周囲の誤解は、思惑と計算と共にやってくる。
本日100000PV達成しておりました…!
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薄いカーテン越しに、柔らかな朝日が部屋に満ちる。
ベッドの上に座ってぼんやりしていると、コンコン、と言うノックと共に私の支度の為数人の侍女達が入室してきた。
が、部屋の中を見た瞬間に全員もれなく固まる。
正確には私の横に座る人物を見て、だが。
おろおろと、どう判断した物かと言う視線が侍女達の間でさ迷うと、最後に1番偉いと思われる侍女長に視線が集中する。全員に見詰められた侍女長が軽く咳払いをした後、私の横に居る人物に視線を向けないようにしながら口を開いた。
「…フィルリア様、失礼致しました。後程再び御支度の為参りますので、1度失礼させて頂きます。」
何とか無表情を取り繕い、そう言った侍女長は立派だと思う。
意識して笑みを浮かべてええ、と返事を返すと、深く礼をした後全員が部屋の外へと去って行った。ぱたんと閉まった扉の向こうで、密やかな、しかし隠しきれていないきゃあきゃあと言う若い侍女達の声が聞こえる。その外からの 声に何となく、遠い目をしながら横に視線を向けた。
「おー、立派立派。動揺しても表に出さない辺り好感が持てるね。」
ベッドサイドに腰掛け、まだ夜着を着たままの私の髪を弄んでいた人物が、愉快そうに声を出す。
「原因が何を言っているのですか…。」
しまった、心で思ったつもりが思わず口から出てしまった。
横に居る彼は私の言葉を聞いて一瞬きょとん、とした顔をした後、楽しそうに笑いながら弄んでいた髪に口付けた。
「いや、流石に王宮内の侍女だよね。まあ多分他の子から伝わるとは思うけど、少しインパクトが弱かったかな。」
笑いながらそう言う彼の言葉に、呆れた顔を向ける。
そんな事は無い。あの反応が見えなかったのか。
そう思いながらちらりと横目で彼を見る。
少し首元が乱れた風に着られた白シャツとラフな黒パンツ。長い足を組みながら気だるそうに私の髪を弄んでいる姿は、彼女らからしたらさぞかし衝撃的だっただろう。
―――そう、ロセ様の思惑通り、昨晩私の部屋に泊まって未だ寛いでいた所、と思わせるには十分だった筈だ。
楽しそうにしている姿を見ながら、本当に良い性格してるなあ、と思うが今度はきちんと飲み込む。どうせ言った所で性格が変わる訳でも無いのだ、言うだけ無駄だ。
何はともあれ、これで目的は達成されたのだ。これ以上ここでこうしている必要も無いだろう、と思いロセ様に声を掛ける。
「あの、そろそろそこから降りて下さいません…?」
「ん?何で?」
心底不思議そうに首を傾げられ、思わず返す言葉に詰まった。
いや、そんな不思議そうにされても困る。
「何でって……」
「俺としては、もう少し眺めてたいんだけどね。寝起きのフィリアなんて滅多に見れるもんじゃないし。」
そう言ってにこりと笑うロセ様が、再び私の髪に口付けを落とす。微笑んで視線を合わせて来るあたり、恐らく揶揄う意図が含まれているに違いない。全く毎回毎回、いい加減此処で慌てるのも癪に障る。
「…いつまでもそんな事で照れると思ったら大間違いですわ。」
ちらりと睨みながらそう口にすると、再びきょとんとした顔をしたロセ様が楽しそうに破顔した。
「いいね、フィリア。いつもの照れてるのも可愛いけど、そう言う容赦のない感じ、好きだよ。」
「…左様ですか…。」
あ、これ、これ以上言っても無駄なやつだ。
嬉しそうに笑うロセ様に早々にそう判断して、これ以上突っ込むのを放棄した。しかし朝から元気だなぁ、とまだ寝起きのぼんやりした頭で窓の外を見ながら考える。
昨日ベランダに一緒に降り立ったロセ様は、勿論私の部屋に泊まった訳では無く、転移で自室に戻り朝方また転移で私の部屋に来ると言う荒業で侍女らに自身の姿を確認させた。
報告が上がるかは分からないが、少なくとも城の人間の中では私の部屋に婚約者が泊まった、と言う事が一気に広がるだろう。
それによりまあ、なんと言うか色々察して文句を言い出す人間が陛下以外にも居るに違いない。それが私をこの国に留めおきたい人間であり、クロージアに喧嘩を売った張本人だと言えるだろう。
私の羞恥心と評判が下がる以外はなんの問題も無い、冴えた手だと思う。
いや、評判は別に良いのだ。誰彼構わず部屋に入れた訳では無いし、部屋に居たのは婚約者だ。精々好奇心の篭った瞳で侍女達に熱く見つめられる程度だろう。
だがしかし、羞恥心は別だ。
先程は慌てるのも癪に障るし寝起きのテンションの低さもあり顔に出すのは堪えたが、色気を撒き散らしながら私の横で微笑んでいる姿に内心どきどきしっぱなしだし、本当にいい加減退いてくれないと朝から刺激が強すぎる。
恥ずかしいから退いてくれ、と大声で叫べればどんなに楽か。
叫んだ所で面白がられるだけなのだから無駄なのだけれども、それでも多少の抵抗を示すには何が効果的なのか。
ちらりとロセ様に視線を送ってみるが、未だ楽しそうに私の髪を弄んで居る姿に、内心溜息が出る。
多分どんな方法を取った所で結局面白がられて終わるだけなのかも知れない。
昨日本人に言われた通り、諦めるのが1番なのか。然しそれはそれで悔しいが、さて。
そんな風に答えの出ない事を考えながら、とりあえずこの人をどう追い返そうかと思案していると、急に部屋の外が騒がしくなる。
ロセ様も気付いたらしく、2人で顔を見合わせていると扉の向こうから制止する侍女の声と共に殴り付けるようなノックの音が響いた。その勢いに思わずびくりと身体を震わせてしまうが、相手はお構い無しに私の部屋の扉を乱暴に開けた。
「リア!お前、今あいつがこの部屋に泊まった…って…」
勢い良く責めるような声を上げたエドが部屋に入って来たが、同時に私とロセ様の姿を見咎め言葉を濁す。
あの、とか、えっと、とか顔を赤くしながら言い淀むエドにこちらの方が恥ずかしくなり、思わず顔が赤く染まってしまう。
なんだこれ、別に疚しい事は何も無い筈なのに、何でこんなに恥ずかしいんだろう。
そんな私を見てエドの顔が更に赤くなり、それが繰り返されると言うなんとも言えない悪循環に陥って行く。
そんな私達の姿を面白く無さそうに暫く見つめていたロセ様だったが、いつまで経っても状況が変わらない事にいい加減焦れてきたのか、エドに視線を向けていた私を徐ろに胸に抱き込んだ後、呟いた。
「お前…成人した癖にめんどくさいな、思春期か。」
呆れた顔で突っ込みを入れたロセ様に今度は違う意味で顔を赤くするエドを眺めながら、この後の会話を想像してまたか、と思い胸の中で溜息を吐くのだった。




