EP.4 懐かしき町
クリーチャーはリザードの能力を使って、草原を素早く移動していた。
そして、川の近くをたどり、ついた場所は町ではなく村だった。
「おかしい、ここには町があったはずだ」
怪しい予感が漂うその村は荒れ果てていて、人の気配や声も足音も聞こえない。
ただ、風が吹いて窓や扉が嫌な音を立てているだけだ。
「何かの原因があるはずだ。19年間の間に…」
今にも崩れてきそうな村の門をくぐり、村の中へ入っていった。
村の中の様子は一言で表すなら殺風景。村の真ん中にある噴水は水が抜けていて、壊れかけている。そして、噴水の周りには明らかに水ではない液体が垂れている。
「あの液体…、何かの体液か?」
噴水に近寄って謎の液体に触れた。能力を使って液体の正体が判明、液体はスライムの体液だった。
さらには、この液体は最近の物という事も分かった。
「スライムか。…だが、スライムがこの町を襲って何の価値になるんだ?ここにいた人間なら対抗策なら知っているはずだ。スライムが人間に勝てるはずがない」
深く考えて思いついた推測。
1つ目は何者かがスライムたちを手引き、人間を襲わせた。
2つ目は人間がこの村を出ていった。
この2つをよく考えてみれば、なすべきことは1つだけだ。
「スライムを探す。この村の近くにスライムたちの住処があったはずだ。だが、村の中も隈なく探すか」
記憶の中にある商店が並んでいる場所を訪ねてみる。
こちらも、人の気配がなく店も崩れていて、面影は残っていない。
残っているのはガラスの破片や割れた瓶だけだ。
「死んでしまったか…。人間は好きではないが、この町の人々は私を助けてくれた…」
まるで人が変わったかのように、残忍極まりない性格から一変した。
クリーチャーは昔のことを思い出していた。強大な敵に戦いを挑み敗れてこの町で人間に助けてもらった。時には人間のために戦い、この町に5年ほど住んでいた。
この町の人たちはクリーチャーにとってはかけがえのないもの――家族または仲間だ。
「人間ではない私を受け入れてくれたのもこの町だ…」
お世話になった魔法使いの少女の家へ行ってみることにした。
~魔法使いの少女の家~
「何故この家だけは壊れていないんだ?あの時と変わっていない…」
ここであることに気付く、この家の周りは魔法陣に囲まれて範囲内だけ時間が進んでいないように見える。そして、窓の外には空中で止まっているスライムがいる。
クリーチャーは魔方陣の中に足を踏み入れようとしたが、あることを思い出した。
「この魔法陣は時空間魔法?窓の奥にいるのはあの娘とその両親。多分、父親が時空間魔法でこの場所だけの時間を止めたのか。私がこの魔法陣を踏めば時は動き出す…、必ず助ける。」
体をリザードの姿に変化、距離をとって走り出すそのまま一気に加速して、魔法陣の中に足を踏み入れる。
すると、魔法陣の中の時が動き出す。
クリーチャーは窓に飛び込もうとしたスライムを、空中で片腕を使って弾き飛ばす。
「誰?…その姿はもしかしてリーちゃん?」
家の中から少女の声が聞こえる。クリーチャ-は頷き、スライムとの戦闘を始める。
「隠れていろ。あと、リーちゃんと呼ぶな。」
「うん、ありがとう。」
少女は両親と一緒に家の中で、クリーチャ-とスライムの様子を見ている。
「…このスライムの種類の能力は物理軽減か。」
スライムにもいろんな種類があり、草食か肉食か、能力によって種類がわけられる。
このスライムは草食で能力は物理軽減、弾力性があって物理は効かないが熱や冷気に弱そうだ。
「火を探すか。…いや、かけてみるか。」
クリーチャーは木材を拾い、自分の爪と近くにあった硬い石を打ち合わせ、間に木材を挟んだ。
すると、木材が発火した。そして、スライムの様子をうかがう。
スライムは発火した木材に向けて、何かの液体を吐いた。木材の先端には透明な液体がついていて火は消えていた。
「この種類は液体を飛ばすほどの知能はなかったはずだ。やはり、何者かが?」
考えているより戦いに集中したほうがいいと判断、スライムに近寄って爪で切り刻む。
綺麗に切れたスライムの肉体は再生をして再び元の姿へ。
スライムは古い建物の壁に向かって跳びはね、バウンドしてクリーチャーに体当たり、防御をするが体当たりの衝撃は強烈でクリーチャーは吹き飛ばされて建物の壁に激突。
「なるほど、今の攻撃で人間を殺したか。リザードの皮が無ければ骨を何本か持っていかれていたな。」
またもやあの体当たりがクリーチャーを襲う、今度は回避することに成功。
スライムは辺りの建物にバウンドしながら、クリーチャーを狙う。
「(このままだと無駄に体力を消費するだけだ。何か策はないのか?)」
ここでクリーチャーは商店の方を見る。そこには塩の入った袋が置いてある。
塩を見てあることを思い出す。
「(スライムに塩をかければ、体の水分が抜けたはずだ。)」
塩の入った袋を手に取り、スライムの体当たりをわざと受けて、スライムに大量の塩をかける。
スライムの表面に大量の塩がつく、次々とスライムの水分は抜けて弾力性がなくなった。
苦しんでいるスライムは弱々しく動く、クリーチャーはマッチと木材を見つける。
マッチを何本も着火させてはスライムに火をつけた。そこに木材を加えてさらに燃やす。
数分経つとスライムは燃えて灰になった。
「厄介な相手だった。私の戦闘力も鍛え直さないとな。」
「リーちゃん、久しぶり!」
「久しぶりだな。あれから6年たったが、何かあったのか?」
「その話は家の中でしようよ!入って、入って!」
もう6年もたったが、性格や雰囲気は変わらない。唯一変わったのは容姿だ。
クリーチャーと少女は家の中に入っていった。
~家の中 リビング~
「リーチさん、お久しぶりですね。助けていただき誠に感謝しております。」
家の中で出迎えてくれたのは少女の母親だ。
リーチというのはクリーチャーの使っていた偽名だ。本当の名前はない。
「ねえねえ、リーちゃん!今まで何してたの?」
「私は色んな場所を旅していた。…聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい、何のことでしょうか?」
クリーチャーは少女の母親に質問すると、その場の空気はガラッと変わった。
「私がいない間に、この町で何があったんだ?」
「スライムたちが襲って来たんです…。」
「やはりか、町のみんなはどうなった?」
「私たち以外のみんなは、偶然立ち会った魔族の兵隊たちについて行って避難しました。」
この言葉に驚きが隠せないクリーチャーは、疑問を抱く。
「ありえない、あの魔王が人を助けるなど…。」
「リーチさんは知らないと思いますが、あの時の魔王は自分の娘に立場を譲って、この世を去りました。」
「そうか、私のいない間にそんなことが。」
「でも、今の魔王様は人間と共存関係を築こうとしているお方ですよ。」
「では何故、スライムは人間を襲ったのだ?スライムたちは魔族の仲間だったはずだ。」
「それはわかりません。スライムの住処に行けば、何かがわかると思います。」