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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
7歳、婚約篇
28/88

星祭の余韻は、知りたく無かった事実と共にやってくる。





朝日が瞼に眩しい。

ふ、と目を開ければ、知らない天井が目に映った。ぼーっとしながら目を擦ると、1つ伸びをして起き上がる。

此処は何処だろう、と考えた瞬間、自分が何処にいるのか理解した。


理解した、が。


…昨日、いつ部屋に戻ったのか覚えていないのは何故なのだろう…。







「昨日は遅くまでお疲れ。」


城の侍女の方に着替えさせて貰い、バルコニーに用意されていた朝食を食べていると頭の上から声がした。ちらりと視線を動かせば、予想通り兄様が上から覗き込んでいる。


「おはようございます、ルカ様。」


パンを契りながらそう言うと、兄様もおはよう、と挨拶を返す。そのまま対面に座り、侍女に紅茶を入れさせた後人払いをした。

そして1口紅茶を啜った後、徐ろにに口を開く。


「…で?昨日のイベントは潰せたか?」


どうせ、予想がついているだろうに態々聞く辺り何か嫌な気配を感じる。紅茶を飲みながら僅かに視線を向けると、にやにやと笑う顔が見えた。


「玩具をお探しなら他を当たって下さい、兄様。」

「ん?他、なぁ。」


何だろう。何時もならこの手の揶揄いは一言言えば大抵やめてくれるのだが、この顔はやめる気の無い顔だ。何か兄様が面白がる材料とかあっただろうか。


「…なあ、フィリア。昨日どうやって帰って来たか覚えてるか?」

「…え?」


にやにやしながら問いかける兄様に、頭の中で警笛が鳴る。聞きたいけど、聞いちゃだめな奴な気がする。


「昨日は、提案した手前お前らの動向を探ってたんだ。ああ、別に話の子細分かる程探らせてた訳じゃないから、そこは安心しろ。で、だ。」


態々そこで話を切って、兄様は私を見詰める。

にやにやとした視線は変わらない。


「お前らが帰って来たって言う報告を受けたんで、覗きに行ったらお前がロセに抱かれて…ああ、この場合はお姫様抱っこ、って言うのか?取り敢えずその状態で転移して来た。」

「…は?」


あ、これやっぱり聞いちゃ駄目なやつだった。

そう思ったが既に遅い。

私が絶句していると、構わず兄様が先を続ける。


「で、後を追わせたんだがな。お前の部屋に入って出て来なかった、と報告を受けた。」

「はぁ!?」


私の部屋に朝、ロセ様は居なかった。という事は私をベッドに置いた後出て行った、という事だ。

誰だその報告上げたヤツ。殴りたい。


「…7歳か…流石に早くね?」

「何が、どう早いんですか。セクハラにも程がある。ホント殴りますよ、兄様。」

「不敬罪だぞ、ソレ。殴る方はアウトだからな。」


楽しそうに不敬だとか言われても困る。王太子じゃ無かったら本気で殴ってたのに。


「ん、まあロセの事だから追ってるのが分かってて転移とかで撒いたんだろうけどな…。それにしても、外で眠りこけるなんて何があったんだ?」


今までのはただの悪ふざけだったのか、急にまともな話に切り替えられる。

と言うか、本題はそっちか。


「えっと…姿を変えて星祭を見に行って、その後転移で本物の星を見に行ったのです。この間の合宿に使った、王家所有の場所だと仰ってました。」

「合宿に使った場所で、星?」


私の一言に、兄様が急に真面目なトーンに変わる。何か問題でもあっただろうか。


「…もしかして其処で過去の話でも聞いたか?」

「え?ええ…昔此処で星を眺めてた、と言うお話でしたら、伺いました。…兄様?」


私の答えを聞いて真面目な顔で兄様が黙り込む。

暫く考え込んでいたが、ふと、顔を上げた。

青い瞳と、視線が合う。


「…フィリア、恐らくだが…ヒロインとのイベントだ。」

「…え?」


そう言われて、思い出す。

夜デート、星空、そしてキス。


「…確かに、合致してますわ。でも、何故…?」


合宿イベントは終わった筈だ。そして、リリーシアでは無く私とイベントが起きるなんて。


そこまで考えて、はたと気付く。


何だ、イベントだったのか。


そう思った瞬間、間違い無く私は落胆した。

昨日の会話がぐるぐると、私の頭の中を回る。


彼と、同じ言葉。ロセ様の、眼差し。

そして好きだと、何度も言ってくれた事も。


「…うれしかったのに…。」

「…フィリア…?」


私の様子がおかしい事に気付いたのだろう。兄様が訝しげな顔で、私を覗き込む。

それでも、私は反応出来ない。


ロセ様のあの言葉は、全てイベントの台詞で。

本当は、リリーシアに向けられる為の物で。

…決して、()()()()()()()私に向く筈の無い、言葉だ。


「おい、フィリア。…雛?どうした。」

「…紫苑兄様……」


雛、と呼ばれた事で私の意識が浮上する。

私は今、何をしているんだろう。


…私は、悪役令嬢で、フィルリアで…誰だ?


「おい!」


がくん、と肩が揺さぶられてはっ、と意識が戻る。

その様子を、私の肩に手を置いたまま心配そうに兄様が見詰めていた。


「フィリア、俺の名前を言ってみろ。」


確かめる様な言葉で、聞かれる。それとは逆に、心配そうに揺れる兄様の瞳。心配させてはいけない。そう思って言葉を絞り出す。


「…大丈夫ですわ、ルカ兄様。」


そう言ってやれば、兄様が明らかに安堵した様に溜息を吐く。

やはりかなり心配させてしまった。

その様子に、心の中でごめんなさい、と呟く。


「なら良い。…フィリア、ロセの事を信じろ。」

「…え?」


いつもとは違う、真剣な瞳で私を見詰める兄様。

ロセ様を信じろ、とは何だろう。


「いいか、フィリア。確かにイベントだったかも知れない。リリーシアと起こらなかった事に対して、何等かの強制力が働いたかも知れない事は否定出来ない。けどな、ロセはプログラムじゃないんだ。生身の人間で、自分で思考して、行動している。」


私の肩を掴み、兄様は一言一言、しっかりと伝わる様に話し掛ける。力の篭った肩が少し痛くて、それが余計に真剣さを伝えて来る。


「だから、例えイベントに沿っていたとしても、それはロセの本心だ。アイツの心をイベントの一言で否定するな。」

「ロセ様の心…。」


そうだ。昨日真剣な表情で、あんなに一所懸命に心を伝えて来たロセ様を、否定してはいけない。

あの時、ロセ様の真っ直ぐな心に、私も報いたいと思ったのだ。


それは決して、イベントだからとか乙女ゲームだからとか、そう言う意識が介在した感情では、無かった。


ぺちん、と両方の頬を掌で叩く。


そうだ。私はロセ様と歩みたい、と願ったのだ。

誰の物でも無い、自分の意思で。


「兄様、ごめんなさい。もう、大丈夫。」


にこり、と微笑み掛けてやれば、兄様がやっと安堵の溜息を吐いた。ごめんなさい、いつも心配させて。

…今も昔も。



「…あれ?」

「どうした?フィリア。」


一瞬何か引っ掛かった。何だろう、心がざわめく。

黙ってしまった私を、今度は何かと兄様が心配そうに見詰めているのが分かるが、それでも私は考える。


「あ、分かった…」


そうして不意に、思い当たった。

ロセ様が言ったあの台詞。


「……『君のためなら、星だって手に入れてあげるよ』」

「…何だ?その台詞。」


兄様が訝しげに私を見遣る。


「昨日、ロセ様に言われたのだけれども…兄様、イベントにこの台詞、出てくる?」

「ちょっと待て、思い出す。」


そう言って兄様が真剣な表情で考え込む。

暫く悩んだ後、ゆるりと頭を振って否定した。


「いや、俺の記憶する限りその台詞は無い。」

「そう…。兄様、もしかしたら、なのだけれど。」

「ん?」

「ロセ様が、転生者である可能性は、ある?」


真剣な表情で兄様に問いかければ兄様は又暫く考えた後、是、と答えた。


「可能性は、あるな。ただ、確かめる術が無い。あいつに王家の話が現状出来ない以上、確認するのは少し厳しい。」


そう言って、兄様が苦い表情を浮かべる。


「…兄様、彼を、覚えている?」


そっと伺う様に問い掛ければ、兄様が僅かに目を見開いた。

名前を言わなかったから伝わるか、と思ったがどうやら伝わったらしい。もしかしたら前世で私が死んだ後、何かあったのかも知れない。


「…覚えてる。それが、どうした?」

「さっきの台詞。…昔、彼からも言われたの。一字一句違わず、同じ台詞。…偶然、なのかしら。」


考え込む私を、じっ、と兄様が見詰める。

何か言いたそうな、そんな表情。


「…フィリア。」

「分かってる…台詞が被った位で、転生者とは判断出来ない。兄様の話を明かすつもりも、私の正体を話すつもりも、無いわ。」



それに、私はあの時、彼に嫌われたのだから。

強い言葉を叩き付けられて、胸が激しく傷んだ。

だから、転生していたとしても、彼は私を選ばない。


そう考えれば、ロセ様が彼と言う可能性は、無いのだろう。


「まあ、ロセについては少し探っておくさ。転生者なら話が早くなる。それ以外は、まあ現状維持だな。」

「…分かった。」


詰めていた息をふ、と吐いて、ふと手を見てみれば、指先が白くなっている。思った以上に手に力が入っていたらしい。それだけ、緊張していたと言う事か。




「フィリア。…さっきも言ったけど、ロセを信じてやれ。」

「兄様…。」

「転生者であろうが無かろうが、シナリオ通りだろうがイベントだろうが、此処が現実である以上必ず其処にはアイツの意思が反映されてる。それが無い事は、有り得ない。ロセの気持ちはロセの物だ。あいつが選んだ以上、それは絶対で有るべきだ。」

「…そうであれば、嬉しいですね。」



ゲームなんか忘れて、強制力に怯えないで。フラグも何も考えず、ただロセ様を信じたい。




目の前の紅茶は、話に夢中ですっかり冷めてしまっていた。少し溜息を吐いて、カップに手を添える。


ロセ様の好意だけを、信じていられます様に。


そして私は、祈るような気持ちで、冷めた紅茶を飲み干した。







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