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我輩、今日から本気出す。  作者: 毛求藻
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はじまりの国

ヒュ〜〜ドンッドンッ


建国祝いの催し物がいくつも並び、

空にはいくつもの花火が打ち上げられ

城下町はいつも以上に活気に満ち溢れていた。


「早く行かないと遅れるよー!」


少し先を歩く少女に呼ばれ、

まだ少し幼い印象を受ける短髪の少年は足早に城へと駆けて行く。


「分かってるよ!」


今日ははじまりの国の建国記念日だ。

建国祭は約一週間催されており、

毎年この時期は国内外から沢山の人がやってくる。

その中には腕に自信のある冒険者や魔法使い、

神官や武闘家などもいる。

彼等の目的は祭を楽しむ…と言うよりは建国祭の最中に行われる勇者の儀式に参加するのが主な目的だ。


はじまりの国の城内にある聖剣を抜く事が出来た者は勇者として魔族を退ける力を手にできる…

と言う伝承により、世界各地から腕に覚えのある者が集まってくるのだ。

正直魔族との戦争はこの数百年硬直状態で、特に人間界に大きな被害は出ていないのだが、人間にとって魔族は大きな脅威である為、定期的にこうした儀式をしているらしい。


「キース兄さん!早く行かないと受付終わっちゃうよ!」


「あぁ…すまない。こんな大きな祭なんて初めてきたから」


「もー!村の代表として勇者の試験受けにきたのに!」


「ごめん、ごめん」


「キース兄さんはいつまで経っても子供なんだから…」


城内は勇者の儀式に参加する冒険者やらでごった返している。


「聖剣への挑戦はこちらの受付へどうぞー」


「すみません、はずれの村のキースと言います勇者の儀式に挑戦したいのですが…」


「はーい!はずれの村のキースさんですねー。こちらの抽選くじを引いてください。引いて出た目の番号順に聖剣へ挑戦して頂く事になります。」


少年の目の前に紙クジの入った箱が置かれる。


ごそごぞ…


「え…?」


「あらー。1番が出ちゃいましたかー。僕ーくじ運がいいですねー!もしかしてもしかして聖剣抜けちゃうかもですねー!ではー間もなく番号でお呼びしますのでロビーでお待ち下さい」


「兄さん…」


妹が不安そうな顔で少年を見上げる。

少年も不安なのかロビーへの足取りが酷く重たそうである。


「クジで出たんだ。仕方ないさ。それに1番なんて縁起がいいじゃないか」


ロビーに着くと様々な人種の冒険者や魔法使いが聖剣への挑戦を待っていた。

中には貧相な身なりの者も混じっている。

勇者になれば国から自身への援助はもちろんだが出身地への援助もしてもらえる為、地方から代表としてこの儀式を受けに来ている者も少なくない。

この兄弟もまたその内の一人なのだ。


「やぁ、どうも。君1番手なんだって?可哀想にね。緊張するだろ?」


冒険者らしからぬ綺麗なスーツに身を包んだ細っそりとした長身の男が少年に話しかけてきた。


「いえ…逆に最初に挑戦できるなんて光栄です」


「そうなのかい?君は幸運の持ち主なんだねぇ。」


「はぁ…?」


「くすくす…幸運が幸福とは限りませんからね。せいぜい気をつけて」


不気味な笑みを浮かべながら細身の男は少年を見下ろす。


「さっきから何なのあの人…兄さん行きましょう!」


ぐいっ


「あ、あぁ…」


ゴーン!ゴーン!


「これより!聖剣の儀式をはじめる!受付で順番札をもらったな?順番に前へ出よ!」


城の鐘の音が鳴り響くと同時に儀式が始まる。

城のロビーから奥の部屋へと続く扉が開くと、

奥の部屋には祭壇に突き刺さった聖剣が静かに佇んでいる。

見た目は一見してただの古びた剣にも見えるが、剣から出るオーラは聖剣とうたわれるだけの神々しいものだ。


「この聖剣を抜きし者は勇者として、国より魔族討伐の任についてもらう事となる!心して聖剣へ挑戦せよ!まずは1番目の者、前へ出よ!」


試験官に呼ばれておずおずとはずれの村の兄妹が聖剣の前へ歩み出る。


「兄さん!頑張って!」


「これが…聖剣…」


ぐっ


祭壇に突き刺さった聖剣をつかんだ瞬間、視界が真っ白く染まる。


「え!一体…なに…が!?」


白い閃光が少しずつ収まり、視界が戻ってきた。

ただ閃光を放った聖剣は祭壇から消え、真っ二つ折れて床に散らばっている。


「に…兄さん!!!」


そして、聖剣を抜いた少年は聖剣と同様に真っ二つに引き裂かれて床に転がっていた。


「な…!?なんと…」


会場内が一気に緊張と動揺で支配される。


「ああぁぁぁ!!!なんてこと!!兄さん!兄さん!目を開けて!一体どうしてこんな事に…」


泣きじゃくる妹の声が部屋に響き渡る。

無残な姿になった兄の亡骸を抱きしめながら、夢であってくれと懇願している姿は哀れそのものだ。


バタンッ!!


開け放たれていた扉が勢いよくが閉まる。

慌てて参加者達が扉に駆け寄り開けようとしたが、扉は一向にビクともしない。


「一体なにが起きている!!」


試験官が叫ぶと同時に聖剣の祭壇の周りがどす黒い影で覆われる。


「いやはや、勇者と聖剣をこんなにあっさり始末できた上に各国の実力者をここで一掃できるなんて、僕は本当に幸運だなぁ」


どす黒い影は1箇所に集まりやがて細っそりとした長身の男の形になった。


「勇者に選ばれるなんてやっぱり君は幸運でしたね。でも所詮は昨日まで農民だったザコ。ザコが勇者に選ばれるなんて本当に不幸ですねぇ。ま、お陰で僕は楽できたんですけど。さぁ、次はどなたから死にたいですか?」


綺麗なスーツに身を包んだ細っそりとした長身の男はニタリとした笑みを浮かべながら兄妹を見ると、参加者に向けて歩をすすめる。


「ひいぃぃぃ!くるなぁぁぁ!!」

「開けろぉ!助けてくれーー!」


参加者の悲鳴はすぐに鳴り止み。

そして、その後勇者の儀式に関わるもの一切の痕跡が無くなっていたという。

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