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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
16歳、隣国篇
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転生令嬢、王太子殿下とワルツを踊る。





「大丈夫、って言ったけど。」

「うん?」


ワルツを踊りながら小声でエドが話し掛けて来る。大丈夫、は先程の大丈夫、だろうか。首を傾げて先を促すと、苦笑を浮かべたエドが話を続ける。


「今は、国を優先してるだけだから。俺は諦めが悪いからさ、お前に言った言葉を取り消すつもりは無いよ。」


にこりと笑ってそう告げてくるエドに、思わず頬が染まる。ロセ様との話の時点で特に異論を挟む事が無かったからてっきりもう気持ちを切り替えたのだと思って居たのだが、まさかそんな風に考えていたとは思いもしなかった。


「…そんな事言うなんて思わなかった。」


辛うじてそれだけ口にすると、してやった、と言わんばかりの笑顔と目が合う。


「流石にやられてばっかりじゃ悔しいだろ。今回の事は此方が悪いし、それに関してはあいつの言う通りにするけどな。それでもお前の事を諦めるとは言ってない。…9年間の片想いだからな、そう簡単には諦めてやらないさ。」


エドはそう言ってにやりと笑いながらくるっと私を回した。


エドとは9年間、陛下の思惑もあり公私問わずほぼパートナーとして行動していた。それもあり、会話をしながらでも息をする様に自然に踊り続けてられる。今だって自然に踊りながらも甘さを含んだ瞳でそんな事を囁くのだ。

それに加えて、9年間も自分の事を思ってくれていたと言う言葉に頬が赤くなるのを止めることが出来なかった。



「……おぉ、怖ぇ。流石にそう簡単に隙は狙えないか。」


少し視線を外して居て見ていなかったが、急に様子の変わったエドの声に顔を上げると今度は苦笑を浮かべながらダンスの輪の外側に視線を向けていた。

それと同時にざわざわとした声と、少し浮き足立った様な雰囲気が辺りから伝わって来る。


「なあ、あいつ読唇術でもつかえるのか?すっごい笑顔で俺にだけ殺気向けて来て怖いんだけど。」

「ああ…断言は出来ないけど否定も出来ないわね。」

「…そこは否定して欲しかった。」


笑顔のまま明らかに気落ちした声で返すエドに苦笑が漏れそうになるが、そこはこちらも笑顔のまま乗り切る。ちらりと視線を向けると、知らない令嬢に囲まれて笑顔を向けるロセ様の姿が見えた。


昔1度だけ参加した夜会で見た光景と何となく重なり、少しむっとした気分になる。自分だってエドとファーストダンスを踊っているのに、とか、いやだってロセ様が踊れって言ったんだし、とか色々な言葉が頭の中に一気に広がる。そんな私の様子が珍しいのかエドが揶揄(からか)う様な視線を向けてきた。


「お前でもそんな風に焼き餅焼くんだな。珍しい物見たわ。」

「…うるさいわよ。」


表情は変わらないのに心底面白いと言った声で言われて、思わずイラッとする。たった今私の事を好きだと言ったその口で何故そこまで面白がれるのか、疑問しか感じない。

ちらりと僅かに睨みつけると、表情が崩れてるぞ、小声で囁かれる辺りがまた憎らしかった。


「エドが私をどう思ってるのか、全く分からなくなったわ。」


同じく小声で返してやると、耳元でくすくすと楽しそうに笑われる。その様子に幾ら睨みつけても無駄だな、と悟り表情を元に戻した。


「いや、だってお前がそんな風に表情変えるの本当に珍しいだろう。…本当にあいつが好きなんだな。」


笑いながらそう言われて、返答に困る。確かにそうなんだけれども、流石に今告白してくれた相手にそれを肯定するのはどうなのか。少し悩むような私の様子に、エドは笑顔のまま言葉を続ける。


「別にそれ自体は知ってるから、大丈夫だって。俺がお前を好きなのとあいつをお前が好きなのは関係ないからな。」

「関係ないの…?」

「ああ。前にも言ったけど、俺の感情は俺の物だから。諦めるのも応援するのも、俺が決めるさ。」

「……エドは物好きね。」


そう言ってやると、知ってるよ、と笑いながら言われすっかり毒気を抜かれる。もう、怒っている此方が馬鹿みたいじゃないか。


「ま、兎も角大変なのはこの後だな。気合い入れろよ。」


エドがそう言ったタイミングでワルツが終盤に差しかかる。


ちらりとロセ様に視線を送った所を見ると、このまま接触しに行くのだろう。相変わらず令嬢方に囲まれているロセ様を見て溜息を吐きたくなったが、エドの言う様に気合いを入れてぐっと堪えた。


最後のターンを終えてエドに向けてにこりと微笑むと、そのままカーテーシーで礼を取った。同じく礼をしたエドに周りから大きな拍手が起こり、それに応えて手を振るエドに手を引かれてその場から退場する。

向かう先の人混みにそのまま突入する事を考えると気が重くなるが、それでもエドの足は止まらない。

心の中で溜息を吐くと、気合いを入れ直して目的の人物の所まで足を進めた。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ロセフィン殿。」


にこやかな笑顔を浮かべたエドが声を掛けると、これまた爽やかな笑顔でロセ様がエドを迎えた。その様子にきゃあきゃあと密やかながら声を上げる令嬢方に少し遠い目になりながら、エドの後ろに控える。


「これは王太子殿下。こちらから挨拶に向かう所だったのですが、足を運んで頂いて申し訳無い。」

「いえ、ロセフィン殿はわざわざ私の為に来て下さったのです。此方から伺うのが当然ですよ。先程も式典に出て頂いていたのに、ご挨拶も出来ませんでした。」

「その様な事気にしなくて結構ですよ。改めて成人をお祝い申し上げます。…これでカラントもより良くなるでしょうね。」


2人でにこにこしながら進められて行く会話を、周りは熱い視線で見詰めている。しかし内情を知っているとどうにも会話の内容が素直に聞こえず、頭で補正される音声に映画の副音声の様だな、なんて思う。


「若輩者ですが、より良くなる様に努力させて頂きますよ。クロージアにも是非協力して頂けると嬉しいのですが。」

「ええ、それは勿論。今日は兄も来る事が出来ず残念がっておりましたよ。また是非ご挨拶に伺いたいと申しておりました。」

「それは有難い事です。是非歓迎するとお伝え下さい。」

「ええ、必ず伝えさせて頂きます。」

「宜しく御願いします。…ああ、申し訳無い。フィルリア嬢。」


親しげに話す様子にうっとりとした視線が集中する中、そろそろ存在を忘れられてそうだな、と思っていた私に急に声が掛かる。

その瞬間令嬢方の厳しい視線が私に集中して内心うんざりとした気分になるが、求められる私の役割を放棄する訳には行かない。


心の中で気合いを入れ直し、声を掛けてきたエドの横に1歩踏み出した。





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