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名無しの悪魔

歩達は今軍人に引率され廊下を歩いていた。


向かっているのは軍本部であり、そこに悪魔を召喚するための召喚陣がある。

そう説明されて軍本部に向かうために歩いていた。


軍本部は王城のすぐそばにあり、地下通路を通れば王城と軍本部を自由に行き来できるような構造になっている。


しばらく歩いていると本部内に入ったのかがらりと建物の雰囲気が変わる。

王城のような煌びやかさは当然なく、無機質さが感じられる。


そしてある大きな金属製の扉の前で軍人が止まった。


「ここが召喚陣のある部屋だ。後は博士が説明をしてくれる」


そう言って扉を開け、入る用促した。

部屋の中はかなり広く実質歩達が召喚された大広間くらいの大きさがあるが、部屋の様々な所に機材やパイプ、配線などが巡っており、薄暗さもあってか見た目より狭い感じがした。


そんな中、制御用の機材の前に座って黙々と何かを操作している男がいた。


「シュラウセン博士連れてきました」

「ん~~~何を?」

「例の勇者達です」

「あっそうか!今日だったか」


そう言って男は椅子から立ちこちらを向いた。

年は二十歳半ばといったところだろうか。ぼさぼさの髪に四角い形の眼鏡をかけ、黒ズボンに白シャツネクタイをしており、その上から白衣を着ていた。

どこか胡散臭い学者のような雰囲気のある男だった。


「えーっとまあ、はじめまして勇者諸君。僕は悪魔及び終末の災禍の研究者兼ここの施設の責任者である。シュラウセン。ぜひ博士と呼んでくれ」


シュラウセンはにっこり笑うがどこか胡散臭さが抜けない。


「じゃあ早速だけど、とっとと召喚しちゃおうか今日はデータが大量にとれるな~~」


そう言って歩達に小さな針を配った。

配り終えると歩達を部屋の奥へと移動させた。


そこには大量の幾何学模様と円環で構成された大きな魔法陣があった。だが歩達が召喚された物の様な光輝くようなものではなく、薄っすらと光ってる赤黒い禍々しい血色の魔法陣だった。


「さて早速説明を始めようか。召喚の方法は簡単その針でどこでもいいから刺して血を魔法陣に一滴たらせば召喚出来る。簡単だろ」

「あの質問いいでしょうか」

「ん?」


そう言ったのは凛だった。


「『悪魔』って具体的にどの様なものなんでしょうか?」


その質問は歩自身は勿論ここにいる全員が疑問に思っていたことだ。

世界を一年足らずで滅ぼした化け物に対抗できる生体兵器と説明されたが逆にそれだけしか説明されてない。

疑問に思うのは当然だった。

シュラウセンは眼鏡をクイッと上げると「フフフッ」と笑い出した。


「よくぞ聞いてくれた。君えーーーーっと名前は?」

「広瀬凛です」

「凛君か、よし覚えた」

「それで悪魔というのは一体なんなんですか?」

「んーーまあはっきり言うと長年研究している僕からしても『正体不明』としか言いようのない代物だね」

「えっ!?」

「おいおい凛君人をそんな『この人大丈夫か?』みたいな目で見るな、まあ分からないってのは本当だ。いつ作られたのかも、誰が作ったのかも、何体存在するのかもわからない。わかっているのは召喚されている悪魔のデータとこの召喚陣の起動方法と、悪魔は召喚者と契約することによって存在を認識してもらってこの世界に実体化できるってことぐらいか。大まかに言えば」

「私達はそんな訳のわからないものと契約するんですか」

「そこら辺は安心しなよ、別に身体に支障をきたすわけじゃないんだし。それに」

「それに?」

「そんな訳のわからないものに頼らなきゃこの世界では生きていけないんだし」

「さて気を取り直して召喚しちゃおうか」


シュラウセンはどこか楽しそうに言う。

それはそうだろう彼は悪魔について研究している学者なのだ。その研究対象の悪魔が増えることは彼自身に取って嬉しい以外の何物でもない。

しかしそれと対照的に歩達は心の隅に不安が募った。


「じゃあ誰から召喚する?」


シュラウセンは既に機材の前に立ち何らかの操作をしている。

しかし中々歩達は誰も召喚陣の前に行かない。それはそうださっきの説明を受け不安がらない方がおかしい、部屋の不気味な薄暗さや魔法陣の血色の光が不安に拍車をかけた。

歩は周りを見た。


(これは誰か行かなきゃずっとこのままだな、しかたない人間諦めが肝心と言うし、ここは腹くくって俺が行くか)


そう覚悟を決めて歩が前に出ようとした時。


「僕がいきます」


そう言ったのは佑司だった。

佑司は召喚陣の前まで行き一指し指を針で軽く刺した。ぷくっと血が浮き上がった。

それをじっと見る佑司、少し離れたところら見ている歩にもわかるくらい不安がにじんでいた。


「安心しなよ。出てくる個体は君の適性次第だが悪魔と言っても宗教などに出てくるような化け物じゃないから」


シュラウセンが機材を操作しながらそう言った彼なりの一応のフォローなのだろう。

その言葉を聞いて覚悟を決めたのか針で刺した方の腕を伸ばし、親指で人指し指の腹を押した血の雫は少し大きくなり重力に従って召喚陣の上に落ちた。


その瞬間だった。


赤黒い光が増大し駆動音が鳴り響いた。


光が一瞬部屋を埋め尽くしたあと収束する。


そして召喚陣の中心に何かがいた。歩達がその姿を見た時驚いた。


「えっ?」


そこにいたのは女神のような美しい少女だった。


腰まである絹のような金髪、顔は非常に端整であり慈悲に溢れた青い瞳。純白のドレスを身にまとい服の上からでもわかるスタイルの良さ、その手には瞳と同じ青い結晶をそのまま削りだし磨き上げたような刀身を持つ大剣が握られていた。

その姿はまるで戦場に降り立つ戦乙女の様。


そんな『悪魔』という単語が全く似合わない少女がいた。


驚き半分その美しさに見とれていた半分で歩達は唖然としていたが、そんな空気はいざ知らず。


「言っただろ化け物じゃないって」


声を掛けられた佑司はシュラウセンの方を見る。


「彼女が『悪魔』なんですか」

「ああそうだ。悪魔は皆美しい少女の姿をしている」

「貴方が私の契約者(マスター)でよろしのでしょうか」

「えっあっはい」


まだ呆然としている佑司の代わりのシュラウセンが質問をし始めた。


「君、真名と位階は何だい?」

「はい、私は『収束』の悪魔アリシア。位階は極位です」

「極位?」

「ああ、まだ悪魔名と位階について言ってなかったね」


くるりと歩達側に向き直ると真名と位階について説明を始めた。


「真名というのは悪魔の名前。位階というのは悪魔の中での階級みたいなものだ。下から『名無し』、『下位』、『中位』、『上位』、そして極一部しかいないと言われている『極位』。このくらいが高いほど悪魔が持つ『固有機能』が強力になる。『固有機能』っていうのは個体それぞれが持つ特異な能力だ。これが終末の災禍の対抗できる兵器と言われる所以の一つだ」

「にしてもな~。異世界から来たものは高い適性を持つって言われているけどいきなり極位を引くとは」


シュラウセンは感心していた。

その後は一人ずつ召喚していったがシュラウセンの言った通り適性が高いためか最低でも『中位』クラスの悪魔しか出なかった。


そして歩が召喚する番になった。


召喚陣の前に立ち一指し指を針で刺す。


この世界で生き残る確率を上げるために高い位階の悪魔が来てくれる事を願った。


(なにこの世界一危ない運試しは)


そんな不安と緊張と願いを込めて召喚陣に血を落とした。


召喚陣が血色に輝く。


光が収まりそこにいたのは『黒い少女』だった。


腰まである艶のある闇のような黒髪。かわいいより綺麗という言葉が当てはまるどこか感情に乏しそうな端整な顔。瞳は黄金色。黒い古風なドレスに身を包んでおり、すらりと細く淡い妖精のような肢体。肌は新雪のように白い。


そんな黒い美少女が歩の目の前に立っていた。

息をのむような美しさに少し見とれていたが、意識を戻しその少女に歩は問いかけた。


「お前が俺の契約した悪魔か」

「はい、私は貴方の召喚に応じた悪魔。貴方が私の契約者(マスター)で間違いないかと」


オルゴールのような綺麗な声が響く。

歩は次に大事なことを聞いた歩の生命にかかわること、つまり位階だ。


「俺は狭川歩だ。お前の真名と位階を聞いてもいいか」

「私の真名、位階は・・・・」


唾をごくりと飲む。

シュラウセンも興味深々に聞こうとしていた。

そして少女から答えが返された。


それも予想外な答えを。


「わかりません・・・思い出せない・・・記憶がありません」

「へっ!?」


悪魔は思い出せないことに驚いていた。

歩はどう反応していいかわからず横にいるシュラウセンに説明を求めるように見た。

シュラウセンは少し考えた後こう結論を出した。


「多分彼女は『名無し』だろうな」

「名無し?」

「そう、位階の中で最下位。固有機能がなく名前すらないから『名無し』ってわけだ。戦場で生き残るのは本当に大変だが頑張れ」


後ろのクラスメイトを見ると顔をそらされた。凛と大輝さえ気まずすぎて目を合わせてくれない。

この少女に失礼だが歩は呆然とするしかなかった。

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