額に当てられた手がそっと離れて行った。


「本当に、無理しないでね。」


 そう言って微笑んだ彼女の顔に、隣にいて欲しいのか、見守るのかすら決められない、俺のどっち付かずの心が揺れる。


 それでも心の中に予感がある。

きっと俺は近い将来、彼女の事を手放せなくなって、結論を出さざるを得なくなるのだろう。


そう思った時点で負けなのだけれども、それでもまだ結論を出して彼女を勝ち取れる自信がなくて。




 結局その日はそれ以上話して居る事が出来なくて、何とか理由を付けるとリアの部屋を後にした。



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