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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
16歳、隣国篇
45/88

閑話.そしてこれからの俺と、彼女の話 3

切りどころが分からずいつもの倍ほどの長さとなっております。お付き合いくださると嬉しいです。






「…本当に?夢とか偽物じゃなくて?」


俺の頬にそっと手を伸ばしながら、フィリアが顔を覗き込んできた。怖々、と言った風情のその行動にされるがままになっていると、不意にフィリアの瞳に涙が浮かぶ。その顔を見ているだけで悲しくなって来て、涙が止まらなくなっているフィリアの背中をそっと撫でながら声を掛けた。



「…ごめんね、フィリア。大分待たせてしまった。」

「…本当です…っ…。もう、忘れられてるのかと…おも…てっ…!」


声を掛けると更に涙が止まらなくなったのか、再びしゃくり上げながらフィリアが無理やり声を出す。その声だけで胸が痛くなり、思わず目元に唇を寄せその涙をそっと舐めとった。


「忘れる訳がない。フィリアは俺の唯一だ。…言った筈だよ、泣いても喚いてももう離してあげないって。」


次々と溢れ出る涙が止められなくなっているフィリアに、何度も啄むように口付け涙を舐め取る。

その様子をぼんやりと受け入れていたフィリアだったが、段々と恥ずかしくなって来たのか目元を赤く染めて俺を見上げてきた。その様子に微笑み返してやりながら、改めてじっとフィリアの事を見詰めた。


兄上から大分美しく成長した、と聞いていたが予想以上だ。

幼い頃の面影を残した空色の瞳も、白くて柔らかな肌も、艶やかに波打つ柔らかな色合いの金の髪も、全てが美しくて、可愛くて、このまま直ぐにカラントから連れ去りたい衝動に駆られる。


「…フィリア、凄く綺麗になったね。小さいフィリアも可愛かったけど、今も凄く可愛い。」


微笑みながら本音を口にして、フィリアの目元に再度口付ける。わざと音を立てて続けて行くと、そのうちフィリアの涙は止まりそれに比例してどんどんと頬が染まって行く。それでも、どこまで許してくれるんだろう、なんて少し意地悪な気持ちが顔を出し、フィリアが制止しようとするまでそれを続けた。


「…ロセ様、あの」


ついに限界が来たのか、真っ赤な顔のままフィリアが俺に声を掛けたその時、ドンドン、と言う荒いノックの音が部屋に響いた。その瞬間、びくり、と何かに怯えるようにフィリアが肩を揺らす。無意識なのか、俺の服をぎゅっ、と握る姿に眉を顰め、思わずフィリアを抱き上げた。

急に抱き上げた事で混乱したフィリアが俺の名前を呼んだが、その声には大丈夫だからこのままで、となるべく優しく声を掛けて、扉の方に視線を向ける。


「リア?入るぞ。」


扉の外から声が響き、程なく入ってきた男は俺を認識すると敵意を隠さない視線で睨み付けた。

抱き上げられたフィリアを見て、すぐ様剣に手を掛けて低い声で威嚇してくる。


「…何者だ。リアに危害を加える気か。」


腕の中のフィリアが更に身体を強ばらせたのを感じて、強く抱き締め直しながら相手の顔を見遣る。


俺の顔をしっかり見据えては居るが、誰かという所まで思い至っては居ないその眼差しに、内心呆れた。一国の王太子が、横恋慕している女の婚約者である他国の王族の顔も分からないとは。兄上だったら辛辣に罵るんだろうな、と思いながら意識して煽るような口調で話し掛けた。


「……カラントの第1王子、か。人に喧嘩を売る前に少しは相手の顔をみたらどうだ。顔も覚えてないと言うのなら王太子として勉強不足だと言わざるを得ないな。」


俺の言葉に訝しげな視線を向けて、その一瞬後にまさか、と言う視線でこっちを見詰めて来る。


「何…?……お前、もしかしてクロージアの武の英雄か…?」


よりによって、その呼び方か。

武の英雄、と言う俺にとっては忌み嫌っているとすら言っていい呼び方で呼ぶ王太子を、僅かに睨めつける。

そして二の句を繋ごうとした時、腕の中のフィリアが焦った様に声を上げた。


「エド、ちょっと待って…!ロセ様は…」


そこまで聞いた所で、自分の頭にかっ、と血が上るのを感じた。可愛らしい声で、俺に対してよりも気安い話し方で呼びかけるフィリア。それだけでも心に黒い感情が湧き上がり、ぶつけるかの様に目の前の男にそれを向ける。

その空気を感じ取ったのか、不安と焦りの浮かんだ視線で此方を見上げるフィリアに、にこり、と顔だけで笑いかけてやった。自分の目が笑っていないのも自覚しているが、感情のコントロールが効かない。


「…フィリア、第1王子と仲が良いんだね?」


笑いながらそう言ってやると、硬い表情のままえっと、とフィリアが言い淀む。


「…仲が良いかどうかと言われれば、多分良いですけども…でも…」


そこまで言って何かを思い出したのか、急にフィリアが黙り込む。ちらりと顔を見遣ると、泣きそうな顔で唇を噛む姿が見え、その顔に思わず胸が痛み、慰めるつもりで額にキスを落としてじろりと王太子を睨み付けた。


「…成程、フィリアの涙の原因はお前か。」


俺の言葉にぎくりと固まって息を呑む男に、更に意識して凍りつくような魔力を流す。ひやりとした感覚が身を包んだのか、王太子の顔が一瞬歪んだ。


そして鋭い視線を向けたまま、密かに魔力を発動させる。


「…悪いがフィリアは俺の婚約者だ。余計な真似も横槍も許さない。返して貰うぞ。」


睨みつけながらそう宣言して、直ぐに転移の準備をする。これ以上、フィリアにこんな顔をさせて居たくは無かった。


「おい…!待て…!!」


王太子が慌てて声を掛けて来るがもう遅い。

そのままフィリアの耳元で飛ぶよ、と声を掛けると、魔力を発動させる。


目の前で空を切る男の手を眺めながら、俺は屋上へと転移した。






「…フィリア、大丈夫?」


屋上に着地した所で、無意識に目を閉じてしまっていたフィリアに声を掛ける。小さな声で大丈夫です、と呟いたフィリアは、そのまま俯いて何か考え込んで居る。その姿が余りにもか弱く見えて、顔を覗き込む様にして声を掛けた。


「…フィリア、俺の事、見て。」


両手で頬を挟むようにしてそっと上を向かせるが、それでもフィリアと視線が合わない。その顔に浮かぶ混乱や不安に切ない気持ちになりながら、慰める様にそっと額にキスを落とした。


「ごめんなさいロセ様…私、いま酷い顔してます…」


やっと絞り出したフィリアの声に、更に胸が締め付けられる。

きっと俺を責め立てたいであろうに、それをせずに自分の中に抱え込もうとする姿が、辛い。


「…フィリア。」


そっと声を掛けるとふるりと睫毛を揺らし、その瞳からはまた涙が溢れ出す。その姿にどうか伝わる様に、と思いながら、俺は言葉を続ける。


「フィリアが謝る事なんて、何も無いんだ。…俺が、全部悪い。9年前俺がリリーに対して間違えてしまったから、フィリアを今でも苦しめてしまっている。でも、俺の気持ちは9年経ったって変わらないから。俺が愛して欲しいのも、俺の事を分かって欲しいのも、結婚したいのも、全部フィリアだけだ。」


一言一言区切る様に、言い聞かせる様に告げた言葉を聞いてフィリアの顔がくしゃりと歪む。今まで我慢して来た感情が一気に溢れ出す様に、フィリアから言葉が零れた。


「…なぜ…」

「…うん。」


そっと紡ぎ出される言葉に、静かに先を促す。何でもいいから、フィリアの言葉が聞きたかった。いくら責められても、幾ら罵られても良い。それだって、目の前に居て話しができなければ出来ない事なのだから。


「何故、今まで手紙すら送って下さらなかったのですか…?連絡さえ貰えていれば、こんな風に思わなかった…っ!」

「…うん。」

「今だって!急に現れて、こんな風に連れ去って!国際問題にでもなったらどうするつもりですか…!大体どうやって来たんですか、9年も私の事なんか放っておいた癖に…!どうして、こんなタイミングで…っ…!」


次々と溢れる涙と共に、フィリアの言葉が溢れ出す。

涙をぼろぼろと流しながら9年間の鬱屈を吐き出すフィリアが、場違いにも美しいな、と思った。俺に向き合って、俺を見て、俺だけに言葉を紡ぐ。その姿が堪らなく愛おしかった。


「…っ…あいたかった…っ…ですっ…!」


最後に口に乗せられた言葉は、凄くシンプルな言葉で。

泣きじゃくりながら俺の目をしっかり見て吐き出された言葉を聞いて、もうそれだけで良かった。


心の底から愛おしさが募り、泣いているフィリアを再びぎゅっ、と抱き締めた。


「…うん、俺も逢いたかった。逢いたくて逢いたくて仕方無かったけど、周りの環境が君に逢いに行く事を許してくれなかった。」


少しでも心に響くように、伝わるように、思いを込めて言葉をつむぐ。言い訳だけど、どうしようもないけど。それでも全て伝えたかった。


「書簡や手紙は最初、何度も送ったんだけど…君からの返事が届かなくて、そのうち俺も手紙を送るのが怖くなった。もう、愛想つかさせて忘れられてるのかも知れない、と思ったらもう、何も出来なくて。」


俺の言葉を聞いて目を見開いたフィリアを見て、ああ、やっぱり連絡が取れなくなっている事を知らなかったんだ、と心の底で密かに安堵する。本当に少しだけ、彼女の意思で俺と連絡を取りたくないんじゃないか、なんて思った事があった。

疑ってた訳では無いけれど、余りに周りの流れが自分の感情と食い違い過ぎて、自分を信じる事ができなかったのだ。

そんな自分からの手紙をずっと待っててくれたと言ったフィリアに、後悔ばかりが浮かんできて、胸が締め付けられる様な思いがした。



「…恐らく、だけど。多分かなり早い内からこの国の王はフィリアを第1王子の婚約者に据えるつもりだったんじゃないかな。だから、俺からの連絡は邪魔だったし伝えたく無かった。」


そう俺が告げた瞬間、フィリアの顔が強ばる。その顔にああ、きっともう何か言われているんだな、と予測が付いた。実際カラントからは書簡が送られてきて居るのだから、当のフィリアに何も言っていないなんて保証は無い。内心苦々しく思っていると、呆然としていたフィリアがぽつりと言葉を洩らす。


「…でも、そんなの…」


その先を言い淀んでいるフィリアの頭をそっと撫でる。不安そうな視線を向けられたので安心して貰える様に少し微笑んでから、話を続けた。


「俺の手紙だけならまだ分からなかったんだろうけどね。兄上のフィリアに宛てた手紙も握り潰されていた事が、調査して分かった。だから、今回カラントからの招待に俺が乗ったんだ。…フィリアをきっちり取り返す為には俺が出た方が手っ取り早いからね。」

「…そんな事が……」


多少内容を割愛してはあるが、そんな事はフィリアが知らなくても良い部分だ。恐らくそんな風になっているなんて、想像もしていなかったのだろう。俺の話を聞き終えると、ふ、とフィリアの肩から力が抜ける。まるで安堵する様な態度に、知らない間に自分が笑みを浮かべて居る事に気付いた。それでも不安な表情が収まらないフィリアの顔を覗き込みながら、そっと声を掛ける。


「…兄上も心配してる。…大丈夫、許可も貰ってきてるし、フィリアをきっちり連れて帰れる様にするから。…だから、俺と一緒に帰ってくれる…?」


言葉にすると急に不安になり、思わずフィリアの瞳を見詰める。俺の顔にそれが出ていたのか、その様子を見ていたフィリアが、微笑みながら言葉を紡ぐ。


「…ロセ様がそれを望んで下さるのなら。」


そう言って笑った顔は、本当に、心からの綺麗な笑みだった。

その顔を見た瞬間、思わずフィリアを抱き締める。


「ありがとう、フィリア。」


心からの感謝を口にして抱き締めたフィリアは、綺麗な笑みのまま、安堵の溜息を吐いた。






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