悪魔っ娘ですが、なにか?
おっと、皆さまお久しぶりですね。私です。神です。絶世の美女こと……そう、神です。
早速チーレムの様子を覗いてみましょう。まあ、大した活躍はありそうにないですけど。
「なあ、いったい何処まで行くんだ?」
「もう少しで着きますので安心してください」
いました。彼です。チーレムです。隣にいるのは低級悪魔の少女ですね。
確か、チーレムの聖剣を見た彼女が、チーレムに来てほしい場所があるとかなんとか。
まあ、どうせショボい洞窟か馬小屋にでも連れて行くのでしょう。
後、チーレムは魔神や邪王についても聞きたいとかで。
って言っても、そもそも魔神も邪王も存在しないんですけどね!
そんな架空の設定を真に受ける勇者とか最早笑えます!
「……着きました」
そう言って、二人が辿り着いたのは……どこでしょう?
いや、待ってください。あの……よく見たら周りの風景大して変わってないんですけど。
これは、あれですね。ただ適当に森の中を歩いただけですね。
来てほしい場所がまさかの森。しかも、あまり場所移ってない。割と近場!
これは流石にチーレムもおかしいと感じるはずです。
だって、まっすぐ歩いただけですもん。周りの景色変わってないですもん。
多分、五分くらいでさっきの場所戻れそうですし、これ絶対可笑しい奴やーってなりますよ。
「――ここは?」
森です。いや、見てわかりませんか?
どう見たって森です。逆に彼は森から出た記憶があるんでしょうか?
あったら怖いです。おかしい通り超えて最早恐怖ですよ。
「ここは地獄の入り口に繋がる……ゲヘナ・ロードの入り口だ」
「地獄!?」
いや、地獄とかどこですか。なんですかゲヘナ・ロードって。
初めて聞きましたよ、そんな名前。あと存在も。
百歩譲って本当にあるとして、なんでそんな森の中にあるんですか。
作るならもっと雰囲気がある場所にしてくださいよ。
というか、そもそもそのゲヘナ・ロードの入り口が見当たらないんですけど。
「そのゲヘナなんたらの入り口はどこにあるんだ?」
ゲヘナ・ロードですよ、チーレムさん。
なんでロードを忘れちゃうんですか。
でも、流石に彼も入り口については突っ込みましたね。
まあ、見ればわかりますけど全く、入り口らしき場所はありませんからね。
「入り口はここです」
「これはっ!?」
いや……あの……。
「ここがゲヘナ・ロードの入り口。人呼んでタルタロスです」
なんか知らないけど、二人の前にいきなり門が出てきたんですけど。
明らかにヤバそうな形してるんですけど。
「……これがタルタロス!」
チーレムも少し引いてますよ。いや、というか気持ち悪っ!
めっちゃ扉に目玉が付いてるんですけど。
物凄く眼球をギョロギョロさせてるんですけど!
「この扉の先、ゲヘナ・ロードを超えれば貴方様が知りたかったことがわかります」
「なに?」
いや、お前が教えんかい。知ってるなら教えんかい。
なんで態々もったいぶるんでしょう。
というか、あの扉明らかにあの子が召喚してましたよ。
低級悪魔なのに明らかに低級じゃない魔法使って、どう見たって低級じゃない物呼び出してましたよ。
いや、こわっ。悪魔こわっ。タルタロスこわっ。
「――分かった」
チーレムが呟きました。
まさか、行くつもりなのでしょうか。その先は地獄だぞ。
覚悟の貯蓄は十分なのか、勘違い王。
「俺、行くよ」
「……えっ」
いや、悪魔の貴女が驚いちゃダメでしょう。
なんで勧めてきてちょっと驚いてんですか。
というか、あの子地味にタルタロスから距離取ってますし。
よく見たら一回もタルタロス見ようとしていませんし。
明らかに召喚した本人も気持ち悪がってますね。
そんなキモい扉の中に入ることを決意するチーレム。
確かに、これは驚きますわ。
「いや、あの……今日はやっぱりやめた方がいいかもしれません」
いや、なんでですか。
「何故だ?」
チーレムは何、さりげなく口調を変えてんですか。
隙あらばキャラ変ですか、そーですか。
「いや、何故っていうか。あの……ほら! 今日はもう暗いですし、お腹も空く時間ですし」
「大丈夫だ、問題ない」
「あ、あと、化けも……タルタロスちゃんもお腹痛い痛いっぽそうですし」
いや、今完全に化け物って言い掛けませんでした? あと、お腹とかどこですか。
というか、彼女は何故今更になって怖気づいているんですか。
なんで頑なにチーレムをゲヘナ・ロードとかいう場所に行かせないんですか。
片思いの彼を行かせたくない不器用な女の子ですか、貴女は。
「……まさか心配してくれているのか?」
は? いや、は?
何をどう考えたらその答えに辿り着くんですか。
心配するならそもそも教えないでしょう。
「いや、あの……はい!」
いや、はいて貴女。
どうして肯定しちゃうんですか。馬鹿ですか。二人は馬鹿ですか。
「そうか、ありがとう。でも、やっぱり行かなきゃ」
「いや、駄目です!」
「安心しろ、俺は大丈夫だ」
「で、でも……貴方様、腕がッ!!」
悪魔っ娘の言葉を聞いて思い出しました。
そう言えば、チーレムの片腕は未だに百足のままでした。
あまりに当たり前のようにしていたので私も違和感がありませんでした。テヘ。
「なーに。腕の一本くらい安い物さ」
いや、治せよ。その腕をまずは人の腕に治しましょうよ。
なんでどや顔で百足をウネウネ動かすのですか。化け物ですか。
あと、その口調凄い似合ってなくて笑えます、ブフォ!
「……分かりました。では、このばけも……門を通る前に持ってきてほしい物があります」
「持って来てほしい物?」
いったいなんでしょう?
やはり門なので開けるための鍵とか? それとも何か別のアイテム?
「はい、悪魔神の血です」
いや、悪魔神て。
名前からしてどう考えても貴方達の神様ですよね。
何、この子は自分達の神様を差し出しているんですか。というか、悪魔神って誰。
「悪魔神……だと?」
初めて聞く存在にチーレムも驚いていますね。
私も驚きですよ。初めて聞きましたよ悪魔神とか。名前的にヤバみしか感じませんよ。
「はい。ゲヘナ・ロードは悪魔の香りが無ければ通ることは不可能です」
「なるほど、だから悪魔神の血が必要なのか」
全然、なるほどじゃないんですが。
いや、だったら悪魔っ娘の血でいいのでは? もしくは適当な悪魔でいいのでは?
なんで悪魔神なんですか。この子は自分の説明の矛盾に気が付かないのでしょうか。
「――分かった! ならまずは悪魔神とやらを倒すのが先か」
あの、違いますからね?
貴方の最初の目的は始まりの町ポイントに行くことですよね?
色々起きてましたが、全部その道中の出来事ですよ?
貴方まだ、この世界に来てから一度も街に辿り着いてない事に気が付いてますか?
とはいえ、チーレムのやる気は目を見れば明らか。
どうやら、これは完全に最初の目的を忘れてますね。
この先の旅路はどうなることやら。
チーレムの旅はまだまだ続く。続くったら続く。