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1話:二人目の転生者

草木の揺れる音が聞こえる、木の葉同士が擦れ合い、枝がぶつかり奏でられる自然の音。そんな美しい音とは対照的に、僕は無様に、汚らしく足掻いている。

芽生えたばかりの命を踏み潰しながら、今にも途切れそうな息を続かせて走る。


僕は逃げていた、迫り来る死の運命から、こうしたのは誰だろう。どうして捨てられたんだろう、なぜ僕なんだろうか。

いくらやっても無駄な自問自答を繰り返す、痛む傷口と疲労で今にも折れそうな足を誤魔化すために。

パキパキと折れる枝の音、自分の音は耳にいいが、後から迫る音は絶望でしかない。


「うぐっ」


足が限界を迎え、膝が折れ倒れる。

嫌だ、まだ死にたくない。しかしその思いとは裏腹に足先は冷たくなっていき、徐々に活動を停止していく。

後から迫る足音はもう数歩というところまで来ている。


嫌だ、まだ死にたくない、ここで終わりたくない


もう残っていない力を振り絞り、手だけで這うように逃げる。いつの間にか風は止み木々は演奏をやめている。

自分の体を引きずる音と、後ろから迫る死だけが空に響く。


ついに手も動かなくなる、四肢が冷たさと疲労で痛みすら感じない。

体の傷口からも痛みが襲ってこない、いよいよ死を間近に感じる。せめて、せめて最期は眠るように死にたかった、苦しいのは嫌だ。でも、その望みを追跡者は叶えてはくれない。

追跡者の大きな手が顔を掴む、最早皮膚全てが感覚を失っており、目でみることで掴まれていると誤認しているのかもしれない。

もう片方の手には刃物が握られている、何をされるかは分かりきっていた。

恐怖か寒さか、体がいっそうガチガチと震え出す。そんなことを気にもせずに追跡者はその凶器を腸に突き刺す。


「あああああッ!?」


鋭い痛みが全身を包む、体の中をめちゃくちゃにされる異物感と痛みがごっちゃになり吐き気をもよおす。

こみ上げてくる、胃液か血液かもつかない何かをたまらず吐き出す。ぐちゃっ、と汚い音を立てて吐き出されるが追跡者はものともしない。

それどころか、もう1度刃物を振り抜き再び突き刺す。


「ううっ、ああああ!!?」


より大きな悲鳴が無音の森に響く、木々に反響して何度も耳を通る声は耳障りで、この世界に自分にとって心地のよいものなんて1つもなかった。

息をするのも、掴まれた首を座らせることすらも辛い、できることなら今すぐに命を断ちたい。


後頭部に鈍い痛みが走る、ぼやける視界には追跡者が遠ざかる姿がかすかに見えるだけで、暗闇の中の木々を捉えることすらできない。

最後に見るのが自分を殺したものなんて、嫌な話である。最期くらいは自然を見たいと思いなけなしの力で首を倒す。枯れた木の葉と枝を見て、こいつらはもう死んでいるのかと感じる。


美しいであろう自然に包まれ、死んだ命に包まれながらゆっくりと瞼を閉じて、僕の人生の幕は乱暴に、しかし静かに閉ざされた。














眠りについたか、気を抜いて数瞬か、はたまた数年後か、再び目を覚ます。

死んだはずのその体で。


「ここは……」


体をむくりと起きあげる。久しぶりに浴びる日光に目が慣れず、パチパチと数度瞬きをしてから辺りを見渡す。

足元には枯れ葉や枝、周囲には青々と生い茂った木々達、しかしそれは針葉樹や広葉樹には属さず独特の、むしろ両方の特徴を備えているように見える。

土の香りもどこかよそよそしく、感じたことのない浮遊感に包まれるような気がする。

しかし空は平常通り青く、太陽こそ見えないが木漏れ日が差し込み風景に濃淡を演出している。一見普通の森であることは明らかだが、同時に明らかに普通でないものがあった。

立ち並ぶ木々のうち一本が、ねじ曲がり腐敗し、長く伸びた枝が垂れ下がっている。凝視してみると根元には鉱物か何かの結晶のようなものが固まっており、動きを固定しているようにも見える。

静かに立ち上がりその木に近づく、特に理由もなくなんとなく腐敗した幹に触れると、何か気持ちの悪い感覚に襲われる。

なんだと思いながら注意深く観察していると、不意に森に声が響く。


また、壊しに来たのか


振り絞るような、今にも消え掛けの命の声。しかしその中には強い意志が宿っており、聞くものを威圧させる威厳を感じさせる。

そして直感的に、この言葉は自分へ向けられていると感じた。またこの声はおそらく、この木から発せられたものだろう。しかし、意味が汲み取れない。どうしようかと考えていると、再び声が響く。


殺すなら殺せ 尤もお前も破滅することになるがな


「なんだ、あなたは何を言っているんだ」


ついたまらずに聞き返してしまう、目の前の死にかけの木は想像していた声と違ったからか、はたまた聞き返されるとは思わなかったからか、驚いたように枝を揺らす。


お前は……そうか、二人目か


「二人目って何なんだ、言っていることがまるで掴めない」


私にはもう、時間が無い


会話が成り立つ相手ではないことを感じる。おそらくこの木は相当追い詰められているか、強い感情によって思考がめちゃくちゃなのだろう。問いかけても意味の無いことを理解し、言葉を待つ。


答えろ、お前はこの森を美しいと思うか


「美しい、でもあんたは醜い、まるで死にかけの僕みたいだ」


そうか、ならばお前にこの身を託す


「そんな勝手な、死ぬなら勝手に死んでくれ」


もう死ぬ寸前の木が少しだけ揺れた。落胆か絶望か、僕の死ぬ寸前と同じだ。そう思うと、少しだけ同情が湧いてくる。この木僕と同じように生き返るのだろうか、それともこれきりで死んでしまうのだろうか、考えているとその隙を突くように話しかけてくる。


私はもう死ぬ、さあ早くしてくれ


どうしても思うところがあった、木々に包まれ見捨てられたように死んでいくその様に。どうして自分の死に方と同じ道を行く物を見捨てられようか。


「分かった、僕の死に方に免じて受け入れる」


その言葉を聞くと安心したように枝を揺らす、聞きたいこともある。どうするのかも気になる。どう託されるのかは分からない、ゆっくりと萎んでいく神木はおそらく強引に、しかし静かに死んでいった。

おそらくは、僕になにかしらの希望を抱いて。

異世界転生モノを書くのははじめてなので色々不安です……コメントとかで色々言ってもらえるとすごい嬉しいです!

これから地道にがんばっていきます!!

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