星祭の興奮は屋台と共にやってくる。
わぁっ、とあちこちから声が上がる。
色とりどりの魔法が打ち上がり、きらきらとそのまま星の様に瞬き、流れる。
祭りのクライマックスに相応しい、華やかな魔法が辺りを包んでいた。
ロセ様と兄様に手を引かれながら王族席に上がった私は、両陛下に挨拶をしてから最前列に座った。陛下の祝辞から始まりパレード、舞台披露と続き、最後に王宮魔道士が何人か集まり星流れの魔法を掛けた。
人々の遠慮の無い視線やひそひそとした話し声、嘲笑や街のお嬢様方の敵意といった様々な視線に晒されていた私は疲れ果てていたが、一度魔法が始まれば、そんな気分を忘れ純粋に嬉しさでいっぱいになっていた。
想像以上の華やかさに心が弾む。
そんな私をロセ様が優しい眼差しで見詰めていた事に気付き、思わず顔が赤くなる。
今が薄暗くて良かった。
心からそう思いながら、王族席を退出した。
そして、約束の時間。
案内された王族区にある部屋で、1人ロセ様を待つ。昼間着ていたドレスを脱ぎ、サラが用意してくれたお出掛け用のワンピースに着替える。
何処に行くかは分からないが、この位の格好なら大丈夫だろう。
兄様に拠れば星祭の日は大人も子供も魔法が消えるまで出歩いている人が多いと言っていた。
私の様な年齢でも今日ならば左程目立たないだろう。
鏡の前でくるり、と回って全身をチェックする。
前世を思い出して自分でやった三つ編みのハーフアップは中々の出来だと思う。
上品なワンピースも相まって、いい所のお嬢さん風になっていた。
「…ホント、可愛いね。似合ってる。」
暗闇から急に声がしてびくっ!としながら振り向くと、入り口の壁の近くにロセ様がにこやかに笑いながら立っていた。
兄様もロセ様も、知らない間に部屋に入る特技でも有るのだろうか。
「いつ来たんですか?」
「ん?今だよ。入って来たら鏡見ながらくるくる回ってるから可愛すぎて声掛けれなかっただけ。」
見られていた。そう思った瞬間、顔から火が出そうになる。
「わ…忘れて下さい…っ!」
横まで近寄って来たロセ様に涙目で懇願するが、だめー、と言う楽しそうな返答しか帰って来ない。
「あんなフィリア、意外だった。デートを楽しみにしてくれてるみたいで凄く嬉しかったからね。絶対忘れないよ。」
「本当に忘れてくださいぃ…。」
思わず心からの声が出た。もう、絶対鏡の前でくるくるとかしない。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」
「恥ずかしいに決まってるじゃないですか…もう…。」
呻く様にそう言えば、その様子を見てまたロセ様が笑う。
「お出掛け仕様でしょ?その格好。中々新鮮な格好だけど、その格好も好きだよ。」
「そうですか…。」
どうしても立ち直れなくて、おざなりな返答を返せばその様子を見てまた笑われる。
「僕もお忍び仕様だからね。お揃い。」
そう言って笑いながら先程の私の様にくるり、と回って見せてくれる。こう言う優しさが、凄く好ましい。
ロセ様は、先程の式典用の正装とは違い今は簡素な白シャツと黒のパンツを履いている。腰に一応剣を携えては居るが、いつも王族然とした服装しか見ていない所為か何だか凄く新鮮だ。
「そう言った格好もお似合いですね。」
思わずそう漏らせば、嬉しそうにありがとう、と笑われる。
「さて、出かける前に最後の仕上げをしようか。」
「仕上げですか?」
きょとん、として聞き返すとロセ様がうん、と答えて私の頭を触る。
「僕もだけど、フィリアもさっき見られてるからこのままだと目立つからね。……はい、出来た。」
一瞬温かい感じが全身を包んだ後、ロセ様が手を離す。
鏡を見てご覧、と言われて確認して、思わず息を呑んだ。
鏡の中の自分は、いつものプラチナブロンドではなく薄茶の髪に変わっていた。それだけでは無く、目の色もオリーブグリーンになっている。
「姿を変える魔法を、少し、ね。顔までは変えられないけど、髪と目が違えば印象が大分変わるでしょ。」
「凄いですね…。」
素直に感嘆の声が出る。笑いながらロセ様も、自身の髪と目を私と同じ色に変えた。確かに全然印象が違う。
「まあ、これなら大丈夫かな。どう?似合う?」
「…ええ、お似合いですわ。」
「そう、良かった。…お揃い、だね。」
にこりと笑いながら言われて、一瞬言葉に詰まる。
確かにお揃いだが、そんなに嬉しそうに言われるとなんて言って良いのか言葉が出ない。
「さて、フィリア。後は口調少し変えて話してね。後呼び方も変えようか。」
「お忍びですものね、分かりました。…なんとお呼びすれば?」
「いつもお忍びで出る時はフィンって名乗ってるんだ。だからそう呼んで。フィリアはリア、でいいかな?」
私の名前を捩って呼び方を決めたらしい。特に文句も無いので頷いて肯定する。
「OK。じゃ、行こうかリア。」
「分かりました…じゃない、分かったわ、フィン。」
じゃ、行こう、と私の頭を撫でると、手を引いてバルコニーへと誘導する。何をするのかと思って顔を覗き込むと、魔法を使うから、と返答が来た。
そして、その一瞬後、ふわりとした浮遊感と共に目の前の景色が歪んだ。
思わず目を閉じた私の目に次に写ったのは、薄暗い路地裏の景色だった。
「大丈夫?リア。」
初めての転移魔法に無意識にロセ様の手を握り締めていたらしい。
心配そうに見詰めるロセ様に笑い掛けて大丈夫、と答える。
「ここは何処なの?フィン。」
「さっきの王族席の裏手辺りかな。取り敢えず、表通りに出ようか。」
「うん。分かった。」
ロセ様に手を引かれたまま、薄暗い道を少し進むと直ぐに大きな通りに出る。未だ喧騒の衰えない街中は、私ぐらいの子供の姿も多く見えた。空に流れる色とりどりの光にはしゃいで、楽しそうに笑っている。
「…皆、楽しそうね、フィン。」
こんな世界があったのか、と少し感慨深くなりロセ様に声を掛ける。
そうだね、と笑ったロセ様は、少し待ってて、と目の前の露店に向かって行く。
直ぐに戻って来たロセ様の手には、温かい飲み物が2つ、握られていた。
「はい、どうぞ、リア。まだ夜は少し冷えるからね、暖かいよ。」
そう言って笑いながら私に手の中のコップを渡してくれる。
中には赤い液体が入っていて、葡萄の良い香りがした。
「これは?」
「ホットワインが売ってたから。リアの分はお酒入ってないやつだから、安心して?」
その言葉に安心して口を付けると、ほのかな酸味と共に葡萄の風味が口の中に広がる。
思った以上に外が肌寒かったらしい。思わずほっとため息が漏れた。
「飲み終わったら、行こうか。星祭初めてなんでしょ?色々見て回ろう。」
「うん、ありがとうフィン。」
素直に嬉しくて、お礼を言うと、ロセ様も嬉しそうに笑ってくれた。
ロセ様に連れられて色々と露店を回る。
見るもの全てが新鮮で、思わずはしゃいでしまったがそんな私の様子をロセ様は微笑ましく見詰めてくれる。
気付けば大分時間が経って、もう星流れの魔法が切れる少し前になっていた。
楽しくて存在を忘れて居たが、リリーシアとのフラグはもう立たないだろう。
そろそろ戻ろう、と声を掛けようとした時、不意に今まで繋いでいた手をぎゅっ、と握られた。
何だろう、と思いロセ様に視線を合わせる。
いつもとは違うオリーブグリーンの瞳が私を見詰めた。
「リア、もう少しだけ付き合ってくれる?」
「構わないけど…何処に行くの?」
街中ももう片付けが始まっており、これから行ける場所なんて思いつかない。そう思って首を傾げる。
「少し距離があるから…飛ぶから手、離さないでね。」
ああ、転移するのか。
そう思った瞬間、浮遊感と共に再び目の前が歪む。
ロセ様の手の温かさを感じながら、私は思わずぎゅっ、と目を閉じた。




