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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
16歳、隣国篇
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閑話.その時自国の王太子は何を思うか 1






「…ったく、巫山戯てんのか、こいつら。」


誰も居ない執務室に、自分のイライラした声が響く。誰も聞いてない事を良い事に王族としてアウトな発言が出そうになっていた事に気付き、苦笑して言葉を飲み込んだ。


それにしても。


ちらりと視線を向けた書類は、つい先程届いた物だ。自分の妻の出身国の王宮からの書簡。

フィリアに定期的に送っていた報告書に返答が無くなってから、3年。裏があるのは知っていたが、まさか本気でここまで勝手な提案を実行してくるとは思わなかった。思わず片手で両方の(こめかみ)を掴み、ぐりぐりと揉み込む。前世から変わらない、思考が詰まった時の癖だった。





前世の従妹であるフィリアを隣国のカラントに送ってから9年。それでも最初は俺の所に報告書や本人の手紙が良く届いていた。それは時には要件とも言えない様な様子伺いの手紙だったり、カラントの様子だったり様々ではあったが必ずフィリアの直筆で書かれて居てフィリアが健勝である事が伺えた。



それでも今思えば、もっと2人の事を最初から気に掛けてやるべきだったのかも知れない。



その手紙が来たのは、彼女が隣国に行ってから6年目の事だった。


ある時いつもの様に報告や雑談が書かれたフィリアから来た手紙の隅に、懐かしい日本語で『ロセ様から、もう嫌われているかも知れない』と書かれていた。その文字を見て、ぎくりと背中を嫌な汗が伝ったのを覚えて居る。



その原因は、前世で全く同じ様なメモを雛が日記に残していた事を思い出したからだ。

勿論彼女の死因は自死では無かったし、そのメモと直接的な死因とは正確には関係なかったのだろう。でも、そのメモを書いた後彼女は亡くなった事は事実で、その時の様子と今のフィリアが重なって、嫌な予感が身体の中を巡った。


すぐ様、卒業後ずっと軍の視察に国中を回っていたロセを呼び戻し、話を聞く。そこで初めて、フィリアが隣国に行ってからロセが送った手紙に一切返信が帰ってきて居ない事を知った。


…正直、やられた、と思った。


この国は、俺を含め歴代の王となる人間の内半分近くは転生者だ。傍から見たら自分達では思い至らない様なアイデアで、様々な政策や特産を作り上げていく、富に溢れる国。その国からやってきた聡明な少女が、婚約者が居るとは言え自国の王太子と同じ様な歳で尚且つ本人も才も弁も立つ。国王として、国を栄えさせたい人間として囲いこまないと言う選択肢は存在しないだろう。ただでさえフィリアとロセは不仲説が流れていた。自国の姫が嫁ぐ先の国、そしてその代わりに来る少女の調査をしていない筈がない。その噂だって、当然カラントの王の耳に入っていて然るべきだ。


最初から、仕組まれて居たのだ。





「なあ、何で最初から言わなかった?」


相談さえしてくれていれば。そんな思いがロセを厳しい口調で責め立てる結果となった。6年だ。その間彼女はずっと、我慢を続けて居たのだ。理不尽に放置され、不安を抱えて俺にさえ何も言わず、ずっと。


その時の俺は、恐らく前世で雛を捨てたあいつとロセの事を重ねて居たんだろう。長く経ちすぎている時間と、フィリアのメモに残された言葉に必要以上のイラつきをロセにぶつけた。


「…フィリアに今も好かれているかどうか分からなくて、怖くなったんですよ。」


ぽつり、と呟かれた言葉に、不快さを覚えて眉を顰める。何を甘い事を言っているのか、と怒鳴り付けたくなったが、ぐっと堪えた。その時初めて見た弟の顔が、酷く歪んで見えたからだった。


「…兄上、僕は無理矢理フィリアを婚約者にしました。でもやり方を間違えてリリーと踊った事で、今のフィリアの評判は政略結婚の駒と他国への人身御供だ。本人が居ない以上何年経ったって噂は払拭されない。軍に居る僕が否定して回ったってそれ以上のスピードでリリーに肯定されて行く。…もう、フィリアが僕に愛想尽かさない理由が無い。」


淡々と告げられる言葉とは逆に苦々しい表情を浮かべるロセに、苛立ちを覚える。何を今更、とも思うし、だから捨てるのか、とも思う。必要以上に自分を責めて、ただでさえ遠い距離を更に自分から遠くしてどうするのか、とも。

それでも俺は、目の前で思い詰めた様な顔をしている弟と相手を思い遣りすぎて身動きが取れなくなっている従妹が互いに想いあっている事を知っている。それを知っている以上、弟も従妹も、捨てられないのだ。



そこ迄考えて、以前フィリアが言っていた『彼』とロセが同じ台詞を言っていた、という事を思い出す。フィリア自身はロセと『彼』が同一人物では無いか、と疑って居たという事も。


もしかしたら、と言う気持ちと違った方が二人共幸せなのではないか、という気持ち。複雑な思いのまま、試すようにロセに声を掛けた。


「…フィリアも相当悩んでるみたいだぞ。」


そう言いながら、フィリアのメモの書いてある手紙を見せる。はっ、と目を見張ったロセを見て、自分の考えが正しい事を確信した。


「…なあ、ロセ。」


睨め付ける様な視線を向けると、ロセは何かを感じ取っているのか、剣呑な、胡乱げな表情でこちらを伺っていた。


「西依雛、と言う名前に、聞き覚えはあるか?」


その言葉を口にした瞬間、ロセの目が限界まで見開いた。ビンゴだ。


フィリアの書いた言葉が読めるのなら、それは日本人であったのだと言う事だ。そして今の反応を見る限り、十中八九『彼』とロセが同一人物である事は間違いない。


「…その名前を、何処で?」


ここまで話しても俺自身が転生者だと言う思いには至らない。

本来はこんなに視野の狭い人間では無いだろうに、色々限界なのだろう。最愛を失ってから6年近い。寧ろ持った方だな、と、密かに思うが表情には出さなかった。


輝きの無い紫の瞳に胡乱げに向けられた視線に、思わず嘲るような笑いが漏れた。


「転生者は、お前だけじゃないって事だ。…改めて挨拶した方がいいか?鏑木紫苑、だ。初めまして、じゃねえけどな。」




俺自身の過去の名前を聞いて、今度こそ予想外だったのかロセが更に目を見開く。その視線には、困惑と不安が浮かんでいた。





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