告白の答えは、過去と共にやってくる。
結局幾ら思案した所で、言葉は上手く出て来なかった。目の前で黙り込むエドにちらりと視線を向けながら、再度溜息を吐く。
その溜息をどう思ったのか分からないが、空気の震える音を聞いてびくりとエドの肩が揺れた。
正直、エドにはなんの責任も無い。
今回の発端は陛下であり、エドは小さい頃からそれに乗せられてしまっただけだ。本人からしたら純然なる好意で面倒を見て、心配をして、そして求婚をしてくれた。
求婚に至った思考は正直良く分からないが、それでもそこに陥れる意図など一切なく、周りの協力を有難く受け取っていたに過ぎない。そこを責めるのはお門違いだと、少なくとも私自身は思う。
「エド、私それに関してはエドに怒ってる訳じゃ無いの。だから、謝られても困るわ。」
「……そうは言っても、俺がお前の事を好きだったから周りが動いたんだ。その責任は有るだろ。」
「それはエドの責任じゃないわ。それに、貴方が私の事を…その、すき、と言って居たからじゃなくって、寧ろ陛下に私の面倒を見ろって言われたからでしょう?順番が違うわ。」
その台詞が気に入らなかったのだろう。私の言葉にエドがむっとした表情を向けてくる。
「…それはさ、俺が親父に言われたからお前を好きになった、って言いたい訳?」
「そう言う意味じゃないけど…」
「じゃあどう言う意味だよ。確かに最初面倒を見ろとは言われたが、それだって俺がお前を見て一緒に居てやりたいって思ったからだよ。…あのな、俺の気持ちは俺の物なんだ。頼まれたから好きになった、みたいな言い方するなよ。」
そう言われて、言葉に詰まる。
此方を見詰めてくるエドの瞳は真剣で、そこから逃げる事を許さない。
「リア、確かにこの状況を作ったのはこの国で、その原因は俺だ。それについては謝る。でもな、俺がお前を好きになった事を、謝る気は無い。正直、俺はあの婚約者にお前を返すのは嫌やだし、それでお前が幸せにれるとも思えない。」
「エド…。」
強い気持ちで好きと告げてくるエドに、困った顔を向ける。
エドの気持ちはエドの物で、私を好きだと思う気持ちも彼のものだ。それを否定する気は無いが、だからと言って私はそれに答えられない。私が好きなのはロセ様であってエドでは無いのだから。
「…ごめんね、エド。私は貴方のその気持ちには答えられない。真剣に好きになってくれた事は嬉しいけど、それでも私はロセ様が好きなの。」
「…あんな風に政略結婚やら女がいるやら言ってくる様な奴でもか?」
「そうね、それでも9年間待とうと思える位には。」
にこりと笑いながら言ってやれば、エドの顔が歪む。確かにエドから見たら理解出来ないだろう。多分、誰に言っても、それこそ兄様であっても理解出来ない事は知っている。
私のロセ様への恋心は、過去への郷愁だ。
前世で過ごした全ての事に彼が居て、その彼とロセ様が重なり、その影から離れられなくなっている。ロセ様に失礼な事も理解してるし、きっと幸せになんてなれないのは分かってる。
ロセ様を好きだと思う気持ちは、本当だと思う。でもそこに彼の面影を重ねていないのか、と問われれば、私は是とは言えない。
彼に似た部分の多いロセ様だからこそ好きになったのだし、そことロセ様に対する恋心を切り離せるかと言われたら、それは出来ないのだ。
「それにね、エド。私とロセ様は別に政略結婚、って訳じゃ無いわ。私は彼が好きだし、彼も私を好きだと言ってくれている。立場的な物も色々あるから私からは何も言えないけれど、それを疑ってはいないのよ。」
「何だそれ。立場的に政略結婚を匂わせたり女が居るって仄めかす事が必要だって言うのか。」
「必要、なのでしょうね。高官の方々の前であの発言をした事に意味はある筈だもの。」
本当は分かってるけど、エドの前で、とは言わない。それはロセ様の思惑を潰しかねないし、私が告げていい事では無い気がしたから。
「分かんねぇなあ…お前も、あの王子も。」
すっかり毒気を抜かれたのか、頭を掻きながら呆れた様に言われて思わずこちらも苦笑を浮かべる。
テーブルに行儀悪く肘をついた彼を見遣りながら、ゆっくりと紅茶を飲む。時間が経ってしまった紅茶は、温い温度と共に独特の苦味が口に広がった。
そんな私の様子を拗ねたような顔で見ていたエドが、再び口を開いた。
「…なあ、あの約束ってまだ有効?」
「あの約束って…何の話?」
「俺の成人の儀でお前をエスコートするって話。」
「それは…どうかしら…。ロセ様が来ている以上、他の子をエスコートするべきじゃない…?」
少し考えながら口にすれば、エドの顔に不満が浮かぶ。
そんな顔されても、私は会場に婚約者がいる以上婚約者と出るべきだし、エドの気持ちに答えられないのだから他の子を探す方が適切だ。
「俺は、お前が良いんだけど。」
「そう言われても…。」
「毎回俺と出てたんだから俺と出ろよ。…もしかしたらこれで最後かも知れないんだろ?だったら余計に、お前が良い。」
真剣な瞳で見ながら言われても、どうにもならない。
どうやって断ろうか、と思案していると不意に私の頭に影が落ちる。それと同時に目の前のエドの顔が急に苦々しい物に変わった。
「申し訳無いけど、人の婚約者を口説くのは辞めて貰おうか。」
聞き覚えのある声に顔を見上げると、そこに居たのはロセ様だった。




