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世界はフラグであふれてる!  作者: 紗倉
7歳、婚約篇
19/88

仲直りは暗闇と共にやってくる。






無言で歩くロセ様に、何と声を掛けていいのか分からず何度か口を開いては閉じてを繰り返す。


恐くロセ様の私室に向かっているのだろう。


夜会中の王族区はいつもよりしんと静まり返っており、余計に心細さが増す。


私を抱き抱えるロセ様の腕はいつもより少し力が強くて、痛くは無いが何処へもやらない、と言う意思表示を示して居る様だった。


だったら、さっきあんな事しなければ良いのに。


そこ迄考えて、愛を返せない、と思っている癖に相手からの愛を期待する様な身勝手な考えに苦笑が漏れそうになった。

あのヒロインの事を言えない、自分の浅ましさを見てしまった様で、僅かに眉を歪ませる。




そうこうしている間にやはり目的地であったロセ様の部屋に着き、ロセ様は器用に私を抱いたままドアを開けると、そのままソファーの上に座り込んだ。


暗闇の中で、相手の体温だけが近くて密かに戸惑う。


「……んで」

「え?」


顔を伏せたまま小さな声で問い掛けられ、近くにいるのになんと言ってるのか分からなくて聞き返す。


「何で、先に出てったの?待っててって言ったじゃないか。…戻って来たら君が居なくて、慌てて部屋まで行けば兄上の膝の上でお茶を飲んでるなんて…僕の事馬鹿にしてる?」


切なそうに言われるが、言われた内容にかあっと、と苛立ちを覚える。何故と、この人が言うのか。


「……馬鹿にしてる?それを貴方が問うのですか?」


苛立った気持ちのままそう問い掛ければ、紫の瞳が僅かに、揺れる。


「どう言う意味?……まさか、フィリアまでリリーと僕が恋仲だとでも言うつもり?」

「違うのですか?てっきり私は、リリーシア様との恋を隠す為の都合の良い政略結婚なのかと思いましたわ。」


きっ、と睨み付けながら言えば、ロセ様が傷付いた様な、泣きそうな視線を向ける。


「リリーとは恋人じゃないって言った筈だ。嘘は吐かないとも伝えてる。これ以上何を伝えたらいい?」


僅かに怒ったかの様な声でそう言ったロセ様に、思わず嘲るような笑いが漏れる。

周りにどう見られていたか、周りが私をどんな眼で見ていたか、知らない訳ではあるまい。


「……如何に私がデビュタント前でも、ファーストダンスから2曲続けて踊る事の意味くらい知ってますわ。それを彼女と行った以上、周りからも私からも、そう取られても仕方ないと思いませんか?」


自分で言いながら、さっきの光景を思い出してじんわり涙が浮かんでくる。

…いつの間に、ロセ様にこんなに執着する様になってしまったのだろうか。


「それは……!……っゴメン、言えないけど、でも理由があって……」


勢いよく顔を上げて否定したロセ様だったが、どんどんと声が小さくなって行く。

どんな理由なのか分からないが、どうしても話す気は無いようだった。


もう、良いだろう。これ以上は無意味だ。



「……もう、良いです。どうせ学園に戻れば又、私とは会わなくなります。ロセ様のプライベートに踏み込む気はありませんのでご安心下さい。」


そうやって、踏み込まない代わりに距離を取って欲しい。今の様な距離感じゃ、きっと辛い。

この先、婚約破棄の可能性が増えてきた以上、近過ぎるのは駄目だ。……じゃないと、また泣く羽目になる。



「……申し訳ございません、今日はもう、帰りますわ。…離してくださいますか?」


本当は、父上と母上が夜会から帰る時間まで城で待たせて貰う予定だったが、これ以上此処に居たくない。

しかし僅かに力を込めて立ち上がろうとするが、ロセ様の手の力は緩まなかった。寧ろ、どんどん強く、ぎゅうっ、と抱き締められる。


「……帰らないでよ。こんな状態で帰ったら、もう二度と来てくれないじゃないか。……折角捕まえられたと思ったのに、こんなのは、嫌だ。」


暗闇に、ロセ様の懇願の声が響く。

余りにも弱々しく響くその声に、思わずロセ様の頭にそっ、と手を触れさせた。


それでも、あの時の光景が、ちくりと胸を刺す。


言うべきではない、そう思って居るのに。


「……だって、あの時ロセ様は私を見ること無くリリーシア様の元へ向かわれましたわ。その上、楽しそうに腕を組んでダンスを踊られて…その間、私は1人で……」


1度口から出た言葉は、止まらない。


涙が浮かんで、声が震える。

ああ、成程。認めざるを得ない。

私は、この方に惹かれて居る。

まだ、恋とも愛とも呼べないけれど、でもこの方に冷たくされるのは、嫌なのだ。


「……フィリア?泣かないで?」


私が涙を浮かべている事に気付いたロセ様が、慌てて私の涙を拭う。その暖かい手に、益々涙が溢れてくる。


「……ごめ……っなさ……っ……」


涙が止まらす上手く喋れない。

溢れる涙を、そっとロセ様が舐め取り、その行動に吃驚している私の頭を撫でた。


「……僕こそ配慮どころか考えが足りなかった、御免。フィリアは何も悪く無い。あんな場所に居たくないのは、当然だ。兄上には……腹も立つけど、それでもフィリアを送ってくれた事には感謝してる。」


ちゅ、ちゅ、と音を立てて額に何度もキスされる。一気に顔が紅くなるが、それでもロセ様は止めてくれない。


「……あの……っ、もう大丈夫ですから、離して……っ!」

羞恥心から顔を真っ赤にしたまま抗議するが、

ロセ様にまだダメ、と笑いながら却下を受ける。


すっかり何時もの調子を取り戻したロセ様に、心の中で密かに安堵した。




「……御免ね、フィリア。あの時君の顔を見れなかったのは…その、君が笑っただろう。」

「笑った……?」


そう言えばその前の会話で、ロセ様が可愛く思えて笑った気がする。


「その顔が、余りに可愛くて、無防備で。あんな場所で、他の人に見せたくなくて、でも僕も正視出来なくて。それで、頭を冷やしたくて挨拶まわりに出たんだ。」


少し決まり悪そうに微笑みながら、ロセ様が言った言葉に、再び頬が赤くなる。


「そんなの……わかる訳無いじゃありませんか…」


辛うじてそう呟けば、うん、だから御免ね、と言いながら再び額にキスが落とされる。

ちゅ、と響く音がどうにも恥ずかしくて、思わず黙り込んでしまう。


「……ホント、フィリアは可愛いね。」


くすくすと笑いながら、ロセ様が私の頬を撫でる。その様子を睨み付けはするが、それ以上何かをする気にはなれなくて、大人しくその行為を受け入れた。




「……あの、そろそろ下ろして頂けますか…?」


暫くロセ様が私の頭を撫でるのを放置していたが、段々ロセ様の膝の上に乗っているのが恥ずかしくなってきて声を出す。


「ん?別に重くないし、大丈夫だよ?」

「そう言う事ではなく……!」


惚けて答えるロセ様に、思わず語尾がキツくなった。然しロセ様はそんな私の姿を見て楽しそうに笑う。


「駄目だよ、フィリア。僕は今フィリア欠乏症だからね、補充しないと。」

「何ですかそれは……」


クスクスと笑いながらそう言うロセ様に、呆れた声を掛ける。


「大体、原因が僕だとしても兄上に懐きすぎじゃない?……兄様とか、呼んでるし。膝の上に座ってるし。」


先程とは打って変わって拗ねたような声を出され、どうにも苦笑が漏れる。


「……ねえ、フィリア。なんで兄上が兄様、なの?」


覗き込む様に聞かれて、思わず返答に困る。

本当の事を言える訳では無いのだが、ロセ様を上手く誤魔化せる気もしない。


…………1つの、言い訳以外は。


ただ、これは私が恥ずかしい。

どうしようか、と思い悩んでいると、フィリア?、と様子を伺う様にロセ様から返答を促される。


こうなったらしょうがない。兄様なら何とでも口裏合わせてくれるだろう。その辺は信用出来る。


「……えっと、ロセ様と……」

「僕?」


きょとん、とした顔で聞き返されて、羞恥心が煽られる。思わず顔を赤くしながら、声を絞り出した。


「…………ロセ様と、結婚するのだから、兄だろう、と。」


思わず俯きながらぼそぼそと声を出すと、一瞬の間の後にロセ様が、破顔した。


「……成程。つまり、フィリアは僕と結婚するから、兄上を兄様と呼んでいる、と言う事だね。」


確かめるかの様に一言一言口に出されて羞恥心を更に煽られ、はい、ともいいえ、とも言えず黙り込んでしまう。

その様子を楽しそうに見るロセ様は、うん、それなら納得してあげる、と満足そうに笑った。




そして、私は、羞恥心と引き換えにロセ様の前でも兄様、と呼ぶ権利を手に入れたのだった。




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