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終わりかけの世界

輝きが収まり、歩が目を開けるとそこはいつもの教室ではなかった。


薄暗い巨大な広間の中心に歩達はいた。

部屋の壁には何に使うかは分からないが古めかしい機械からパイプや配線が伸びている。

機械は歩達の周りをぐるりと囲むように配置しており、歩達の足元には教室で見たのと同じ幾何学模様の円環が薄っすらと光っている。


周りには状況が掴めずに呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。その中には凛と大輝の姿もあった。

その姿を見てひとまずは安心した。

歩は次にこの状況を説明できるであろう目の前の人物に視線を向ける。


この部屋には歩達だけではなく、少なく数えても三十人弱の人々がいる。

その集団の先頭にいる男が一歩前に出た。


男は四十代くらいの銀髪の美丈夫であり、堂々としどこか威厳のある風格。


「この者たちが、そうなのか」


男は後ろにいる黒を基調とした軍服をまとう男に問いかける。


「はい、間違いないかと」

「そうか」


そう短く返すと、こちらに顔を向き直しこう言い放った。


「異世界より召喚されし勇者達。どうか我らを救って貰いたい」




今現在、歩達は場所を移り、大広間に通された。所謂謁見の間と呼ばれるところだ


部屋は煌びやかな作りだ。芸術品に余り興味のない歩から見てもかなり高価なものだとわかる調度品や飾られた絵、壁紙などで装飾されていた。


ここに来るまで誰も騒がなかったのは、この現実に意識がまだ追いついていないのが大きいのだろう。

それに加え、美丈夫の男が事情を説明するといったこともあるだろうが。


先ほどの美丈夫の男は玉座に座ると男は口を開いた。


「まずは自己紹介をさせてもらおう、私はハーレイン・スレイン。スレイン王家の血筋を引くものであり、この要塞都市スレインを治めるものだ」

「君たちにはぜひ我々の世界を救って貰いたく召喚した。まずは我がスレインの名において無礼を詫びる。だが我々の話を聞いてもらいたい」


そしてハーレインは自分達が召喚されたこの世界について語り始めた。


この世界は滅びかかっていた。


<終末の災禍>と呼ばれる化け物によって。


八百年前、突如現れ、世界を一年もせずに滅ぼした規格外の化け物。

確認されているだけでも二十二種存在しており、種別によって常軌を逸した固有能力持ち、加えて「魔力」を帯びてない通常の兵器ではほぼダメージを受けない。


そしてこの世界に生きている、人間族、魔族はなすすべなく滅ぼされた。

生き残った者たちは高い壁を作り魔術結界を付与しギリギリのところで要塞都市という生存圏を死守したが、大陸の大半を奪われ、国家間同士孤立し、壁も<終末の災禍>が進行してきたら時間稼ぎにしかならないという。


この世界に住む者たちの唯一の対抗手段は「悪魔」と呼ばれる生体兵器のみ。


「悪魔」は異界に保管しており、特別な召喚陣を使って召喚し契約することで使役できる。


しかし誰でも扱えるというわけでもなく、適性を持ったごくわずかの者しか召喚できないが、異世界から呼び出したものは皆適性を持っているため召喚したという。


「悪魔の契約自体には危険性はない。しかし君たちには悪魔と一緒に前線へ出てもらう当然死人も出るだろう。しかしどうか頼む悪魔と契約し我々を救って頂けないだろうか」


ハーレインは立ち上がり深く頭を下げた。周囲にいた軍人たちはざわついていた。

国王が頭を下げてお願いをする。それほどこの都市はいやこの世界は切羽詰まっているのだろう。

しかしハーレインの願いに猛然と抗議するものがいた。


歩達のクラス担任白井夕子先生だ。

黒縁眼鏡が特徴的で童顔であり、髪はショートボブ。

生徒思いで面倒見がよく生徒からの人気も高い。


「待ってください、この子達を危険な目に合わせるなら教師として私は許しません。私達を元の世界に返してください」

「すまないがそれはできない」


そうはっきりとハーレインは言った。

スゥっと目が細められ視線が鋭くなる。


「確かに私達の勝手な都合で巻き込んだ事は謝ろう、あなた方の怒りはわかる。しかし我々ももう後がないのだ。余りこういう事は言いたくないが私達はあなた方を黙って返すわけには行かない」


一呼吸置いた後、申し訳なさが含まれるものの態度が威圧的になった。


「だからあえて言うこれは懇願ではなく、脅迫だ。あなた方はあの召喚魔法陣の起動のさせ方は分からない。何せあれは専属の技術者が数十人必要だ。例え人質を取ろうとも我々はこのままいけばどの道滅ぶ、意味は無いと言っておこう。その上で言おう元の世界に帰りたくば我々に協力してもらう」

「そんな....」


夕子先生は悲痛な声とともに脱力する。

そこでようやく周りの生徒たちは現状を把握し、騒ぎ始めた。


「ふっふざけんなよ!!帰さないってどういうことだ」

「いやだ!帰してよ!!」

「俺まだ死にたくない!いやだ死にたくない」

「助けて誰か、助けて」


パニックになる生徒達。


「罵られてもしょうがない甘んじて受けよう、だが私もこの要塞都市に住む人々の命を預かっているのだ」


冷血に見えるが言葉の端々に自分達への申し訳なさと自責の念が感じ取れる。


例えここで協力を拒否したとしても帰ることも出来ない歩達。最早選択の余地は歩達にはなかった。


「僕はあなたに協力します」


そういったのは佑司だった。


「ここで貴方に文句を言ったとしても、あなた方は僕達を帰さないのでしょう。だったら僕はあなた方にいう通り悪魔と契約して化け物達と戦います。僕達が帰れる希望があるのなら」


しっかりとした声で佑司はそう答えた。


現実的な考えだな。そう歩は思っていた。

歩とて自ら死ぬかもしれない所に行きたいわけではない。

自分は平凡な高校生なのだ。世界を救う力なんて無いし、漫画の主人公のような勇気も無い。

けれど、どっちにしても一緒なのだ。どちらにしろ<終末の災禍>と呼ばれる化け物がいる世界にいなければならない。


ここにいたら遅かれ早かれ化け物どもに対峙しなければならない。


ただその時、化け物に対抗するする術があるかないか、生き残る確率がある選択か、ただ無力に殺されるか。


ハーレインのいったと通り人質を取り脅したとしてもこの世界の住人は何もしなければ滅びる。

だからこそ人質に意味は無いと言ったのだ。


だったら、歩は少しでも助かる可能性がある方がいい。

人はどんなに絶望の中でも一筋の希望があれば生きていける。


結局全員が悪魔と契約し<終末の災禍>と戦うことになった。


終わりかけの世界で死ぬかもしれない戦い。


平凡な高校生には残酷な現実。


くそったれな、異世界召喚だな。


そういう風にふざけたように愚痴ら無いといてもたってもいられなかった。


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