転生令嬢、王太子殿下の婚約者について考察する。
星祭当日。
朝から髪を結い上げ、薄化粧を纏い、王宮を目指す。既にちらほらと出店の見える街中は、いつもより楽しげな雰囲気に満ちている。
今日は、薄いブルーのチュールにきらきらとスパンコールが散りばめられたエンパイアドレス。
星祭の星を意識したドレスは私の心も少し浮き足立たせた。
王宮に着き、出迎えてくれた騎士の方にお礼を言いながら、控えの間へ向かう。
一般区から王族区へ入ると、準備を終えているのかいつもより正装したロセ様が出迎えてくれた。
騎士の方の慌てぶりから見て、恐らく元々出迎える予定は無いのに来てくれたのだろう。
気を使ってくれるのは嬉しいが、そんなに自由に動いて大丈夫なのか、と少し苦笑が漏れた。
「やあ、フィリア、いらっしゃい。」
にこりと笑うロセ様に、膝を折って礼をする。
王族区とは言え人払いされてる訳でも無い。騎士の方も見ている前でいつもの様には出来なかった。
「ロセフィン様、本日はおまねき頂きありがとうございます。」
そんな私の言葉を聞いてロセ様が苦笑を浮かべた。それでも、意図は伝わったのか笑顔で手を取ってくれる。
「後は私が連れて行くから、行っていいよ。」
ロセ様がそう騎士の方に声を掛けると、敬礼して去っていった。
「…さて、行こうか。案内するよ。」
「ありがとうございます、ロセ様。」
私の手を取りながら笑うロセ様に、微笑み返す。
「フィリア、その口調よく切り替えれるね。疲れない?」
「そっくりそのままお返ししますわ。」
揶揄う様な口調のロセ様にそう返せば、更に楽しそうに笑う。
そんな遣り取りをしている内に、目当ての部屋に到着する。
「父上と母上はそれぞれ直接向かわれるから、此処から向かうのは僕らと兄上だけなんだ。だから緊張しなくて大丈夫だよ。」
そう言って笑いながら扉を開く。室内を見遣るが、兄様はまだいらして居ない様だった。
「兄上は忙しいから、まだ来ないんじゃないかな?取り敢えず、どうぞ、座って?」
そのまま促されてソファーに座れば、当然と言った様にロセ様が横に座る。
どうやら対面で座る気は無い様だった。
まあ、害が有る訳でも無いので放置する。
「そう言えば、ルカ兄様の婚約者の方はいらっしゃらないのですか?」
「兄上の婚約者?ああ、今日は来ないね。と言うか婚姻を結ぶまでは公式行事には出ないと思うよ。」
ふと、気になって疑問を漏らせば、ロセ様から意外な答えが帰ってくる。
何故だろう、と不思議に思って居ると顔に出ていたのだろうか、ロセ様が苦笑しながら話を続けてくれる。
「兄上の婚約者はね、隣国の姫殿下なんだよ。だから、国内の公式行事にはこの国の人間になるまで参加しない。」
ああ、成程、と納得する。
それと同時に少し意外にも思う。
王太子殿下として、政略結婚は必要な事なのだろう。この国の発展の為に、隣国と手を結ぶ。何も珍しい事では無い。
一方で、兄様の性格上、政略結婚に甘んじて居る様なイメージは無かった。勝手に、自分で相手を選ぶのではと思い込んでいた、というか。
複雑な表情が表に出ていたのだろうか。
ロセ様も少し複雑そうに笑って此方を見ている。
「フィリアは、ホント兄上に懐いてるよね。…少し妬ける。」
「確かに良くして頂いてはいますが、ロセ様が思う様な意味では全く無いですから。」
「分かっててもね、妬けるもんなんだよ。」
否定した私にロセ様は少し拗ねたように言葉を続ける。
「まあ、僕も兄上の婚約者殿にはあった事が無いんだよ。顔合わせの時は学園の寮にいた訳だし、その前も城には居なかったからね。」
「成程…。…ルカ兄様が婚約者の方にどの様に接するのか、想像がつかないです。」
「何だ、俺の婚約者に興味があるのか?フィリア。」
不意に交じる声にドキリとして頭を上げると、対面に兄様が座っていた。何時入って来たのか、全く気付かなかった。
以前にロセ様もそんな事があった気がするが、私はそんなに周りを見ていないのだろうか。
「…兄上、趣味が悪いですよ。」
僅かに咎める様に視線を向けるロセ様に、兄様がにやりと笑う。
「もう癖みたいなもんだ、許せよ。…それよりフィリア、俺の婚約者に興味が有るって?…それとも俺自身が気になるのか?」
「…突っ込みませんよ、ルカ兄様。」
明らかにロセ様を揶揄う目的で発せられた言葉に、思わずため息を吐いて呆れた顔を向ける。
私のそんな様子を見て、何だつまらん、と兄様が笑った。
「仲がいいのは大変結構ですが、私を巻き込まないで下さい。」
ピシャリと言い放つと、更にそれが面白いのか兄様はだってなぁ、と笑う。
「長年真面目で欠点の無かった弟が、お前の事だとここまで壊れるんだ。面白がっても仕方無いと思わないか?」
「全く思いません。兄様のその愛情は相手に伝わらないので少し考え直した方が良いと思いますわ。」
そこ迄言ってはっ、と気付く。拙い、ロセ様の前だった。
慌ててロセ様を見遣れば、面白くなさそうな顔をして私達を見詰めていた。その様子を、逆に面白くて仕方無いと言う顔をして兄様が見ている。
「…ホント、仲良すぎじゃない?フィリア。」
「えっと…気の所為ですわ。」
にやにやしている兄様を無視して、私に不機嫌な顔で話すロセ様に、全く誤魔化せていないセリフを吐く。
誤魔化せるとは思わないが、これ以上なんと言えば良いのか。
「気が合ったんだよ。まるで前からの知り合いの様に、な。なぁ、フィリア。」
「不本意ですが、否定出来ませんね…。」
含みを持たせて喋る兄様に、ため息を吐きながら肯定すると、ロセ様が苦虫を噛み潰したような顔になる。
本当に、後で兄様とはお話せねばなるまい。もう、それはじっくりと。
「まあ、ロセを揶揄うのはこの位にしておくが、俺の婚約者だったか?確かに公式行事に出た事は1回も無いな。まあ、あいつに関しては…フィリア、会いたいか?」
「え?…ええ、それはお会いしたい気持ちは有りますが…隣国の姫殿下と先程ロセ様から伺いましたわ。お会いする機会が無い様に思われますが…。」
さらっと揶揄っていたと白状した兄様が、そのまま話を続ける。
それを聞いてげっそりした様な顔をロセ様がしているが、スルーして良いのだろうか。
と言うか婚約者にしても、隣国のお姫様だとしたらそれこそ結婚しない限り会う機会が無いように思えるが、違うのだろうか?
「まあ、会わせてやれない事は無いんだがな。と言うか、ロセと一緒に会わせる機会は作りたいとは思うが公式には少し難しいな。非公式で良ければ、そのうち会わせてやるよ。」
楽しみにしてな、と笑う兄様に、非公式でどうやって会わせるのか、と疑問が湧くがそこはまあ色々あるのだろう。
横のロセ様をちらりと見遣れば、ため息を吐きながら紅茶を啜って居る。ああ、突っ込むの諦めたんだな、と可哀想な物を見るような目になったのは内緒だ。
その時コンコン、とノックの音が響き、馬車の用意が出来たと声が掛かる。
そうだ、星祭だ。
城に来た目的を兄様のお陰で一瞬忘れそうになっていた。
1つため息を吐いたロセ様が、いこうか、と声を掛けて私の手を取る。
それに従い、手を引かれながら3人で会場に向かった。




