閑話.その時自国の王太子は何を思うか 4
ガタガタと、箱馬車が音を立てながら進む。
「…結局ここまで何しに来たんですかね…兄上。」
「うるせえ、流石に俺だってここまでされるとは予想外だよ…。」
げっそりとした気分で本心から出た言葉に、思わず溜息が漏れる。同じ様な顔をしているロセが、遠い目をして馬車の外を見詰めていた。
カラントへの書簡は、訪問を許可すると言う内容で無事戻って来た。今迄の対応を考えればやけにあっさり許可を出したな、とも思わなくは無かったが、それでも公式に訪問したい旨を告げた書簡だった為だろう、と自分を納得させた。そして父の勅命で辺境の軍備強化の為長期滞在をしていたロセを拾い、カラントまでやって来たのだが。
「…アイツら本当にお前が邪魔なんだなぁ…。」
思わず溜息と共にそう口にすれば、ロセが窓の外を見たまま嫌そうな顔をして、その様ですね、と呟いた。お預けを食らったやり切れなさが滲んでいて、何とも声が掛け辛い。
「あー…まあ、ドンマイ。」
「…兄上…時折、紫苑さんに戻るの辞めて貰えません?反応し辛いんですよ…。」
前世の用語で話し掛ければ、更に嫌そうな顔をされる。それでも会話をする程度には此方に意識を向けてくれた事に、内心安堵した。このまま又死んだ魚の様な目に戻られるのは非常に面倒くさい。そりゃ悪かったな、と軽く謝罪しつつ会話を続けた。
「なあ、フィリアの魔力、感知出来たか?」
「…いえ、無理でしたね。少なくとも城内には居なかった。」
「だよなぁ…お前でも感知出来ないとなると、本当に避暑地に避難させてるって事か…。」
そう。わざわざこんな所まで来たと言うのに、結果から言うとフィリアと会う事は、出来なかった。
公式に、来訪予定を立てて事前通知をしたのにも関わらず、だ。
ロセを連れてきた所為か、とちらりと思ったが、恐らくそれは正解でも不正解でも無いのだろう。ロセと俺が揃って居た事で余計に警戒された、と言うのが正しい様な気がした。どの道、どんな理由であるか考えた所でフィリアと逢えなければなんの意味が無い。城内に居るようなら無理矢理にでも会ってくるつもりだったが、それすら出来ない程の念の入れ様だった。
「…王太子が居ない事も気になるな…。」
正直な感想をぼそりと漏らせば、途端にキンっと周囲の温度が下がった。ロセの氷の魔力だ。修行不足も甚だしいが、まあ、この状況じゃ仕方ないだろう。溜息を吐いてロセを見遣れば、悔しさの滲む顔で再び窓の外に視線を向けていた。
婚約者が公式に訪問するのに、本人が居らずその上王太子も居ない。此方が騒ぎ立てれば国際問題になるであろう杜撰さだが、それは無いと認識されているのだろう。
要するに、舐められているのだ。
「ホンットに巫山戯やがって…。」
「同感です。」
苦々しく呟けば、間髪入れずにロセから返答が帰ってくる。恐らく俺以上に身に染みて居るのだろう。ここまでコケにされて黙っていなきゃいけない事に、かなりの理不尽さを抱えている様だった。父に止められて無ければ俺だって文句の1つは言ってきたが、今回ロセを連れて行く条件の1つに父の判断を仰がずに揉め事を起こさない、と言う条件があった以上、大した事も言えずに戻って来たと言う体たらくだ。
「…兄上…この国、要りますかねぇ…?」
「いや、要るよ。やめろよお前怖いわ。」
魔力を撒き散らしながらの本気の呟きに、思わず突っ込みを入れる。本当に勘弁して欲しい。ロセがもし本気で暴れたら俺の魔力じゃ抑えられないのは目に見えている。巻き添えは御免だ。
「じゃあ…どうやったらフィリアに逢えるんですか…?手紙は届かない、逢いに来ても隠される、その上僕は会えないのに王太子と一緒だわ…これはもう、滅ぼしても仕方ないかな、って思うんですよね。」
「仕方ないかな、じゃねえよ。そんなコンビニ行く様な軽い感覚で国1つ滅ぼそうとするな。…大体、そんな短絡的に動けるならとっくに動いてるんだよ。」
軽口を叩いていないとやってられないのか、どう考えても荒唐無稽な事を本気の顔で呟くロセに付き合って適当な返事を返してやる。本当に、滅ぼして終わりならどれ程楽か。
「大体、フィリアの性格上7年近くこの国に居て愛着が沸いてない筈無いだろ。戦争を仕掛けりゃこっちが勝つだろうが、それで勝った所でフィリアが気に病むだけだ。」
至極真っ当な意見を返してやれば、そんなマジレス要りませんよ、と辛辣な口調で帰ってくる。どうやら冗談だった様で何よりだが、それでも問題が解決した訳では無い。ロセの言う通り手紙も届かない、会えないじゃ八方塞がりだ。
「…さて、どうするかな……。」
深い溜息と共に口に出しては見たが、何か案が有る訳でも無い。
カラントがここまで強気で居られる要因が、何か有るのだろうが恐らくそれは父にしか分からない事なのだろう。元々、妻の代わりに誰かカラントに送ると言う条件に頷いたのは、父だ。現状はまだ王太子でしか無い俺には、その詳しい条件を開示させられるだけの技量も権利も無い。と、なると後はリリーシアからの情報を得て何か対応を考えなければ行けないが、それすらまともに情報が得られる保証は無い。
転生して初めて、本当の意味で思った。
本当に、お手上げだ。




