始まりの朝
今回は若干話が短いです。
翌日、歩は目を覚ますと一瞬いつもと違う部屋の光景に戸惑ったが、すぐに自分が置かれている現状を思い出す。
「そうか、俺異世界に召喚されたんだっけ」
あの後部屋に運ばれてきた夕食を食べ、共同の大浴場で入浴した後寝巻や日用品などを一式渡され自室に戻りすぐ寝てしまったのだ。
やはり精神的に疲れていたようだ。
「おはようございます。歩さま」
「ああ、おはようシエル」
「お召し物はこちらです」
そう言ってシエルは手に持っているものを渡してきた。
黒を基調とした軍服だ。金色の二つ穴ボタンが並行して並んでいる一昔前にありそうな軍服。
日用品などを渡されたときに一緒に貰ったもので基本的に着る様にと説明されていた。
歩はそれに腕を通す。
黒いズボンに上はワイシャツその上から軍服を着て腰のあたりにベルトを通した。
靴も膝まである長い黒ブーツ。
部屋にあった姿見でおかしな所が無いか確認した。
「大変お似合いかと」
「そうか?何か服に着せられている感が半端ないんだが」
普段着ないであろう服装に違和感を覚えるが、着る事が義務づけられているので仕方ない。
「そういえば、今日から食事は大食堂で食べるんだっけか?」
「はい、7時集合となっております」
「んじゃ行くか」
「かしこまりました」
歩とシエルは部屋を出て廊下を歩きだす。
その廊下の途中で見慣れた二人を見つけた。
歩の数少ない友人の大輝と凛だ。それに加えそこには見知らぬ少女二人がいた。
「おはよう。大輝、凛」
「おう、おはよう歩」
「おはよう歩」
そんないつもと変わらないように見える挨拶。二人共一見いつも通りに見えるがどこかぎこちなさを歩は感じた。
召喚された昨日は二人とも現状を理解できず呆然としていたが、一夜明けて頭がようやく現状を理解したのだろう。
だからこそ二人とも平常を保つためいつも通りを演じているのだろう。
「あ~~あのさ歩は大丈夫か?」
大輝はバツが悪そうに歩に聞いてきた。
「何が?」というのは聞くまでもない。今の現状自体や『名無し』の悪魔をただ一人引いてしまったこと、についてだろう。
「正直いって全然平気とかは言えないが、まあ何とか生き残ってみせるよ。シエルもいるしな」
「シエル?」
「ああ、紹介するよ」
歩が少し横に移動した。
シエルが二人の前に出て一礼する。
「はじめまして。凛さま、大輝さま、わたくし名をシエルと申します。以後お見知りおきを」
流れるような綺麗な一連の動きに一瞬惚けていた大輝と凛だがすぐに挨拶を返した。
「ええよろしく頼むわシエルさん」
「それじゃあ、俺達の悪魔も紹介しておくか」
そう言うと二人の少女が歩の前に出た。
一人は歩達と同年代くらいで、黒い鎧に身を包んだ黒髪ショートヘアの少女だ。
もう一人は年は13か14くらいのワンピースのような服に身を包んだ小柄で華奢な少女で、灰色の髪を後ろでまとめている。見た目の年齢に似合わず落ち着き払っている。
最初に鎧を着た少女が自己紹介を始めた。
「は、はじめまして、私、セレストと言います。大輝さんと契約した悪魔です」
どこかそそっかしく挨拶をした悪魔セレスト。
次に挨拶をしてきたのはもう一人の少女。
「はじめまして、私の名前は、フェリス。凛と契約している」
ベルはそういうとなぜか歩の顔をじっと見てきた。
歩は不思議に思い。
「え~~っと俺の顔になんかついてる」
そう聞いてみたがフェリスは「何でもない」と答えて凛の横に戻った。
歩達はそのまま大食堂に向かった。
大食堂は歩達がいた宿舎とは別の建物にある。
そして建物へ向かうために外へ出たが、改めてここは異世界なんだなと思ってしまう。
歩達の前に広がる光景。軍本部の外に広がる市街地を覆うように黒い大きな壁がそびえたっていた。
「ほんとに異世界なんだな」
「歩さま、どうしましたか」
「いや、何でもないよ」
「そうですか」
歩は一歩後ろを付き添って歩いているシエルの方を向いた。
「なあシエル」
「なんでしょうか」
「これから世界に抗って生きる為よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
そういって歩とシエルは歩き出した。
二人の背中を押すような優しいそよ風が吹いた。