閑話.転生王子は思いを巡らせる 1
ロセフィン視点です。
多少、戦場での描写があります。
苦手な方はご注意ください。
その子と初めて会ったのは、まだ彼女が3歳位の頃だ。
謁見の間で父親に連れられて王に挨拶をしている姿を見たのが、最初。
礼を取り顔を上げた彼女を見た瞬間、物凄い衝撃が僕を襲った。
おかえり、やっと逢えたね。ずっと待ってた。
そんな言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
ああ、僕はこの子を待っていた。
それと同時に前世の記憶が蘇る。
全てを掛けて愛していた筈の彼女と、守れなかった僕。
苦々しい思いと共に、前世の、そして今目の前に居る少女に対する恋情が、心に空いた穴にスっと収まった様だった。
とはいえ、相手は3歳、僕は12歳。
今この場で彼女を捕まえる事は出来ない。
何より、彼女の眼は僕に対して何の感慨も持ち合わせて居ない。前世の事も、何もかも覚えて居ない彼女に、これ以上何も出来なかった。
その後何回か顔を合わせる事はあっても、会話をするには至らない。
精一杯微笑んでいるだろうに余り表情の変わらない彼女に安心して貰える様にこちらも微笑んで見せれば、回を追うごとに彼女の警戒心が削がれて行く様だった。
そして何度目かに会った時、珍しく父親から離れたがらない彼女を優しく抱き上げ、お茶の席に攫った。
抱き上げた体温が思った以上に温かくて、生きている彼女が愛おしくて、宝物を扱う様に、大事に大事に時間を過ごした。
帰り際、また一緒にお茶を飲んでくれる?と聞くと、はにかむ様に笑って肯定してくれる彼女に一瞬で心を持って行かれた。いや、僕の心はとうの昔に彼女の物なのだけれども。
前世の彼女もそうだった。
僕から見れば分かり易い位なのに、他の人から見れば余り表情の変わらないお人形の様な扱いをされていた。
その分ごく稀に見せてくれる心からの笑顔の破壊力が半端なくて。前世の僕もその笑顔にやられたのだ。
しかし、そのお茶の約束が果たされる事は、無かった。
その後辺境で大規模な争いが起こり、僕は戦場に駆り出されたのだ。
王家特有の多大な魔力と、武力。まだ若輩ではあるが戦力として僕に適う人間は、この国にはそう居ない。
血に塗れ、最前線で戦う。
辺りに充満する血の匂いと、悲鳴。
前世を思い出したとは言えただの大学生だった僕。平和な国でぬくぬくと過ごしていた成人のメンタルなんて、なんの役にも立たなかった。
しかし王家の人間として、持てる者の責任として、放り出す事は出来ない。
激しい戦いに魔力不足でフラフラになりながら、剣を振るっていた。
周りに倒れている今朝まで味方だった、もの。
野原が焼ける匂いと、あちこちから上がる悲鳴。
血に塗れた戦場で、何故か場違いにも最後にみた彼女の笑顔を、思った。
争いが終わり、戻って来た僕は『武の英雄』なんて呼ばれる様になって居た。
兄上が『知の英雄』、僕が『武の英雄』。多彩な戦術と戦場での活躍で争いを終わらせた、この国の希望、なのだそうだ。
何故か滑稽な気がして、思わず薄い笑みが漏れた。英雄、だなんて。僕はただの人殺しだと言うのに。
思わず、誰も居ない部屋で1人、泣いた。
何故だかとても、彼女に会いたかった。
でも、その希望は叶えられる事は無く僕はそのまま学園へと通う事になった。
英雄、なんて枕詞の付いた僕は、今まで以上に完璧を求められる。
期待と賞賛、王族に対して媚びを売ってくる相手。兄上曰く、それらを上手く扱えてこその王族、なのだそうだ。
段々と心に、虚しさが募って行った。
そうして居るうちに2年が経ち、転入生だと言うリリーシアと出会った。
最近男爵家の養子になったと言う美しい彼女は、天真爛漫であっという間に同じ生徒会のメンバーと馴染んで行く。
ただ、なんと言うか距離が近い。他の男子生徒にも同じ距離感で接しているらしく、婚約者である他の女生徒から何件も苦情が上がって来る程だった。
正直、勝手にやって欲しい。
そう思うが、何故か兄上から彼女の動向を監視する様に密命が届き、相手をせざるを得ない状況が続いて、密かに苛立った。
そんな折、僕の生誕祭を行うので帰城する様に、との手紙が届く。
その前に、婚約者の居ない僕の婚約者候補を集めてお茶会を開くとの通達と共に。
胸が、ズキリと痛む。
正直僕は彼女の事しか要らないが、第2王子としては婚約者を決めない訳にも行かない。
そこまで考えて、前世で嫌という程味わった心の中を這うような、どろりとした感覚が、体の隅々まで染み渡った。
僅かばかり悩んだ結果、直ぐに王宮に手紙を書く事にする。招待客に、リンドノート公爵令嬢を追加して欲しい、と。
形ばかりだとしても、僕は彼女以外要らない
もし婚約者に据えるのであれば、それは間違いなく彼女しか居ないのだ。
現在の彼女は7歳。若干年の差はあるが、僕が成人して暫く経てば十分結婚出来る年の差だ。
噂に聞く彼女の聡明さと家柄であれば、大して反対意見も起こらないだろう。
「俺なんかに捕まっちゃって、可哀想だね、フィリアは……。」
苦笑いを浮かべながら誰に伝える訳でも無くぽつりと呟いた言葉は、暗い部屋に、融けた。
その後何故かイベントがどうとか言いつつお茶会に来たがって騒ぐリリーに、内心ため息を吐きながら生徒会全員を招待する事でその場を収めた。
兄上にも実際会って確認したい、と言われて居るし丁度いい。夏休みは生徒会全員を城へ招待、と言う形を取る様にする。
そうこうする内に夏休みが始まり、準備もある為城に戻る事にした。
城で過ごす僕の元に、まもなくリンドノート家から参加の返事が届き、浮き足立つ様な気分のままお茶会当日を迎えた。
意外と暗くなってしまった…。
長くなってしまったので2話に分けます!




