王太子殿下が、前世の話とやってくる。
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ありがとうございます~!!
「……は?……えっと……」
思わず固まってしまって、何を言って良いのか全然分からない。
そんな私の様子を見て、ルカ様が困った様に笑い掛けてくれる。
「フィルリア嬢、別に困らせるつもりで言った訳じゃないから大丈夫だ。その反応で伝わった事は理解したしな。」
「……そうですか、それは……良かったです……」
何と返していいのか分からず、何とも間抜けな答えしか出て来ない。そんな私を見て、ルカ様が苦笑を浮かべる。
「……フィルリア嬢。まだ時間あるんだろう?少し俺とお茶でも飲もう。」
そう言うと、おいで、と言ってそのまま控えの間に入室する。
部屋の中には、早く退席する私の為であろうお茶が、既に用意されていた。
いつ来るかも分からない筈なのにまだ湯毛を立てたまま置かれているカップを見て、流石王家の使用人は優秀だな、なんて場違いな事を考えた。
私をソファーに座らせ、対面にルカ様が座る。
緊張している私を見て、ルカ様が苦笑を浮かべた。
「別に、取って食おうって訳じゃないからそう緊張するなよ。」
「……申し訳ございません。」
それでも緊張の取れない私に、ルカ様は更に苦笑する。
「フィルリア嬢、取り敢えず此方の話を先に説明しておいてやろう。その方が緊張も解けそうだしな。」
「ありがとうございます……」
苦笑を浮かべながら会話を進めてくれるルカ様に、内心安堵する。
もう、頭の処理が追い付かなくて上手く会話すら出来て居ない。
「フィルリア嬢、良ければフィリアと呼んでも?」
「あ、はい。勿論。」
笑いながらそう言われて、素直に答えた。
此処までの態度でルカ様が私に敵意を向けて居ない事は分かる。ありがとう、と笑うルカ様に、此方も自然に笑みが零れる。
「フィリア、君が転生者だと言う事は理解した。因みに言っておくと、我が国の王家には割と高頻度で転生者が産まれる。過去の記憶を持って産まれる事で、他には無い知識と力を持つ。そうやって、この国は栄えて来たんだ。」
初めて聞く話に思わず息を呑む。転生者が、そんなに居るなんて思わなかった。
「この国が神話時代に女神の加護を受けたからだとも言われているが、実際の所は分からない。ただ、今解っている事は国王直系の男児に産まれやすい、と言う事だけだ。」
直系男児。という事は、ルカ様も、そしてロセ様もその可能性があると言う事だ。
「……まあ、俺はお察しの通り転生者だ。日本と言う国の、関東と呼ばれる地域に住んで居た。前世の最期は覚えて無いが、大学と言う施設で客員教授をしていた事は、覚えている。」
「……客員教授……。」
そう呟いた私に、ルカ様は笑みを向けた。
「その反応は、同郷って感じだな。そうだ、心理学を教えていた。お陰で今も人の心が分かり易くて助かってるよ。」
にこりと笑う顔に、自然と肩の力が抜ける。
手に持った紅茶のカップが震えていた事に今更ながら気付き、思わず苦笑を浮かべた。
「……前世の、兄の様な人が客員教授をしていたんです。同じ心理学を教えて居たので、少し懐かしい気がします。」
そう言って笑えば、ルカ様が驚いた様な顔をする。その様子が、なんだか可笑しくて思わずクスクスと笑った。
「流石に同じ職業のヤツと知り合いとは思わなかった。世間は狭いな。」
「……そうですね。私もこんな所でそんな繋がりのある人に会うなんて、思いもしませんでした。……紫苑兄様……いえ、その兄の様な人にも、教えたらどんな顔するのか見てみたかったです。」
そう言って笑うと、今度こそルカ様がぴたりと固まる。何事か、と思って顔を見れば、困惑した様な表情が見て取れた。
「……鏑木紫苑、知り合い?」
僅かに疑うような言葉に、今度は此方も固まる。
「……ルカ様は、紫苑兄様のお知り合いの方なのですか…?」
そう言葉を搾り出せば、ルカ様があー、と声を上げて困惑した瞳を、私の方に向けた。
「……雛、か?」
「……紫苑兄様?」
西依 雛。それは前世の私の名前だ。
お互いの視線が混じり合う。
暫くの無言の後、何故かルカ様が席を立つと、私の横に移動してくる。無言のまま、ひょいっと私を抱き上げると、ぎゅっ、とそのまま抱き締めた。
「……っはは、雛か!良かった、会いたかった……!」
そう言いながらぎゅうぎゅうと抱き締めるルカ様に、恥ずかしくて顔が紅くなる。
「……ちょっ……!兄様!下ろして!下ろして下さい……!」
顔を真っ赤にしたままそう抗議するが、抱き締める力は弱くなったが下ろしてはくれない。
私の顔を覗き込んで嬉しそうに笑う。
「まさか雛が転生してるなんて思わなかった。でも、会えて嬉しいよ。……こんなに小さくなってるなんて、何か新鮮だな。」
「小さいは余計です。実際7歳なんですから、小さくて当然でしょう。」
僅かにむくれながらそう言えば、それが可笑しいと言わんばかりにルカ様は笑う。
「……そっか、フィリアが雛だとすれば、俺の懸念は無意味だったな。」
「懸念?」
どうやら私を離す気の無い兄様は、私を抱えたままソファーの上に座り、その膝の上に私を下ろす。抗議しようかと思ったが、ルカ様が兄様だとしたらその抗議は無意味なので辞めた。
人を喰った様な性格の兄様は、自分から折れる事はあまり無かった。害が無い以上放置するに限る。
「実はな、俺はこの世界の元になったゲームを知っている。雛、お前が悪役令嬢であるフィルリアだと言う事も。」
言われた言葉に、思わず息を呑む。
「兄様、それは本当なの?」
「ああ。昔の彼女がやっていたのを見ていた事があるんだ。当時彼女がかなり嵌っていて、心理学に役に立つから!って設定資料まで読み込まされた。まあ、心理学には役に立たなかったが、今役に立ってるから結果オーライだな。」
私の頭を撫でながら、兄様は話を続ける。
「そのゲームでは、フィリアはロセの1つ歳下だった。この時点で現状とは差異があるんだ。今年に入ってヒロインが学園に転校してきた、と聞くまでは何も起こらないかも知れないとすら思って居たんだが、実際には転校して来てしまった。」
苦々しい表情で話す兄様に、疑問が浮かぶ。
ヒロインにそんなに嫌な思い出でもあるのだろうか。
「彼女が登場した事が、そんなに問題なのですか?」
そう問えば、兄様からは苦笑が返ってくる。
「考えても見ろ。ゲームの世界なら、好きになって他の人間も巻き込み、ハーレム築きながら最終的には結婚しました、ハッピーエンドだ。ああ、素晴らしいね、良かったねで終わる。ただな、此処は現実だ。学園に通う、今後国に有益な人間達が卒業後も遺恨を残す様な争いをして、挙句ロセとくっついて王家にでも入り込まれた日には、目も充てられない。」
ため息をつきながら説明する兄様の顔には、本当にうんざりした表情が浮かんでいる。
「王太子としてはあの女の行動を、看過出来ない。だから周囲を探らせてたんだが……」
兄様はそこで言葉を切って、ちらりと私を見る。
「雛、本当はな、俺はお前と手を組もうと思って居たんだ。」
「手を組む?」
首を傾げて聞くと、兄様が苦笑しながら私の頭を撫でる。
「フィルリア嬢は、聡明だと噂になっていた。今日会ってみて、所作や言動、行動全てが7歳にしては出来過ぎていて、俺はきっと転生者だと踏んだ。だからこそ、2人になれる場に連れ出したんだ。」
まあ、ロセに腹が立ったのも本当だけどな、と笑いながら先を続ける。
「フィルリア嬢にゲーム知識があるかどうかは分からないが、少なくともあの女と違って短慮な人間では無さそうだった。だからこそ、情報を渡して手を組もうと思って居たんだが……」
「……今は、手を組む気は無くなった、という事ですか?」
兄様の顔を覗き込む様に伺うと、違うよと苦笑される。
「正直フィルリア嬢が転生者で聡明だったとしても、100%の信用は出来なかったし、する気も無かった。……でも、お前が雛なら話は別だ。フィルリアの中身が雛なのだとしたら、それはその時点で100%信用するに値する。それは、俺の中では揺るがない。」
しっかりと私の目を見て説明する兄様に、何故か恥ずかしくなり頬が紅くなる。
「まあ、雛だった時点で無条件で味方に変わるから、正確には手を組む、じゃ無くなるんだけどな。」
楽しそうに笑いながら頭を撫でてくれる兄様に、私も笑みを返す。記憶が戻ってからずっと付き纏っていた心細さが、一気に融けて行く様だった。
「……雛、いや、フィリアと呼んだ方が良いか。フィリアはロセとの婚約、どうしたい?」
ふいにロセ様の話題を出されて、心臓がどきりと音を立てる。
それと同時に、先程のリリーシアとのダンスの様子が頭に浮かび、唇を噛んだ。
「……わかりません。婚約破棄されるなら、それでも良いです。でも、今日みたいな晒し者の様な扱いは、御免です。」
だよなぁ、とため息を吐きながら、兄様は私の頭を撫でてくれる。
「取り敢えず、ロセがもし婚約破棄をしたとしてもお前の事は俺が守ると約束しよう。断罪なんてさせないから、安心していて良い。その上で、どうしたいかはフィリアが決めればいい。」
俺は味方だから、と安心させるように微笑まれ、思わず涙が出そうになる。
「ありがとうございます、ルカ様。」
「ルカ様、よりも兄様の方がしっくり来るな。今後はそっちで。」
その物言いが可笑しくて、涙目のまま微笑めば、兄様も嬉しそうに笑った。
「何かゲーム関係の事で話がある時は、雛と呼ぶから。それ以外はフィリアだから、俺の事はそれで判断して。」
「分かりました、ルカ兄様。」
私の頭を撫で続けていた兄様に、そろそろ下ろして、と口を開こうとした時、廊下の方からバタバタと言う音が聞こえた。
来たか、と澄ました顔をした兄様に困惑した顔を向ければ、しっかりと抱え込み直される。
それと同時に、バタンっ!と言うけたたましい音と共に、扉が開いた。
驚いて其方を見遣れば、そこに居たのは息を切らせて苦しそうに立つ、ロセ様だった。




