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2話:2回目の死

目の前の神木は萎んでいった。最初は枝先がさらさらと崩れるように塵になり、続いて上から徐々に、まるで蒸気が抜けるように体積が減少していき、4mほどあったその命はやがて根元にあった透明の結晶のみとなった。

結晶に「死んだのか?」と問いかけてみるも、当然返答はない。改めて周りを見渡すが、おおよそ死んだ場所とは思えない。せめてここがどこか程度は聞けばよかったと思うが後の祭りだ。

もしかしたら何かの役に立つかもしれない、そう思い唯一残った結晶を手に取る。よくよく見てみるとそれはほのかに光を放っており、その白い光は少し暖かい気がした。










ここがどこなのか、自分は生き返ったのか、託すとは何のことか、分からないことばかりだがいつまでもここにいるわけにもいかない。何故か太陽が見えないが、とにかく明るいうちにこの森を抜けないといけない。


ぐるりと周囲、できるだけ遠くの方を見るがどの方位にも拓けた場所は見えない。特に目印などもなく、同じような景色が続く森だが進まない選択肢はない。

とりあいず先の神木があった方向に真っ直ぐ進むことにした。



パキパキと折れる枝、ガザガサと破れる木の葉、風に揺られてじゃれ合う木たち。最期と同じ音ではあるが、込められた意味は全く違って聞こえる。何より足は重くなく、後から迫る死もない。変化もなく均等に刻まれる足音が、拍子を刻むように響く。


耳をすませばすますほど細かな音が拾えて、一瞬たりとも同じ音は存在しない。自然の優美さに酔いながら歩みを進めるが、それも長くは続いてはくれなかった。

またもや、と言うべきか後方から複数の足音が聞こえる。最期と同じく死を匂わせる乱暴な足音だ。逃げるべきか隠れるべきか、いくつかの選択肢が頭に浮かぶ。

その時ふと自分の最後を思い出し、咄嗟に近くの茂みにうつ伏せになって隠れる。

ほとんど間もなく怒号が聞こえる。複数の人間が何かを探すように近くを歩き回っている気配だ。ほとんど聞きとれなかったが、幸か不幸か近くまで進行してきたため会話の内容がはっきりと聞き取れるようになった。


「神秘神はいたか」

「いいえ、見つかりません」

「もう1度この周辺をくまなく探せ、反応はあった、必ずどこかにいるはずだ」


神秘神、と呼ばれる存在を探すその集団。木の葉の隙間から見えるその姿は、まるで日本の――母国の――軍隊を思わせる風貌で少しどきっとする。

ここは日本なのだろうか、疑問に思うがそんな場合ではなかった。

着々と辺りをくまなく捜索する集団、自分は神秘神やらではないが、見つかったら何をされるか分かったものではない。できれば見つからないでくれと祈りながら身を潜め続ける。


隊員の1人がこちらへ向かってくる。砂漠に落ちた針を探す如く慎重に、丁寧に、くまなく捜索する。

1歩ずつ、1歩ずつ、僅かにだが確実にこちらへと近づいてくる。


心臓の鼓動が大きく感じられる。冷や汗が頬を伝い、唾が口内に溜まる。

緊張が最高潮に達する。


今にも破裂しそうな心臓を必死になだめながら祈る。


頼む、来ないでくれ













視界が開ける。

茂みによって遮られていた視界、安心の象徴とも言えたそれは祈りも虚しく、あっけなく開かれる。

僕を見つけて少し驚いた隊員は、一歩後ずさりすると素早い動作で腰に装着したナイフを構え、こちらに向かってくる。


「っっ!?」


間一髪で横に転がってそれを躱す。なぜいきなり襲ってくるのか、問いを投げかける前に隊員は大声を出してさらに絶望を振りかけた。


「人間を一名発見!ただちに捕らえろ!!人間を一名発見!ただちに捕らえろ!!」


怒号と共に一斉に集まる足音。まずい、逃げないと。そう思い立ち上がった時に、不意に視界が反転する。

右足首と肩に鈍い痛みが走る。立ち上がったところを蹴られ、転ばされたということを理解するのにそう時間はかからなかったが、もう1度立とうとするころには既に周りを取り囲まれていた。


「隊長、神秘神の反応は」


隊長と呼ばれた男は携帯端末のようなものを取り出し操作し、少し間を置いて告げる。


「……ないな、殺して構わん」


先程僕を見つけた隊員がナイフを手に近づく。恐怖で後ずさる、後ろにいた別の隊員に蹴り飛ばされ、前に倒れる。背中の痛みに引きずられるように仰向けに転がると、真上にギラりと光る死が見えた。


「うううううっあああっ!!?」


腸にナイフが突き刺さる。あの時よりもより深く、より鋭く。異物感と痛みに悶え、たまらずに胃液がこみ上げて、吐血する。勢いよく引き抜かれ、もう1度振りかざす。


また、死ぬのか


嗚咽を漏らしながらも、心では諦めがついたように問いかける。痛みを誤魔化すためだけだったその問いは、意味もなく自分の中を巡るだけのはずだった。


死にたくないか


そう聞こえた気がした。どこの誰がどうやってなんて気にせず、落ちかける意識とぼやける視界の中で、決死の思いで答える。


生きたい


眼前に迫るナイフ。もう数秒後にはそれが再び突き立てられ、2度目の死を迎えるはずだった。しかし声には出さずとも強く答えられたその言葉に呼応するように、結晶から光が放たれる。


そして強く放たれた光は強く固まり、質量を持つ壁のようにして、その死を退けた。


「何が……!?」


ナイフを防がれた隊員が目を覆いながら漏らす。すると後ろから耳障りな電子音が鳴り響く。先程隊長と呼ばれた男が操作していた端末からだ。


「神秘神…神秘神の反応だ!!」


光はよりいっそう強くなり、体を包んでいく。ナイフを防いでいた凝固した光は肥大化し、弾けるように拡散する。小さな嗚咽と共に隊員が吹き飛ばされる。拡散した光は収束し、体を包み込む。

光は未だドクドクと血を流し続ける傷口を埋めつくし、瞬く間に痛みと共に消し去る。


ゆっくりと立ち上がり、身を包む光の先を見る。

そこにあるのは僕を殺そうとした隊員でも、耳障りな音を立てる端末を持つ隊長でもなく。



六枚の羽を持つ、2つに結ばれた青髪を長く伸ばした美しい琥珀色の瞳を持つ少女だった。


「この世界は無現に続く絵巻物、回り続ける歯車、終点のない列車、底のない井戸」


「朝という概念が空を照らし、時間の概念が時計を回す。季節という概念が森を彩り、天気の概念が土地を潤す」


「無限に続く美しい世界、神秘に満ちた永遠の世界、さあ!ボクと一緒に世界を取り戻そう!!」


まだまだ分からないですけど、がんばって書き続けます!ゆっくりですが読み続けてもらえると嬉しいです!!

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