閑話.転生王子は思いを巡らせる 2
お茶会当日。
そわそわとした気分で控え室に行けば、学園から招待していた友人達がもう既に待っていた。
「ああ、悪い。待たせちゃってたんだね。」
そう言いながら笑い掛ければ、気にするな、と答えが帰ってくる。
控え室にと指定した室内には、参加する人間がほぼ集まっている様だった。
しかしふと見回せば、リリーの姿が見えない。
確かにお茶会自体は参加自由にしたので居ない人間もチラホラ居るが、あれだけ来たがっていた彼女が欠席とは、考え難かった。
「あれ、リリーは?一緒じゃないの?」
「ああ、彼女は待ちきれないから先に行くそうだ。先程ドレスだけ見せに来てたぞ。良く似合ってた。」
いつも学園で補佐をしてくれている、副会長のリオンがそう答えてくれる。
その言葉を聞いて、内心舌打ちをした。
彼女に自由に動き回られると、何があるか分からない。タダでさえトラブルメーカーで、女性と揉めやすい彼女だ。お茶会の会場に集まっている筈の気位の高い令嬢方とは、恐らく全く馴染めはしないだろう。
「そっか。ちょっと見てくる。」
あくまで平静を装いそう声を掛ければ、リオンから時間になったら行くよ、と言う言葉が帰ってくる。少し早足になりながら、会場となる中庭に向かって急いだ。
(しかし……どうしようか。)
隠密の魔法を使って姿を眩ませつつ、中庭を覗く。入り口近くの壁に背を持たれ掛けながら暫く観察していると、案の定リリーが侯爵家の令嬢であろう女性と言い合いを始めた。
(もうほんっっと、勘弁してくれないかな……)
呆れを通り越してウンザリしてくる。
彼女自身は僕に見られているとは思っても居ないのだろう。普段の可憐な様子など微塵も見せない気の強さで、侯爵令嬢を言い負かそうとしている。
(あの姿……リオン達にも見せてやりたいなぁ。)
きっと、100年の恋も冷めるに違いない。
そう思いながら仲介するかどうか迷っていると、廊下から此方に向かって歩いてくる2人が目に入った。
それを見た瞬間、僕の心がどきりと音を立てる。
久しぶりに見る彼女は随分と綺麗に、大人っぽくなっていた。プラチナブロンドの髪を半分結い上げ、少し憂いげな表情でこっちに向かって歩いて来ていた。薄いラベンダー色のドレスが、よく似合っている。
(……僕を意識して着てきてくれたのかな。)
少し自惚れ過ぎだとは思うが、僕の色を纏ってくれていると言う事実に僅かに頬が緩む。
横を通り過ぎる時、ちらりとリンドノート公から視線を向けられた為、片手を上げて挨拶を返す。
隠密魔法を見破れる人間は、そう多くは無い。
伊達にこの国の宰相として辣腕を奮っている人間では無い様だ。
リンドノート公は中まで彼女をエスコートして行くと、2、3言葉を交わした後早足で執務室に向かって去って行った。
少し成長したとは言えまだ幼い彼女。
他の令嬢方の好奇の目に晒されながら少し俯いて居る。
そのうち、何かを伺うかの様に辺りを見回した後人混みを縫うようにして端へと向かって行った。
(入り口からじゃ良く見えないな……)
折角フィリアに会えたのだ。時間まで話せずとも近くに居たい。
少し移動しようか、と思っていた矢先、目の前を桜色の髪が駆け抜ける。
呆気に取られてるうちにつかつかと歩いていったリリーは、あろう事かフィリアの背中をどんっ!とかなりの力で押した。
(な……!何してんだあの女!)
押された方のフィリアは、何とか踏ん張ったのか
訝しげな視線を向けると、それでも完璧とも言えるマナーで淑女の礼を取った。
その姿が癇に障ったのか、何を言っているのかまでは分からないがぎゃんぎゃんと喚くリリーの声が聞こえる。
(……どっちが年上なんだか…ってこのままじゃ不味いな。)
隠密魔法を使ったまま行ってもフィリアを守る事は出来ない。
内心歯噛みしつつ入り口を出て、魔法を解除すると丁度やって来たリオン達と共に再度中庭に足を踏み入れた。
先程迄とは違う甘い雰囲気に迎え入れられ、内心苦笑が漏れる。
挨拶もそこそこに辺りを見回せば、丁度リリーが此方に向かって走って来る所だった。
その奥で、フィリアが汚れたドレス姿で立ち上がるのが見える。
……まさかあの後また押されたと言う事だろうか?
隣で何事か話続けるリリーを無視して、苛立ちを隠しながらフィリアの方に足を運んだ。
しかしどうやら何か考え事をしているらしく、至近距離で覗き込んでも反応が無い。
(……何処まで行ったら、気付くのかな。)
じーっと見詰め続けると、ふ、と顔を上げたフィリアと視線が交わる。
瞬間、大きく目を見開いて固まった。
(ああ……綺麗な瞳だな……空の色。)
固まるフィリアが面白くて、自然に笑いが漏れた。然し大きく開いたその瞳の奥に、何とも言えない違和感を感じる。
(……あれ……?)
いや、そんなまさか。
そんな都合のいい事が、あるのだろうか?
彼女の方も、記憶が戻って居るかも知れない、なんて。
(……でも、そうだとしたら。)
逃してなんて、やれない。
もしかしたら、フィリアが何も覚えて居ないフィルリアとして過去とは関係無く生きたいと願えば、何万分の1かの可能性で、逃してあげれたのかも知れないけれども。
でも、君があの君であると言うのなら。
もう、どんな確率だろうと、逃がしてなんてあげれない。
僕の半身。僕の永遠。
……俺の、フィリア。
「やあ、フィリア。久しぶりだね?」
そう言った僕に慌てて謝罪するフィリアを見て、更に笑みが深くなる。
本当は、今日は別にお茶会だけのつもりだったんだけど。でも君が君であると言うのなら容赦はしない。持てる力全てを持って、全力で君を囲い込もう。
取り敢えずは良い言い訳になりそうなドレスを盗み見て、心の中でプランを立てる。
彼女を俺の手の中に収めるまで、あと少し。
※20190402 うっかり名前が被ってしまったので、副会長の名前をシオン→リオンに変更しました。




