転生令嬢、三者三様の会話に突っ込みを入れる。
「全く油断も隙も無いな。振られたんだから大人しくしてろ。」
どんな言葉が出てくるかと身構えていたら 思った以上の言葉を投げ掛けられたのだろう。すぱりと言いきられた言葉に思わずエドが固まる。
「おはようございます、ロセ様。その物言いはエドが混乱してしまいますので、もう少し柔らかい方が好ましいかと思いますわ。」
何となく、昔兄様とロセ様の会話がこんな感じだったな、と思いながら突っ込みを入れると、今度は笑みを浮かべたロセ様と驚いた顔をしたエドの視線が私に集中する。
「おはようフィリア。でも、俺がコイツに気を使う意味が無いと思わない?」
「意味が有る無いでは無く、相手との会話を成立させる為には必要な事かと。」
「そもそも人の婚約者に粉掛ける様な奴との会話なんて成立させる意味があんまり無いと思うんだけどね、俺としては。」
「そうですか。それでは最初から声など掛けなければ良いのです。会話をする意思が無いのに声を掛けるなんて、時間の無駄ですわ。」
「時間の無駄、は同意だけどね。フィリアが口説かれてるのに俺が見逃す訳無いでしょ?」
「……ちょっと待て。それがお前らの素か?」
会話が噛み合っている様で噛み合って居ない言葉の応酬を呆然と眺めて居たエドが、頭を抱えながら声を掛けてくる。どうにも理解出来ないものを見た、と言う視線が少し心外だが、素の自分だと言う事は間違いないので頷いて肯定する。
その間もロセ様はエドに睨め付けるような視線を向けており、こちらはこちらで全くぶれない。
「素だからどうした。人のもの泣かせた挙句まだ手を出そうとする人間が気軽に声掛けてんじゃねぇよ。」
「…え、ごめんリア。この人、昨日の人と同じ人だよな?物凄く口の悪い影武者とかじゃなく?」
「…残念ながら正真正銘クロージアの第2王子、ロセフィン様よ。ロセ様、面白く無いのは理解してておりますのでもう少し言い方を抑えて頂けません?」
「フィリアがそう言うならしょうがないね。…おいお前、フィリアと気安いからって調子乗ってんじゃねぇぞ。」
「言い方直ってないよな!?お前昨日口の利き方について俺に指導したばっかりじゃないか!」
「馬鹿かお前、あんなの公式の場の話に決まってるだろう。その位の事も分からないで良く王太子なんてやってられるな、逆に尊敬するわ。」
ぎゃあぎゃあと言い合いを始めたロセ様とエドを見ながら、大人気ないなぁ、と思いつつ紅茶を口に含む。この状態の人間は放置して傍観するに限る。原因が自分だなんて知った事か。巻き込まれるのは御免だ。
そんな様子を暫く眺めていて、ふと気付く。
恐らく付近には防音の魔法が貼られているのだろうが、それだけでロセ様がここまで素で対応するのは、私の知ってる限りでは珍しい。
この会話にも意味はあるのだろうか、とちらりとロセ様を見遣ると、まだぎゃあぎゃあと言っているエドから視線だけを私に向け見事なウインクを返された。25歳男性がウインクはどうなんだと言う点は賛否両論ありそうだか、この会話に意味がある事は確定の様だ。全く気付かずロセ様のペースに乗せられているエドに心の中で、ご愁傷様、と思う。
何せロセ様のこの表情を私は良く知っている。
完全に、ロセ様をからかいながら自分の有利な方向に話を持って行く時の、兄様の顔だ。
何となく遠い目をしながら、厄介な人間が増えたなぁ、と思わず現実逃避した私は多分、悪くない。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「…で?クロージアのお偉い『武の英雄様』が何なんだ。」
「お前、本当にその呼び方止めないと殴るぞ。」
「ロセ様、話が進まないのでその辺で。後、武力行使はお勧めしません。」
三者三様の発言の後、会話に疲れたエドが大きな溜息を吐いた。このままだと本当に話が進まないので、ロセ様をちらりと見遣り、視線で話の先を促す。
「…お前、今回のカラントの対応に何処まで絡んでるんだ。」
溜息と共に吐き出されたロセ様の言葉に、エドがぎくりと固まる。何せ今さっき聞いたばかりの話をその国の代表として来ている人間に問われているのだ、上手く言葉に出来なくても仕方ないだろう。
「…全て俺の責任だ。」
苦々しい表情でそう口にするエドを見ながら、ロセ様が再び大きな溜息を吐く。
「お前阿呆か。責任じゃねえよ、実際話に絡んでたかどうかを聞いてるんだ。」
「…調べれば分かった事だ。そこに俺の責任が無い筈が無い。」
「要するに、調べない限り分からない状態だった、って事だな?」
ちらりとロセ様に視線を向けられ、頷いて肯定して見せる。そんな私を見て、ロセ様も頷き返してくれた。
「いいか?この周辺には防音魔法と遮断の為の結界を貼ってある。今此処で何を言おうが、絶対に周囲に漏れる事は無い。その上で重ねて聞く。お前は、フィリアに対するこの国の仕打ちを知っていたのか?」
言い聞かせる様に区切って言われた言葉に、エドが一瞬言い淀む。結果として知っていた事はあるが、その時既に知っていたかと言われれば答えは否だ。それでも、そう答える事に責任を取るつもりでいた自分のプライドが良しとしないのだろう。
「…俺は、全ての事を知っていた訳じゃ無い。それでも俺の為行われていた事に対して責任は取らなくてはいけない、と思う。」
苦々しい表情でそう口から吐き出したエドに対して、ロセ様が呆れた表情で見詰める。その顔には少しの同情と憐憫が含まれていた。そして、呆れた表情のままエドを見て呟く。
「真面目か。」
「…ロセ様、そこでその発言はどうかと。」
「だって、フィリアもそう思わない?大体自分の為にって言うけど、元々企んで居たのはこの国の王だろう。コイツだって、子供の頃から利用されて居たに過ぎない。それがどうやって行われていたか、その方法すら知らない。それで全ての責任を自分が背負う、背負える、なんて思い上がりも良い所だ。」
私に話し掛ける体を取りながら、後半はちらりとエドを見ながら話を進める。その言葉に『責任の取りようも知らず口だけで言うな』と言う意味合いが含まれていた事に気付いたエドが、唇を噛んだ。
確かに、口だけなら何とでも言える。その責任を負うという事はどう言う事か。
王太子として、自分の言葉が強い意味を持つという事を深く理解しているエドは、カラントに対する全ての裁定権を持って来たロセ様に対する返事を、思い悩んでいる様だった。




