転生令嬢、王子の真意を考察する。
「……理解出来ない?と言われましても困りますわ。」
何とか辛うじて、それだけ口にするが、ロセ様は納得して下さらないらしい。
30点かな、と笑いながら点数を付けられてしまった。中々厳しめの点数だ。
「……ねえ、フィリア。君今幾つなんだっけ?」
「私ですか?7歳になりました。」
突然歳を問われきょとんとすると、ふうん、と楽しそうな声で笑いかけられた。
何だろう、嫌な予感しかしない。
「……フィリア、君は7歳にしては大分聡いよね。周りを見る眼にも長けている。僕も大分早熟だったけど、同じ年の頃に君程周りが見えていたかと言われると、疑問が残るよ。」
「……それは買い被りすぎですわ、ロセ様。」
絞り出す様に口をついた声に、自分でも動揺し過ぎた、と内心苦々しく感じる。
「そう?少なくとも僕は正当に評価しているつもりだけどね。……リリーは実際、君より8つ上なんだけど、とてもそうは見えない。それに君はさっき咄嗟に彼女を庇った。自分で転んでしまった、と嘘を吐いてたね。何で?」
「……言う必要が無いと思ったからですわ。」
それ自体は本当の事なので、嘘では無い。
ただ、理由を積極的に端折っただけで。
「必要が無い……ね。でも上位貴族の君に彼女が手を出したのは事実だ。ドレスだけで済んだから良いけど、怪我でもしてたら大騒ぎになっていた。結果論として何も無かったけど、だからと言って許される行為でも無いだろう?……それでも言う必要が無いと感じる?」
「……ええ。私が不注意だったのは事実です。原因が彼女で有るにしろ無いにしろ、それは変わりません。上位貴族である私があの場で騒ぎ立てれば、彼女自身も然る事ながら彼女を招待したロセ様にもご迷惑が掛かるのではありませんか?」
そう問い掛ければ、ロセ様は一瞬吃驚した顔の後、にやりと笑って合格だよ、フィリア。と声に出す。その人の悪そうな顔に、過去私が見てきたロセ様は、如何に余所行きの顔を見せて居たかを悟った。
「いや、吃驚した。そこまでは考えて無かったんだけど流石だね。将来が楽しみだ」
クスクスと笑う声に、若干イラッとする。
今ばかりはこの表情の出ない顔に、感謝したい。
「口調。」
「え?」
「そのしっかりとした口調が、本物のフィリアなのかな?今まで態と年齢相応の喋り方してたでしょ。」
ニコニコしながら指摘され、しまった、と思う。
完全にしてやられた。動揺を誘って敢えて饒舌に喋る様に誘導されたのだ。
「いままでのも可愛かったけどね?でも、今の遠慮の無い感じの方がより僕好みかな。」
「……別にロセ様の好みに合わせている訳では無いのですが……。」
苛つきを隠さずそう答えれば、何が面白いのかロセ様は更に笑顔になる。本当に、理解出来ない。
「ねえ、このお茶、好みに合ったかい?」
唐突に問われ、意味がわからないながらも素直にこくん、と頷く。美味しいお茶に罪は無い。
「そう、良かった。実はね、この部屋でお茶が出来る様に最初から用意してあったんだよ。僕と、もう1人分。」
そこまで言われてはたと気付く。
何と言う事だ。確かに少し気にはなっていたのだ。侍女の手際の良さも、完璧に用意されたアフターヌーンティーも。
ただ、王宮は準備が早くて凄いなー、なんて場違いな感想を持ってしまっていた。
思わず苦虫を噛み潰したよう表情になる私に、いつもの人好きのする綺麗な笑顔でロセ様は笑い掛ける。
「そもそも、対象外ならお茶会には呼ばれて無いんだよ、フィリア。これでも割と人気があるみたいでね、余分な人数を呼ぶ様な余裕は無いんだ。まあ、学園からの招待に関しては別枠だけどね。」
さらっと自慢を交えて言われた言葉に、ひくりと頬が引き攣る。
「後、今日僕はずっと言っていた筈だよ?君に会いたかったんだ、って。勿論、僕が会いたいと思ったんだから、招待状も僕が用意させた。必ず招待する様に、って念を押してね。」
そんなカミングアウト、聞きたくなかった。
どんどんと深くなるロセ様の笑みとは逆に、私の顔をはどんどん無表情になって行く。
「さて、答え合わせだよ、フィリア。今日のお茶会に呼ばれていたのは僕の婚約者候補の令嬢方だ。そして、そのご令嬢方を放置して僕と君は会場を出てきた。そして今此処で2人でお茶を飲んでいる。僕が意中の人と抜け出す為に用意されていたお茶をね。……そこから導き出される答えは?」
「……ホントに、何で私なんですか…?」
げっそりとした気分で聞けば機嫌の良さそうな笑い声が帰ってくる。
「勿論、君が好きだからだって言ったら信じるかい?」
「いえ、信じません。」
きっばりとそう告げれば、更に面白そうに笑う。
「僕は嘘は吐かない主義なんだけどね。まあ、今の所はそれでいいよ。で、受けてくれる?」
「……拒否権はあるんですか?」
「無いねぇ。」
それでも精一杯の抵抗を示すがすぐに否定される。だったら聞かないで欲しい。その綺麗な顔に殺意すら覚える。
大きなため息を吐いた私を見て、肯定と取ったのだろう。ロセ様の笑みがますます深くなる。
ホント、どうしてこうなった。
あの時暴れてでも家に帰れば良かった。
そう思ってみても、後の祭りである。
「じゃあ、これから宜しくね?僕の婚約者殿?」
機嫌良さそうに笑うロセ様を、不敬だろうが何だろうがいつか必ず殴ってやる。
そう決意を固めた瞬間だった。




