転生少女の回顧①
光の中で私は過去を思い出していた。それはまるで死ぬ前の走馬灯のようで。この世界で生まれる前、私がまだフィリアではなく、山本茜というどこにでもいる平凡な女子高生の頃の記憶からまるで映画を見るように、映像が流れていく。
あの日、私は提出期限が迫っている問題集を学校に忘れたのを思い出して、学校へとやって来ていた。夕暮れに染まる校舎。響く吹奏楽部の演奏。見慣れた教室。その中にクラスメイトの有川さんがいた。
彼女は私の姿を見つけると、不思議そうに首を傾げる。私が忘れ物をしたと告げれば、彼女はにっこりと笑っておそろいだね!と言った。
普段から話す程仲が良い訳ではないが、会話が続かない程悪いわけでもない。
だから私と有川さんはそこでしばらく雑談をしていた。そんな時だった。
唐突に有川さんの足元が光だした。いったい何が起こったのか。理解する前に有川さんは目も開けていられない程の光に包まれて、それに巻き添えになるように私も光の中に引き込まれた。
そうして気付けば、私は別の人間になっていた。
見知らぬ場所に見知らぬ人。見知らぬ言葉に見知らぬ私の体。
手のひらは小さくて、体は上手く動けない。
疲れた顔をした、けれど優しい女の人が私を抱き上げては胸を差し出す。私は赤ん坊になったのだと気づくのに時間はかからなかった。
何が起きているのか、全くわからなかった。泣いても叫んでも、元の世界に、元の私になることはできなかった。
混乱のまま時間は流れる。
気付けば私は七年の時をそこで過ごしていた。
その頃には言葉を喋れるようになっており、私を世話していた……母親に私の現状を訴えた。しかし、子供の幻想と片付けられて終わる。
帰りたい。そう思って泣いた。
お母さんとお父さんに会いたかった。友達に会いたかった。暖かいあの場所に戻りたかった。
ここは辛い世界だ。
母親は優しいけれど、その生活は貧しく、いつも空腹に悩まされる。私には隠しているようだけど、母は花を売ってまで生計を立てていた。そのせいかいつも疲れていて、この人の負担でしかない自分が嫌になる。
帰りたい。その思いは消えない。それどころか、日に日に増していく。
しかし、泣き叫べば母は悲しそうな顔をする。当然だ。あの人は私のことを子供として愛してくれている。
それが苦しかった。
彼女のことは嫌いではなかった。優しくて暖かくて。しかし、母とはどうしても思えなかった。
だって私の本当の母は元の世界にいるのだ。私の帰りを待っているのだ。
元の世界の母が恋しかった。この世界の母に優しくされる度、抱き締められる度、私の心は元の世界の母を求める。そして、そんな自分がまた嫌いになる。
母を母と思えないのに、その好意に甘えて、何も返せなくて、それどころか彼女じゃない母を求めて。
帰りたい。私はただそれだけを願った。
しかし世界は残酷で帰れぬままに時は経ち、私はこの世界の母を失った。
大きな病気だったのか、風邪を拗らせたのかはわからない。毎日の食事にも困る私達に病院に行くお金なんて当然なかったから。体調を崩した母はそのままこの世から去ってしまった。
貧しくともどれだけ私は母に守られていたか、死んだ後私は実感した。
常に空腹だったが、母が死んでからは、体が動けないほどに空腹になった。
食べ物を手に入れるためなら盗みもそれより悪いこともなんでもした。
こんなに苦しいのなら死にたい。そう何度も思うくらいに辛い日々。
しかし、元の世界に帰るその目標が私を生かした。
こんなところで一人寂しく死ぬなんて絶対に嫌だった。
死から足掻いて足掻いて足掻いて。毎日なんとか生きている。そんな状況の時だった。
彼と、リオンと出会ったのは。