はじまりの侵略
さて、今日から本格的に人族を侵略するとしたが、どこから手をつけようか。
人族どもは少しばかり我等魔族を侮っている節があるからな、どこからでも攻められそうだが…
まずは人族側の情報が必要だな。
「おい、いるか?」
玉座から伸びた影の中に薄っすらと眼光が差し、
ぬっと人影が出てくる。
「は、ここに」
綺麗なスーツに身を包んだ細っそりとした男が魔王の前へひざまづく。
銀色の長く垂れた髪がふわりと床につくその見た目は絶世の美男子と評してもいいほどのものである。
「ベルゼビュート、お主は本当に人族の格好を真似るのが好きだな…」
「いえいえ、人族の衣服に対する執着心は我等魔族も見習うべきところですよ。それに人族に紛れて生活しているとこの見目に嫉妬する輩からの憎悪が気持ちいいのです」
…顔面が他より秀でている分変態度が際立って一層気持ち悪いな。
「はぁ…相変わらずだな。それでな、お前に少し頼み事があるのだが」
「なんなりと」
「少し人族の国で諜報活動をしてほしい」
「と、申しますと?」
「我輩、そろそろ本気で侵略をはじめようと思ってな。人族側の状況を知りたいのだ」
「それはそれは…大変喜ばしいですねぇ。かしこまりました。我が眷属にも手伝わせましょう。では目ぼしい情報がありましたらご報告いたします」
そう言うとまた玉座の影の中へ消えていった。
暫くはベルゼビュートに任せておけば問題ないだろう。人間好きな奴だが人間の苦しむ顔を見るのが1番好きと言う変態だからな。上手く動いてくれるだろう。
我輩も大規模侵略の準備をする事としよう。
「王よ」
短く切られた髪の間から伸びた2本のツノが印象的な鋭い眼光の魔族が魔王の前へ出る。
「お?なんだアスタロト」
「せんえつながら長老会へのご報告の方はいかがいたしましょう?」
「そ、そうであったな…」
あぁぁ…そうだったよなぁ…あのやっかいな老害達を何とかしないといけないのを忘れていた。
国益になるからと戦争を長引かせている張本人達だ。
今の魔界は精霊達の住む大森林、
水性魔族達の住む大海洋、
この2つを除いてほとんどの土地は荒れ果てている。
これが戦争している主な原因でもあるのだが、
魔族にも精神体に近く食物の摂取を必要としない種族と物質体であり食物の摂取を必要とする種族とが存在している。
もちろんこんな荒れた土地ばかりの魔界では
その大多数をまかなう事ができない為、
人間界に食料を求める事になるのだが…
人族は害獣として魔族達を殺してしまう。
これが積もり積もって戦争になった訳なのだ。
そもそもなぜ魔界がこんなにも枯れた土地になってしまったのかなのだが、太古の昔、魔王をしていた者が消滅した際に魔界全土を覆いたくさんとする程の大爆発を引き起こしたのが原因らしい。
今は多少の植物は生えてきてはいるが、完全に元にもどるまではまだまだ時間はかかるだろう。
結局は手っ取り早く人間界を奪った方が効率が良いのだ。
人間界を上手く植民地化できないだろうか。