転生少女の回顧②
その日は雨が降っていた。
雨に濡れれば体温を奪われる。暖めるための服も毛布もないから、私は大人しく屋根のある場所で静かに座っていた。
すると目の前を一人の男の子が通りすぎた。
彼を見た時、私は綺麗、と純粋に思った。
白銀の髪に赤い瞳。綺麗な顔立ちに、白い肌。思わず見惚れて……お金になりそうだな、と思った。
だから私は彼に駆け寄ったのだ。
「濡れちゃうよ?」
こんな治安の悪い場所で大人にそう声を掛けられれば、普通はその大人を疑うだろう。
しかし、私は子供だ。ここで暮らしている子供ならば疑うだろうが、彼の服はボロではなく、ここに住んでいるようには見えず、騙すことは簡単に思えた。
優しげで無邪気な笑顔を心がける。すると、彼は想像した通りに、警戒心のない目で私を見た。
「とりあえずこっちに来て。ここなら雨宿りができるわ」
私は元いた場所へと彼を連れていく。もう充分に彼は濡れてしまっていたが、雨に打たれ続けるよりはましだろう。
「ねえ、どうしてここに一人でいるの?お家はないの?」
そう私が尋ねれば、彼は少し考えた様子を見せてから、ないと呟いた。
何かあるのだろう。どんな環境で彼が過ごしていたのかはさすがにわからないが、私のように外で暮らしていた人間ではないはずだ。だって服は酷く汚れてはいないし、痩せてもいない。
食べるものも着るものも困ってはいなかったのだろう。その生活が幸せだったのかは知らないけれど。
でも、そうか。彼は家には帰りたくないのか。
私はそっと彼を観察する。身なりは綺麗だ。しかし、着ている服は一般的な家庭の者が身に付ける服。金持ちの子供、という訳ではないらしい。
それなら家に帰すよりも売った方がお金になる。
「帰る場所がないのなら私と一緒に行動する?」
「……君と?」
そう!と私は頷く。
「あなたあまりここに慣れていないでしょう?対して私はここに慣れてるし!私もね!ちょうど一人で退屈だなあって思ってたの!あなたさえよければ、ね?」
無邪気に私は彼を誘う。彼は少し考えた素振りを下後、こくり、と頷いた。
「やった!それじゃあよろしくね。私の名前はフィリア。あなたの名前は?」
「……リオン」
それが私とリオンとの出会いだった。