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転生少女の回顧⑥

「何、ここ……」


そこは大きな屋敷だった。白を基調として作られているその屋敷は、決して派手ではないが、人が何人暮らせるのか、と問いたくなる程に大きかった。


「ここ、本当にあなたの家なの……?ユーリス」


「ええ、そうですよ」


なんでもないことのように、ユーリス……魔法使いは言った。

それを見て私は自分がとんでもない魚を釣り上げたのだと理解した。



●○●○●



「良いわ。その代わり条件があるの」


リオンを引き取りたいと言った魔法使いに私がそう言えば、条件ですか?と魔法使いは首を傾げた。


「ええ、そうよ。条件」


最初はお金が手に入れば良いと思っていた。が、しかし、ここで金を手に入れるのは勿体ない。非常に。

私は子供だ。力もない。故に大金を持っているだけで危険はある。最初はそれでも良いと思っていたが……ここでその手を使うのは勿体ない。もっと良いものが手にはいる筈なのだから。


「私ね、もっと安心した生活が欲しいのよ。こんな貧困街でいつ死ぬかもわからないような生活ではなく」


私には夢がある。それは元の世界に帰るという夢だ。しかし、それよりもまずここにいれば死ぬ可能性が圧倒的に高い。死ぬのは怖い。それだけは嫌だった。

ならば、まずは身の安全を第一に考えねばならない。


「私、孤児院に入りたいの」


この世界のことは詳しくわからないが、孤児院くらいはある筈だ。

私はそこに入りたかった。この世界の孤児院の質がどのくらいかなどは知らないが、ここよりはましな筈だから。

それに、この男は魔法使い様であるのだから、それなりの質の孤児院は知っているだろう。

そう思って言ったのだが……


「……孤児院?フィリアが?」


その声が震えていて、私はリオンを振り向いた。そこには信じられないと赤い目を丸くさせたリオンがいた。その体は声同様に震えている。


「……リオン?」


どうしたのか、と顔をしかめながらリオンを見れば、彼は強い力で私の手を握りしめた。


「……駄目。絶対、駄目。孤児院、なんて……」


「なに、どうしたの……」


そこであ、と私は思い出した。それは昨日のリオンとの会話だ。

確か、彼は言っていた……孤児院で体を弄られた、と。

リオンは綺麗だ。そんな彼を手籠めにしようと思う者が少しも居ないか、と言われればそれは違うだろう。

きっとリオンは自分のように私が同じめに合わないかと心配しているのだろう。

昨日から異様に私に対する態度が変わった気がするが……それは一先ず置いておいて。まず、リオンの心配は無用だ。

まず第一に私はリオンとは異なり平凡な見た目をしている。特別不細工でもなければ可愛くもない。むしろ今は痩せて汚れているせいか下の部類に入るだろう。

不細工だから手を出されないとは思っていない。変態とはどこにでも転がっているものだ。が、しかし、ここでのたれ死ぬよりはましなように思えた。

……いいえそもそも。そんな決意は無用だわ。

目の前のこの魔法使い様は凄い方なのだろうから、そんなリオンの居たようなところに私を置いていったりはしないだろう。

魔法使いの地位は漠然と凄いということくらいしかわからないが、地位ある人間は体裁を気にするものである。

こんなしょうもないところで、その面子を崩すリスクは負わないだろう。

だから、心配は少しもいらないのだが……。


「駄目……駄目……」


リオンはぶつぶつと呟いてる。その姿は少し……いやかなり不気味だ。手の力も強く、少し痛い。正直、その手を離してもらいたい。

ぶつぶつと呟くリオンとリオンの姿に引いている私を見ていた魔法使いは……ふむと呟いた。


「わかりました。では、こうしましょう」


魔法使いはにっこりと微笑んだ。

その笑みに私は私の条件を飲んでくれるのだと思い、頬を緩めたこところで……


「あなたも私の養子となればいいのです」


私は大きく目を見開いた。



●○●○●



ユーリス。魔法使いは呆然とする私達に呼びつけた馬車の中でそう名乗った。

ユーリスの屋敷は広く、一人で住んでいると言っていたが、使用人は沢山居た。

一人の人のためにこの人数。元の世界で普通の家庭で暮らしてきた私からしてみれば、勿体ないとしか言いようがなかった。

そんな私の視線を感じたのだろう。ユーリスは『使わねば金が勿体ないでしょう?』とセレブな発言をしてくれた。なるほど、魔法使いとは大層凄く、そして大層儲かるらしい。

与えられた部屋も当然、広い。これはいったい何人部屋で、あのベッドはいったい何人用ベッドなのかと問い質したくなるほどだ。下手したらベッドは元の世界の私の部屋程はあるかもしれない。

呆然としている間に風呂に入れられ、ドレスみたいな服を着せられ、パーティーかと疑う食事の並べられた席に着いていた。

もう私は驚きの連続である。それはリオンも同じようで無表情であるが居心地が悪そうだ。

……でも、様になってる。

綺麗に洗われ、綺麗な服を纏って。そうして鏡を見た時、私はなんだかおままごとをしているような気分になった。服はおままごとでは着れないような素晴らしいものなのだ。しかし、中身が伴っていない。圧倒的に。そのため、どうしても違和感が拭えない。

しかし、リオンは違う。中身も服も上等で、落ち着かなそうではあるが、ちぐはぐ感はない。つまり、良く似合っているのだ。


「二人とも良くお似合いですよ」


そうニコニコとユーリスが言う。一瞬その言葉が嫌味かとも思ってしまったが悪意はないようでニコニコと笑い続けている。


「とりあえずお腹が空いているでしょう?話したいことは沢山あると思いますが食事に致しましょう」


致しましょう、と言われても。

私もリオンも止まったままだ。お互い顔を見合せる。リオンもまた困った顔をしていた。

いったいどう食べるのが正解なのか。テーブルマナーなど全くわからない。ぱっと見、元の世界と同じ雰囲気ではあるが、元の世界のマナーも曖昧だ。

確かナイフとフォークは内側から使うのだった……?

順番があったはずだ。しかし、全くどちらからか思い出せない。

元々マナーなんて気にしたことはなかったが、それくらいは知っていた気がする。が、しかしここに来た時間が長すぎる。そんな普段使わない記憶はもう彼方へと旅立っていた。

そんな私達をユーリスは不思議そうに眺めて……ようやくあっと察した。


「この先マナーは必要となってきますが、今日はまだ初日ですしね。今日は堅苦しいのはなしに致しましょう。無礼講です」


そう言いながらユーリスは食べ始めた。無礼講、と言いながらもユーリスの食べ方は非常に綺麗で……そうしてゆっくりだった。

きっと私達が見よう見まねでも食べれるようにと考えたのだろう。

そのおかげて私とリオンはユーリスを見ながら食事をすることができた。



●○●○



食事はとても美味しかった。この世界でこんなに美味しいものは初めて食べたと言ってもいい。

少し情けないが、お腹が満たされたことで緊張も少し飛び、頭も回るようになった。

やはり人は満たされると、いろいろ余裕が出るらしい。


「ふふっ。やはり誰かと食べる食事とは楽しいものです。一人だと味気ないですからね」


そう微笑む顔は穏やかで嘘などないように見えた。

その表情を見て私は今日何度も口にした言葉を口にした。


「……本当に私も養子にする気?」


だって信じられないのだ。リオンを養子にするならわかる。美しいし、そして魔力があるのだから。

しかし、私は違う。拾ったところで何の利点もないのだ。

そもそもリオンを譲るという条件すら普通はおかしいのだ。リオンは本当は私のものではないし、リオンが私に許可を得なくてはいけないと言ったとすれ、奪ってしまえばいいのだから。

それなのに、私の条件を飲むどころか養子にするなど。頭がおかしいとしか思えない。

ユーリスはそんな私の言葉に私が疑問を口にする度に答えたのと同じ言葉を口にした。


「ええ、もちろん。別に養子を一人貰うも二人貰うのも私にとって負担は変わりません。それともあなたは孤児院の方がよろしいですか?……安全な生活。それをあなたは求めていた。それを私自身で提供できると思うのです」


孤児院の方が良い訳がない。比べるのも愚かな程にこちらの方が好条件だ。しかし、それでも疑問が湧くのは、疑いが消えないからだ。

何かを企んでいる気がしてならないのである。

何の見返りもなくこんなことするだろうか?

道端で腹を空かせた子供にご飯を与える、そんな簡単なことではないのだ。それ以上に手間も金もかかる。一度限りでなく、この関係は長く続く。そんな面倒を自分から背負う理由がわからない。

それとも魔法使いとはこの行為すら簡単だと思えてしまうような地位なのだろうか。

困っていたから助ける。そんな事が簡単に見返りを求めずできてしまうほどに。

わからない。だってユーリスは少しも表情を変えないのだから。

ずっと、ずっと、笑顔のままで。

そうだ。ユーリスは初めからほとんど表情を変えていない。笑顔という表情を張り付けたままなのだ。

故に怪しかった。ここまで表情が変わらないことが。何かを企んでいる気しかしない。

……手を離すべき?

このチャンスから。

彼の企みの背後に何があるかはわからない。孤児院の方が確実に安全ではある。……しかし。

私は何度目かの自問自答をし、何度目かの同じ結論を出す。

……逃すべきではないわ。

孤児院に行けばこの世界で生き残れるだろう。がしかし、元の世界に帰る手掛かりが見つかるかはわからない。

それに対して魔法使いの養子となれば、どこかにその糸口が見つかるかもかもしれない。少なくとも孤児院よりは可能性はあるはずだ。

なんたって魔法を使うものの側に居られるのだから。

私がこの世界に喚ばれた訳のわからない現象。この現象に、魔法とか言う訳のわからない力が働いている気がしてならないのだ。

それならば、私はここに留まるべきである。

たとえ、何に利用されているのだとしても。

こちらも利用してやれば良いのだ。ユーリスの企みがわかるまでは。もしかしたら、その企みは私には害がないことかもしれないし、そもそも何も企んでいないかもしれない。

事実を知らぬうちから賭けるのは危険なことではある。だがしかし、これぐらい危険を冒さねば、元の世界になど帰れはしないだろう。この世界はそれほど甘くないと言うことは今までで良く理解している。

私は決意し、ユーリスを見た。

何を考えているのだかわからない笑顔。それをしっかりと見ながら


「あなたのお世話になるわ。これからよろしく……お願いします。ユーリス様」

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