Re:出会いから始まる異世界生活
皆さん、お久しぶりです。五十年ぶりですかね。
私です。神です。絶世の美女こと神様です。
果てさて、五十年の歳月が経った訳ですが、私が突き落とした彼はどうしているのでしょうか。
私、気になります!
というわけで、早速異世界を覗いてみましょう!
「……ここは?」
居ました。彼です。名前は忘れましたが、五十年前にブローしてあげた彼です。
とりあえず、名前はチーレムと名付けましょう。
辺りをキョロキョロと見回していますが、どうやら自分がどこにいるのか分からないようですね。
チーレムはいま、とある家にいます。
正確に言えば、家の寝床から起き上がった状態です。
おそらく、倒れていた彼を誰かが家まで連れてきてあげたのでしょう。
優しいですね。チーレムにフラグが立ちましたが。
「あれ、目が覚めたの?」
「あ。えっっと、君は?」
おっと、ここでやはりとでも言いましょうか。
赤髪の可愛い女の子が部屋に入ってきました。
左目に三本の傷跡が痛々しく刻まれているのが、なんとも特徴的な女の子です。
なんだか、近海に潜む生き物に片腕を食べられそうな人ですね。
「私? 私の名前はアリスよ。よろしく!」
「アリス……うん。こちらこそよろしく! 俺はマコトって名前だ」
チーレムの名前はマコトらしいですよ。
初めて知りました。何だか、彼の行動によっては最後に刺されそうですね。
お互いに名前が分かったので、握手を交わしています。
非モテの割にはなかなかスムーズに異性の手を握ってますね。
「そういえば、ここはどこなんだ? もしかしてアリスの家?」
「そうそう! 君をここまで運ぶの大変だったんだよ!」
いきなり呼び捨てですか。
距離感の詰め方が気持ち悪いですね。
せめて、初対面なのですから、ちゃんかさんくらい付けるべきでは?
まあ、チーレムに言っても仕方ないですが。
それに比べてアリスさんは偉いですね。
見ず知らずの男を自宅まで運んであげるだなんて。
でも、きっと彼女はチーレムの嫁候補の一人になるのでしょうが。
不思議ですね。そう考えると、ただのビッチにしか思えません!
「あ、ごめん。でも助かったよ」
「えっ、あ、別に。私が好きで運んだだけだし、お礼なんていいよ」
でました! 転生前では一度も出来なかった爽やかスマイルです!
何故、世界が変わった瞬間にそんな微笑みを自然と出せるのか謎ですが!
そして、赤面するアリスさん。早すぎません?
墜ちるのちょっと早すぎませんか?
出会って即落ちとか流石にどん引きですよ。
「でも助かったのは事実なんだから。ありがとう」
「……はあ。君変わっているね」
「そうか? 助けてくれたならお礼を言うのは当たり前だろ」
「もう、分かったわよ。どういてしまして」
これは確かに正論ですね。
恩に感謝する精神は嫌いじゃありませんよ。これには神様もにんまり。
とまあ、なんだかいい雰囲気になっているのが不思議ですが。
といいますか、アリスさんはお礼言われたことないのですかね。
「それよりも、どうしてあんな場所で倒れていたの?」
「あんな場所?」
ああ、そういえば彼ってどこに落下したのでしょうね。
適当に突き落としたから私も気になります。
チーレムはボディブローで気絶していたので、どうやら落下先を知らないみたいです。
そんな彼は首を傾げています。
アリスさんは、呆れたのでしょうか。
ため息を吐いて口を開きました。
「どこって……それは聞かない方がいいよ」
「えっ、それはどういう意味なんだ?」
おや、急にアリスさんの声のトーンが下がりました。
表情も気のせいか、暗いです。
どうやら、訳ありな様子。
ですが、私にはこの時点で彼がどこに落下したか察しがつきました。
「聞かない方がいいよ。私も言いたくないし……」
「――そんな……いったいどういうことなんだ!? 教えてくれ!」
焦っていますね。
アリスさんの肩を思いっきり掴んでいます。
自分がどこに居たのか分からないうえに、相手は説明したがらない。
たしかに、不安になる気持ちもわかります。
もしかしたら、とんでもない場所に居たのかもしれませんしね。
「ちょ、痛い!」
「あっ、ごめん」
でも安心してください!
彼は別に危険な目にあったり、危うい場所に落ちた訳ではありません!
おそらく、そこら辺で気絶していただけでしょう!
え? 何故かと聞かれますか?
では、お答えしましょう。
何を隠そう、この世界の住人は知ったかぶりをしたり、特に意味のないことを意味深に言ったりする習慣があるのです!
勿論、住人はそれを知りませんが。
そのせいで、この世界にはありもしない噂が伝説として多く語り継がれています。
尾ひれが嫌というほど付いて。
例えば、この世界は魔王が五年後に復活すると言われています。
が、そんなことはありません! そもそも魔王とかいたことないから!!
せいぜい、マ・オウさんという名前のおっさんがいたくらいですから!!
更には、四年後には神と悪魔が戦争を起こすと言われています。
が、起きませんから!!
そもそも、私戦争するつもりありませんから!!
と、まあ、こんな感じで嘘が蔓延しているのですよね。
住人は皆それを信じるどころか、自分なりに改良して更に広めますし。
というか、四年後に戦争で五年後に魔王復活とか忙しすぎません?
もう人類積んでますよね? 意味深なこと言ってないで戦う準備しろって話です。
「分かった。気になるけど無理には聞かないよ」
「そうしてもらえると助かるわ。ありがとう」
おっと、どうやら追及はしないみたいですね。
聞かない方が良いと判断したのか、聞くだけ無駄と思ったのかは知りませんが。
「それよりも、マコトはこれからどうするの? なにか用事でもある?」
「え? うーん、特にはないかな」
まあ、そうですよね。
この世界に来てからまだ数十分しか経っていないですし、予定とか未定ですよね。
どうせ、冒険者ギルドとか行くんでしょうが。
そこで遂にチート発揮ですかね。魔法バーン的な。
どんな規格外能力を付与したか忘れましたが。
「だ、だったら……ちょっとお願いしたいことがあるんだけど?」
おっと、上目使いです。あざといです。これは断れませんね。
むしろ、断ったらある意味尊敬しますよ。
「――あっと」
@? どうしたのですかね。もしかして、いきなり連絡先交換ですか?
この世界にはスマホとかありませんよ。勿論、将棋も。
「ああ、良いよ。助けてもらったお礼があるし」
どうやら彼女の上目遣いにドキリとしただけみたいですね。
あまりの可愛さにきょどった訳ですか。
「本当!? ありがとう!」
うわ、眩しい!
なんて輝く笑顔だ! これには絶世の美女である私もドキリとしちゃいます。
「それで、お願ってなんだ?」
そういえばチーレムはさっきから口調が安定しないですね。
ああ、なるほど。きっと、この世界でどんなキャラで行こうか模索しているのですね。
なんとも健気な。
「えっと、それが――」
「おい! 今日も来てやったぞ!! とっとと開けやがれ!」
「いるのは分かってんだぞ!!」
おや、ここにきて小汚いおっさん達が家の前にやってきましたね。
数は十二人ですね。槍やら斧やら剣やら物騒な武器を手に持っています。
「な、なんだ!? ――っと?」
突然の出来事にチーレムがビビッています!
すると、アリスさんが大胆にもチーレムに抱きつきました!
「……助けて」
「っ!」
察しがいいのか、彼女の言葉を聞いてチーレムの表情が変わりました。
はてさて、彼はどうするのでしょうかね。
当たり前だー! と叫ぶのか、おっさん達を追い払うのか楽しみです!