転生令嬢、星祭のデートとヒロインについて考察する。
その後面白がって揶揄う兄様とのお茶を終えて自宅へ戻ると、ロセ様からの手紙が届いていた。
ニヤニヤと笑いながら渡してきたサラを睨み付けながら受け取り、慎重に封を開ける。
そこには、合宿の様子と謳ったリリーシアに対する愚痴と、最後に少しだけ星祭について書かれていた。
内容を見る限り、まだイベントは発生していない様で少し安堵する。ただ、兄様曰くイベントは合宿最終日に起きるらしく、この手紙が書かれた段階では、まだ起こって居なくても、本当の意味で安堵は出来なかった。
一方で、星祭について頭を巡らせる。
手紙にあった内容は、ほぼ今日兄様に言われた内容と同じ物だった。公式行事で、ロセ様の婚約者としてお披露目を兼ねて一緒に観覧する。言ってしまえばこれだけだ。
「問題は、その後なのよね…。」
ため息と共に、思わず独り言が漏れた。
自分から、ロセ様をデートに誘う。
改めて考えると、無理難題を押し付けられた様な気がして、頭を抱える。
だからと言って、今更約束を反故にする訳には行かないだろう。
兄様だって許さないだろうが、それ以上にフラグ回避の方法として唯一、と言っていい程の方法だと言われてしまえば、実行せざるを得ない。
色々言い訳を考えた所で、私自身ロセ様とリリーシアがくっつくのが嫌なのだ。うだうだ考えた所でなんの意味も無い。
「…ストレートに、誘ってみるか…。」
元々この年齢の私が夜間にデートに誘う時点で、不自然極まり無いのだ。グダグダと策を巡らせるより、ストレートに誘ってしまった方が、まだ潔いい。
それによってどんな返答が来るかは未知数ではあるが、やらないと言う選択肢がない以上さっさと腹を括った方がマシだ。
「まあ…無事合宿から帰ってきてから、よね…。」
何かの強制力で合宿中にリリーシアと付き合ってしまう可能性だって、ゼロではない。
取り敢えず話はロセ様が帰ってきてからだ。
そう思い、ロセ様からの手紙を文箱に仕舞った。
そして、現在。
私は今、ロセ様の私室にお邪魔している。
合宿からロセ様が帰って来て、翌日直ぐに私を招くべく兄様から召喚状が届いたからだ。
それ自体は別に良いのだ。元々その予定であったのだから。
しかし、何故。
ちらりとソファーの対面を見遣れば、不機嫌そうに腕を組むロセ様と、その横に座って腕にくっ付いているリリーシアが居る。
そして、私の横で平然と、優雅にお茶を飲む兄様。
何とも混沌とした空間が、出来上がっていた。
「フィリア、何故兄上と一緒に来たの?」
横に居るリリーシアをほぼ無視した形でロセ様が私に話し掛ける。
「えっと…」
「お前が帰って来たから、俺が知らせたんたよ。フィリアに会いたいんじゃないかと思ったんだが、違ったかな?」
私の発言を遮る様に、兄様が発言する。
「ふうん…そうなの?フィリア。」
「私が…」
「フィリアが、俺に頼んで来たんだ。この間一緒にお茶を飲んだ時にな。」
不機嫌そうな声に返答しようとすると、またも兄様に遮られる。
しかも会話のチョイスが最悪だ。
どうしてこう、兄様はロセ様を煽る方向なのか。
これじゃあデートに誘う所かまともな会話すら成り立たない。
まあ、リリーシアが居る時点でこの場で約束を取り付ける事は断念したのだが。
ロセ様に無視をされながら添え物の様にくっ付いていた彼女だったが、兄様と私を交互に見遣りながら、常に私に敵意の篭もった視線を向けていた。
もう、帰ってもいいかな、これ…。
ため息を吐きながら紅茶を啜る。
「兄上と、お茶ねぇ…。随分と仲良くなったんだね、フィリア。」
「この間暇が出来たからな。フィリアも是非、と言うから、俺の部屋に招いてやったんだよ。」
「そうなんだ、フィリア。」
フィリアフィリア煩い。私を挟んで兄弟喧嘩するなら、直接やって欲しい。ロセ様私の名前しか呼んでないじゃないか。
「ロセ!わたしにお兄さんを紹介してくれないの?」
この空気を読まず、果敢にもリリーシアが声を上げる。凄い、私には絶対真似出来ないし、したくない。
内心拍手を送りたい。
「…ねえ、リリー?僕は君を部屋に招いた記憶は無いんだけど、何故ここに居るの?」
今まで存在を忘れて居た、と言わんばかりのロセ様が、笑顔でリリーシアに辛辣な言葉を投げ掛ける。
「そんな…酷い。せっかく合宿で仲良くなれたのに、城に戻って来たら急に冷たくなるし…わたし…ロセと一緒に居たいだけなのに…」
完璧な角度で、目に涙を浮かべて薄ら頬を染める様子には、もう賞賛を送りたい。中身を知らなければ全力で応援してるかも知れない。
「ふぅん…。リリーシア嬢と仲良くなった、なぁ。自分の事を棚に上げて、随分と楽しかったみたいだな、なあフィリア。」
だから一々私を会話に巻込むのは辞めて欲しい。
あからさまに嫌悪を浮かべている兄様の様子が目に入らないのか、リリーシアはロセ様に潤んだ瞳を向けている。
「フィリア、誤解だからね。何も無いから。」
横から向けられたリリーシアの視線は無視する事に決めたのか、ロセ様が私に向き直って視線を合わせる。
リリーシアの態度からイベントは遂行されたのかと思ったが、違うのだろうか。
「誤解も何も、私は何も申しておりませんわ、ロセ様。」
流石に無視する訳には行かず、当たり障りの無返答をしたつもりだったがロセ様が明らかに動揺した。
横でため息を吐いた兄様に、ちらりと視線を向ける。
この場にリリーシアがいる以上、踏み込んだ話は出来ない。
兄様の命令でロセ様が強く出れないのは理解しているが、それでも目の前でベタベタくっ付かれていい気分がする訳が無い。
彼女が悪役令嬢を望んでいる以上、乗ってやればこの場は引くかも知れない。
本当は絡みたく無いが、しょうがない。
諦めてため息を1つ吐き、未だロセ様を見詰めるリリーシアに視線を向けた。
「リリーシア様。申し訳ありませんがこの場は退出して頂けますか。」
私の発した一言に、リリーシアが敵意の篭もった視線で睨んでくる。
「わたしはロセとお茶を飲みたかっただけです。何故、貴女に、そんな事言われなきゃならないんですか?」
ヒロインらしく、キッ、と私を睨み付けたリリーシアは、ロセ様にの腕にぎゅっ、と掴まる。
その様子だけ見て取れば、完璧なヒロインだ。
「貴女がロセ様とお茶を飲むのを咎める気はありません。ただ、私は今、ロセ様の婚約者として、王太子殿下と公式に訪問しているのです。公式行事の相談も含めての訪問ですので、部外者の貴女に何時までも居座られては困ります。」
「…そんな…酷い…っ」
目にいっぱい涙を溜めて、私に抗議しながらロセ様の方をちらちらと見る。しかし彼女の思惑に反してロセ様が彼女を庇う様子は無い。
「フィリア、そこまでで良い。…申し訳無いがリリーシア嬢。私は多忙なんだ。フィリアの言う通り君が此処に居ては話が進められない。退席して貰おうか。」
兄様のピシャリと言い放った声に、流石にリリーシアもビクリと肩を震わす。懇願する様な目でロセ様を見上げて居たが、やがて諦めたのか「分かりました…」と頭を下げて、出て行った。
最後に私をひと睨みして行く辺りは、流石だと思う。
いっそ、清々しい。
パタン、と扉が閉じる音と同時に、全員で示し合わせたかの様なため息が出た。
「ロセ、お前凄いのに好かれてるなぁ…アレの相手をしてるだけで尊敬するわ。」
「…リリーがもし部屋に来たら自由にさせとけって言ったのは兄上でしょう。ホント勘弁してくださいよ…」
げっそりとしながら兄様とロセ様が言い合う。
いつも以上に好きにさせて居た様だったから何かと思って居たが成程、そんな裏話があったのか。
「…ゴメンね、フィリア。巻き込んじゃって。嫌な思いもさせちゃったね。」
「…気にしておりませんわ。あの程度であれば問題無いです。」
にこり、と微笑んでそう言えばロセ様が嬉しそうに笑う。
傍から見れば微笑んで見えるかどうか謎だが、ロセ様や兄様に伝わって居るのであれば、まあ良いだろう。
「…で、兄上は何時まで此処にいるんですか?」
嫌そうな態度を隠さずにそう問うロセ様に、兄様が苦笑する。
何だかんだ仲良いんだな、この兄弟。
「邪魔扱いか?…と、言いたい所だがアレの相手をしてくれた分、気を使ってやろう。フィリア、この間の話、ちゃんとやれよ。」
にやりと笑って、ロセ様に対する嫌がらせも忘れない。
流石兄様、と全く褒めて居ない感想が浮かぶ。
「…この間の話って何?フィリア。じっくり聞かせて欲しいな。」
じゃあ頑張れよ?とか言いながらひらりと手を振って退席して行く兄様に恨みがましい視線を向け、それからロセ様に向き直る。
取り敢えず話をしなければ。
この後の話題に思いを巡らせながら、少し憂鬱な気分になりため息を吐いた。




