転生令嬢、強制的に食事会に巻き込まれる。
「…ですからね、……」
「それは…で…」
「ええ、勿論……ですから…」
目の前を、滑るように会話が進む。
あー…このお肉美味しいなぁ…。あ、これ前に食べた奴だ。確かあの時は妹姫様のお祝いだとかでいつもに増して食事が豪華だったんだよね。うん、しかしこう言う時の食事ってお野菜少ないよね。美味しいけど栄養バランスとかどうなんだろう。デザートも美味しいんだけどソルベとか食べたくなるよね、脂っこくなると。氷魔法とか有るんだから氷室とか作ったら食べれないかなぁ。今まで見た事無いけど、もしかしたらクロージアの王宮とかなら食べれるのかもなぁ…。だってほら、転生者多いんでしょ?誰かが作ってそうじゃない?と、言うか。
……私、帰っても良いかなぁ…。
思わず頭の中で現実逃避しながら、カラントの方々に凍るような笑顔を貼り付けて会話をしているロセ様を、遠い目をしながら見詰めた。
あの後、ロセ様が『流石にこのままじゃマズいから、一旦戻るよ』と言い置いて私の部屋から転移で消えて数刻。
元々予定にあったのか無かったのかは知らないが、兄様の名代で来たらしいロセ様がカラントの高官の方々と食事をするので同席して欲しい、と青い顔をした文官様が私の部屋を訪れ言った。
ああ、何か言ったんだな…と内心文官様を憐れに思いながら了承の意志を伝え、食事に向かう準備をして待っていると、にこやかな笑顔と共にロセ様が迎えに来て下さった。後ろに居た妙に落ち着かない表情をしていた侍女の方に案内して頂き、ロセ様にエスコートして貰いながら開けた扉の中には青ざめた顔をした高官の方々と、何故か不機嫌そうな表情を浮かべたエドが座って居たのだった。
エドが政治に絡む場所にいる事に一瞬あれ?とも思ったが、王太子名代と会うのだからこの国の王太子だって居ないと拙いのかも知れない、と思い直す。
不意に空気が寒くなった様な気がしてちらりと横を見遣ると、中にいた方々に凍るような笑みを浮かべ、ロセ様が口を開く所だった。
「おや、ただの名代の私なんかの為に王太子殿下までいらして頂けるとは。数年前に訪れた際はお会いする事が出来なかったので、今回はこんなに早くお会い出来て光栄ですよ。」
にこにことしながらそう言ったロセ様の言葉に、エドが睨み付ける様な視線を向ける。然し普段とまるで違うエドの雰囲気も気になるが、それよりも今ロセ様が何か凄く気になる発言をしなかっただろうか?
ん?となり、頭の中でロセ様の発言を反芻する。
『数年前に訪れた際はお会いする事が出来なかったので』
数年前?誰が何処に訪れたって…?と頭の中をぐるくると疑問が駆け巡る。恐らく顔に出ていたのだろう、ロセ様が私に向かって微笑みながら言葉を続けた。
「私の大事な姫君も体調が回復した様で何よりでした。以前から手紙を書く事が出来ない程体調を崩している、と聞いておりましたし、心配していたのですよ。私と兄が訪れた際は王太子殿下が避暑地にまで付き添って下さっていた様で、カラントの方々が我が姫に心を砕いて下さったからこその回復なのでしょうね。」
にこにこ笑いながら剣呑な雰囲気を撒き散らす、と言うある意味器用な態度で吐き出すロセ様の言葉に、高官の方々の顔色がどんどん悪くなって行く。
当事者である筈の私は本来怒らなければならないのだろうけど、次々と新しい情報が出てきて自分の中で処理が追い付かない。
ぼんやりとああ、本当に何年も会えないように仕組まれて居たんだな、という事は分かるが、それ以上にロセ様の怒りが凄い。そうだ私は目の前で怒りを撒き散らされると1歩引いちゃうタイプだったな、とある意味現実逃避の様な状態で視線を周りに向けた。
視線を送った先に居たエドと目が合うと、一瞬瞳が揺れた後悲しそうな目を向けられる。だけど、ロセ様の話が本当だとするとエドもその話を知っていたと言う事だろうか。どんな顔をしていいのか分からず思わず視線を逸らすと、逸らした先でロセ様と目が合った。
「フィリア、大丈夫?」
周りに対しての笑顔を崩さないまま小さな声で問いかけられ、こくん、と頷いて肯定を示す。本当は心の中は全く大丈夫では無いが、それを表に出す訳には行かない。エスコートの為握られていた手をそっと握ると、ロセ様が微笑みながら手を握り返してくれた。握られた手の温かさに少し落ち着いて視線を前に向けると、私の視線にはっ、と気付いた高官の方が席に座る様に促してくれたので、そのままロセ様と共にエドの正面に座った。
「…取り敢えず、カラントへようこそ、と言えば良いんですかね?随分と勝手に出歩いて下さっていた様ですが。」
先程までの睨み付ける様な視線から貼り付けた様な笑顔に表情の変わったエドがロセ様に話し掛ける。ちらりと視線を送られたが、未だどう反応していいのか分からず苦笑いを浮かべるにとどめた。
「…ええ…我が姫の魔力が乱れているのを感じましたので、居ても立ってもいられなかったのです。何方か近くに居てくだされば声をお掛けしたのですが、何方もいらっしゃらなかった様で。」
「そうですか…今回は特に問題無かった様ですか、次回からは控えて頂けると助かります。カラントの城内で何かあれば、申し訳が立ちませんので。」
お互い笑って会話をしているが、どうにも空気が寒い。運ばれて来たスープを口に付けながら、我関せずを決め込む事にした。
「そうですね、気を付けさせていただきます。ただ、まあ…次回は無いんじゃないでしょうか?」
「は?」
思わず素の声が漏れたエドが、訝しげな顔をしながらロセ様を見遣る。対するロセ様は未だ笑顔を貼り付けている。
然し全く笑ってない様に見えるのは、多分気の所為ではあるまい。にこにこと爽やかに笑いながら語るロセ様は、次の瞬間思いもかけない爆弾を落とした。
「実は、フィリアと婚姻を結ぶ為の準備を既に進めておりまして。今回兄の名代、と言うのも有ったのですが、私は婚約者を迎えに来たのです。」
爽やかな笑顔のまま語ったロセ様の言葉に、何も聞かされて居なかった私自身が、固まった。




