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抗って生きる為に

「ふうっ」


短い溜息をつき、歩は当てられた部屋のベットに仰向けに倒れた。

その部屋の隅には歩が契約した悪魔が立っていた。

今歩達がいるのは軍本部にある宿舎にある部屋の一角だった。

あの後、本格的な説明は明日にすると言われ、歩達は施設を案内され、気が付けば夜になっていた。

夕食まで時間がある為、部屋で待機となった。


(最悪だ・・・・・)


歩は今日起こった事を考えそう思った。


いきなり異世界へ召喚され、死ぬかもしれないのに戦えと言われ、帰れないと脅され、命を預ける悪魔は固有機能を持たない名無し。


運が悪いにも程がある。


そんな、不安と若干の絶望は未だ現実を理解する事を拒んでいる頭の中で何とも言えない気持ち悪さを生み出していた。


(どうすればいい・・・・・)


さっきから歩は現状把握を何度も繰り返していた。


(自分の持ち札は、『名無し』の悪魔、無力な自分自身)


どう考えても「摘み」というやつだ。


実物を見たわけでもないが、これから戦うであろう終末の災禍。

たった一年足らずで世界を滅ぼした化け物がまともな物では無いのは周りの人の反応を見てもまるわかりだった。


この宿舎に向かうまでにすれ違った軍人がひそひそと話していたのだ。


「あれが『名無し』を引いたやつか」

「ああ、可哀想にな。あれは死んだな」


そんな話を聞いてしまったのだ。

どうしようもない気持ち悪さが拭えない。

別に誰が悪いというわけでもない。いや正確にはこの世界に読んだ奴らが原因だが、結局運が悪かった。間が悪かった。としか言いようがなかった。

ぐるぐると回る答えが出ない自問自答に頭をしていた時だ。


「申し訳ございませんでした」


まるでオルゴールの様な綺麗な声が歩の耳に入った。

起き上がって悪魔の方を見た。

その悪魔いや少女の顔には深い深い自らを恥じる自責の念があった。


「私の様な記憶の無い者よりも、位階の高い者があなた様の召喚に応じていたならばあなた様をそのような不安を書き立てるような事はありませんでした」


そう言って悪魔は頭を下げた。


それを見て、歩は気が付いた。


この少女の方が自分より酷い状況にあると言事を。


彼女には記憶がない。名前すら覚えてない。それなのに召喚され、自分自身の記憶すら定かではないのに、召喚者に失望され、その上そんな少女に世界を滅ぼす化け物と戦えと言うのだ。

そんな少女を差し置いて自分は現実に悲観しているだけ、自分よりもっと残酷な現実に置かれているにもかかわらず自らが召喚された事に対しての謝罪。

失礼な態度を取りまくりな上に情けなさすぎる。


(うわー俺って最低だ)


今悲観していてもしょうがない。

悲観したところで現実は好転はしない、なら今やるべきことは決まっている。


「俺の方こそすまん。呼び出した張本人なのに失礼な態度を取った」

「そんなことは」

「いや、今の態度は俺が悪い。現実に悲観して自分の事しか考えてなかった」

「マスターの反応は常識的なものかと思われます」

「確かに悲観してもしょうがないのかもしれない。無力な高校生と記憶の無い悪魔。絶望的な現状だと思う」


現状は絶望的だ。

でも今やることは現実に絶望することではない。

まず悪魔いや彼女に謝ること。

それと。


「この残酷な世界に抗って生きる為に考えよう。二人で。」


彼女はその言葉に驚いたように黄玉色の目を見開く。


「あと俺の事は歩でいい。えっと・・・・」


そこでつまずいてしまった。

彼女には名前がない。どう呼ぶべきか悩む。


「なあ名前何か要望があるか?」

「いえ、ありません。歩さまの好きなように読んでください」

「そうか、あーーまず座ってくれ」


そう言って彼女を対面のベットに座らせる。

因みにこの部屋にはベットが二つあり、トイレや洗面台なども完備してある。

流石に風呂や給湯室は公共の者を使う。

そこで「これって同居じゃね」とか気が付いたが一先ずは置いておく。


邪な考えを振りほどこうと彼女の名前を考えることに集中した。


(とは言え、俺にネーミングセンスなんてないからなあ。とぴょうしもなく名前を出すとだめだな。何か関連のあるものと言っても無いし。『記憶が無い悪魔』、『記憶が空っぽ』、空だから『そら』とか、いや彼女に似合わない)


彼女に日本人名は何かしっくり来ない。

そしてふっと思いついた名前を口に出した。


「シエル」

「シエル。ですか?」

「ああ、俺の世界の外国語で『空』を意味する言葉だ」

「シエルですか・・・それが私の名前」


そう言って、彼女は嬉しさを噛みしめるように、さも大事なものを刻み込むように目を閉じて微笑んでいた。

目を開け歩の方をしっかりを黄玉色の瞳に捉える。そしてベットから立ち上がる。

そして優雅に一礼。


「わかりました。ここから私の名前はシエルです。これからよろしくお願いします。歩さま」


これが〝シエル〝との出会いだった。

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