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転生したら勇者だった件

 さあ、始まりました。

 第一回、チーレム戦闘。

 実況は、相も変わらず不変の美女こと、神である私が務めさせていただきます。


「ちょっと、外に行ってくる」

「――! マコトっ!」


 外に押し寄せてきたおっさん達が何者かも聞かずに、チーレムが出陣します。

 アリスさんは涙を浮べた目で、彼を見つめていますね。

 なんというか、これで彼女が実は悪い人だったらどうするのでしょうか。

 単純に疑問です。


「心配はしなくていい。直ぐに終わるさ」


 こいつはそろそろ口調を安定させてほしいですね。

 というか格好つけているつもりなのでしょうが、すごいダサいです。

 そもそも、自分が何をできるのか理解しているのでしょうか?

 チーレムは決意の形相で扉を開きました。


「ん、なんだい。兄ちゃんは?」

「名乗る程の者じゃない。それよりも、アンタたちこそ何者だ?」


 いや、そこは名乗るべきでは?

 なんで名前を教えないのでしょうか。

 これでは、このおっさん達はずっとチーレムのことをなんて呼べばいいか悩んでしまいますよ。

 それに十二人ものおっさん達から終始兄ちゃん呼ばわりって、なんか嫌じゃないですか?


「俺達か?」

「ああ、そうだ。一人の女の子に対して、こんだけの大勢が集まる。どう考えても異常だ」


 確かに不思議ですね。

 でも、その疑問って普通だったら、アリスさんに向きません?

 どう考えても、アリスさんがやばいって思うのですが。

 ――と、そんなことを思っていると何やらリーダーらしきおっさんが不敵な笑みを浮べました。

 なにやら、只ならぬ雰囲気を感じます!


「俺達の正体を聞くってことは、お前も相応の覚悟があるんだろうな?」

「……なに?」


 どういうことでしょうか。

 彼らはただのおっさんの集団ではないということでしょうか?

 思わず私も緊張してしまいます。

 チーレムも生唾をごくりと飲んで、彼の言葉を待ちます。


「ふん。まあいい。俺達の前に一人で姿を見せたという勇気に免じて、今回は見逃してやる」

「なんだと!?」


 いや、なんでですか。

 そこは彼の勇気に免じて、名乗るべきでは?

 なんで勿体ぶって説明しないのですか。

 結局、あなた達はだれなんですか。


「次に会う時は……いや、なんでもない。おらっ、行くぞお前ら!!」


 そう言って、リーダーのおっさんは仲間を連れて、去っていきました。

 いったい、彼らは何をしに来たのでしょうね。意味が分かりません。

 本当に。ナニソレイミワカンナイ。


「なんだったんだ、あいつら……?」


 同感です。一人取り残されたチーレムは納得していない様子。

 まあ、私もですが。

 でも、考えるにあれですかね。

 おそらく、彼らは別に深い意味のある集団ではないでしょう。

 この世界はそういう世界なので。やたら意味ありげに語る連中しかいないので。


「マコト……?」

「ん、ああ。大丈夫。なんでかは分からないけどあいつらは逃げて行ったよ」


 ひょっこりと、扉からアリスさんが顔を出します。

 心配そうな顔つきですが、多分この後意味深な言い訳をするはずですよ。

 あのおっさん達が何者なのか。それについてのね。


「よ、よかった!!」

「うおっ!?」


 おやおや、これは大胆ですね。

 勢いよくチーレムに抱きつきましたよ。

 豊満な胸が体に当たって、これには彼もにんまり。


「ちょ、当たってる! 当たってるから!?」

「当ててんのよっ! これはお礼よお礼!」

「お礼って――っ!」


 なんということでしょう。

 やっぱり、彼女はビッチでした。

 皆さん、ビッチですよ! ビッチ!

 自分から性感帯を異性の体に押し付けるなど、これは最早痴漢ですね。

 チーレムは口でこそ抵抗していますが、体は離れようとしません。

 これが俗にいう、口では否定しても体は正直だというやつでしょうか。

 とはいえ、結局は彼のチートは見れませんでしたね。

 チーレムにどんな力を与えたのか忘れたので、早く見てみたいです。


「そ、それより! あの男達はいったい?」


 やっと質問しました。

 デレデレしてないで、とっとと聞けと言う話ですよ、全く。

 チーレムの質問を聞いて、遂にビッチ――アリスさんが真剣な表所を浮べました。

 離れる体に名残惜しさを感じてる、チーレムは見ていて腹が立ちますね。


「あいつらは……っ!」


 グッと唇を噛んでいます。

 もしかして、本当にわけありと言いますか、深い意味があるのでしょうか?

 チーレムも覚悟が伝わる顔つきで、アリスさんの言葉を待っています。


「――ごめん! なんでもない! ただの野盗だよ、きっと!」


 はい、でました! 秘儀言葉濁し!

 これはどう考えてもわけありの雰囲気じゃないですか!

 でも、絶対に深い意味ありませんから! 絶対にただの借金の取り立てとかですよ!


「おい、ちょ待てよ!」


 なんなんでしょうか。今の呼び止め方すごくアイドルみたいですね。

 チーレムの声を聞いて、家に戻ろうとしたアリスさんが足を止めます。


「あいつらは……あの男達は。ねえ、お願いを聞いてくれるって言ったよね?」

「――ああ」


 え、ここでそれ使いますか。

 ははーん、さてはとんでもないことを言い出しますよ。


「なら、お願い! あいつらを……ううん、魔神を倒してこの世界を救って!」

「っ!?」


 いや、魔神て。

 なんでさっきのおっさん達から、そこに繋がったのでしょう。

 存在の強大さが月とすっぽんじゃないですか。


「魔神……?」

「この世界は一年後に、魔神が率いる軍団に支配されると言われているの」


 初耳なんですが。勿論、嘘です。そんな話初めて聞きました。

 そもそも魔神とか誰ですか。

 一年後魔神が侵攻して、四年後に神と悪魔が戦争して、五年後に魔王復活とか修羅過ぎません?


「あの男達は魔神軍の手先。彼らが活動したということは、魔神の復活も近いはず」

「そ、そんなこといきなり言われても……」


 まあ、そうですよね。

 チーレムはいまのところ、何もしていないですし。

 そんなお願いされても困りますよね。


「……あんたは、選ばれた者よ」

「えっ」


 えっ。

 選ばれたとか、何に選ばれたんですかね?


「私が言わなくても分かるでしょう? マコトは選ばれし者。勇まい者――勇者よ」

「俺が……勇者?」


 ちょっと意味が分かりませんね。

 話が急展開過ぎて謎です。

 というか、勇ましい者で勇者ってそれただの勇敢な人じゃないですか。

 もう、これは確定です。

 魔神から勇者の件までアリスさんの作り話ですね。

 そんな話を意味ありげに語るから怖いですが。


「そうよ。さっきあなたをどこで拾ったか言わなかったけど……教えてあげるわ」


 あー! ここで話しますか。

 つまり、あらかじめこの流れを予定していたというわけでしょうか。

 ということは、あのおっさん達は絶対に知り合いの人達でしょうね。

 完全に出来レースですよ、これは笑います。


「神の導きによってでしか入れない湖。マコトはそこにいたのよ」

「神の……導き? まさか――っ!?」


 ……これはやばいですね。

 神の導きって、多分適当に行っているのでしょうが、偶然にも条件が一致しています。

 私がチーレムを突き落とした先が湖だった。

 彼は私こと神の手により、この世界に来たわけですから……。

 あら、不思議。言いようによっては神の導きですね。



「思い当たる節があるのね」

「ああ……確かに言われてみれば」


 本当に言われてみればそうですね。

 でも、まさか溝を殴って突き落とした事を導きと言われるとは思いませんでした。

 変に辻褄があった所為で、チーレムはアリスさんの話に納得している様子です。


「なら、早く世界を救うために行きなさい!」

「行くってどこへ!?」


 何処でしょうね。

 そもそも魔神とかいませんし。

 世界を救う必要もないのに、どこへ行けと言うのでしょうか。


「始まりの街、ポイントよ」


 アリスさんは不敵に笑みを浮べて、そう言いました。

 でも、待って下さい。

 そもそも、この世界にそんな街はありませんよ。

 とまあ、これから彼の冒険が始まるのでしょう。

 だからよ……止まるんじゃねぇぞ……。

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