転生令嬢、王子2人の関係性について考察する。
苦しそうに息をしながら駆け込んできたロセ様が、顔を上げた途端目を見開いて此方を見詰める。
それはそうだろう。
何も言わずに退席してきた上に、何故か面識のなかった筈の王太子殿下の膝の上に自分の婚約者が座ってるのだ。
驚くなと言う方が無理だ。
何となく気まずくて視線を逸らしたがそれがまた不味かったのかも知れない。
ロセ様はツカツカと私の横まで来ると、そのまま無言で兄様の膝の上から私を奪い取って、抱き上げた。
そして兄様を睨み付けると、口を開く。
「何をしてるんだ、兄上。」
「……フィリアとお茶を飲んでいた。それ以外何に見える?」
しれっと答える兄様に、ロセ様は更に敵意を向ける。
「初対面の令嬢を膝の上に乗せてお茶を飲む趣味が兄上にあったとは。聡明な兄上らしくない意外な趣味ですね。」
睨み付けながらそう言うロセ様に、兄様がふっ、と小馬鹿にした様な笑みを向ける。
「……それで俺を煽ってるつもりか?ロセ。そんな言い方で俺に勝てるなんて思ってないだろうに、ホントらしくねぇな、今日は。」
「らしかろうが、らしくなかろうが関係ない。フィリアは返して頂きますよ。」
私を抱き上げたままそう言って歩を進めようとしたロセ様に、兄様がくすりと嗤う。
「フィリアは今のお前と行きたく無さそうだけどな。少しはその腕の中の大事なヤツの顔、しっかり見たらどうだ?なあ、フィリア。」
兄様がそう言って私に言葉を掛ける。
それと同時に、はっとしたロセ様が私の顔を覗き込んだ。紫の瞳が、悲しそうに揺れている。
「……ロセ様を揶揄うのはそれ位にしてくださいませ、ルカ様。」
抱き上げられたままため息を吐いて兄様を見遣れば、可笑しそうに笑う兄様の顔が見える。
全く、好きな物を虐める傾向にあった兄様の性格は、あまり変わってないらしい。
「フィリア、ルカ様じゃない。言っただろう?」
この方はまだロセ様を弄るつもりか。絡みたいのは結構だが、私を巻き込まないで頂きたい。
「……ルカ兄様。」
諦めてそう口にすれば、今度はロセ様が目を見開いて固まる。
「……フィリア、なんで兄上を兄様って呼んでるの…?」
機嫌悪そうな顔でそう問われるが、詳しく説明など出来ない状況に、言葉が詰まる。
「えっと……成り行きで……?」
結局何とも要領の得ない返答しかできず首を傾げると、ロセ様の機嫌が更に悪くなった。
その様子を1人兄様だけが、楽しそうに見詰めている。
「ロセ、フィリアを責めるな。……そこまで俺を失望させるなよ?」
そう言って嗤う兄様に、ロセ様が嫌そうな顔を向ける。
「兄上に言われなくても、分かってますよ。」
「どうだかな?さっき楽しそうに婚約者以外と二曲も踊ってたヤツの言葉なんて、信用できねえな。」
そう言った兄様の言葉に、ロセ様がぐっ、と言葉を詰まらせる。
「……貴方がそれを俺に言うんですか。」
「ああ、言うさ。……なあ、ロセ。やり方を考えろよ。今更そんな事まで言われなきゃ分からない程、お前の頭は惚けてんのか?」
兄様に呆れ顔でそう言われ、ロセ様は何か言葉に出そうとするが、結局何も言えず苦々しそうに息を吐き出す。
「……兎も角、フィリアに余り構わないで下さい。兄上はもうすぐ婚姻が決まっている身でしょう。婚約者殿が泣きますよ。」
「流石、現在進行形で泣かせてるヤツの言葉は違うな。御心配痛み入るよ。」
的確に痛い所を突いていく兄様の言葉に、実は本気で怒ってるんだと分かる。
恐く、兄様は私が蔑ろにされた事に、相当腹を立てている。
「……ルカ兄様。その辺にしてください。」
私が止めなければ、きっと兄様は止まらないだろう。正直庇う気にはなれないが、このままではいけない。
ため息を吐きながら、兄様にストップを掛ける。
そんな私を見て、兄様は面白くなさそうにふん、と1つ息を吐いた。
「……良かったな、ロセ。小さいのに聡明な婚約者で。……一つだけ言っておく。フィリアを、泣かすな。お前のやり方でこれ以上フィリアを蔑ろにする事があれば、俺の権限を持ってこの婚約は破棄させる。よく覚えておけ。」
「……それこそ、兄上に言われる間でもありませんよ。」
ロセ様は苦々しい顔でそう吐き出すと、今度こそ私を抱いたまま歩き出した。
そのまま控えの間を出て行く時、兄様が私に向かってにこやかに手を振る姿が見え、胸の中で盛大に1つ、ため息を吐いた。




