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EP.2 主導権はクリーチャーに

 窓から外の様子を見てみると、家には大勢の報道陣が押し寄せていた。

「…私に用があってきたのかな?」

 影魅は寝室を出て、着替えた。そして、玄関口へ向かった。

「何の騒ぎ?」

「駄目だよ、姉ちゃんは隠れてて。今、サナ姉ちゃんが追い返しているから。」

 一方その頃、外では…。

「帰ってください!今、姉さんはまともに話せる状況じゃない。」

すると、報道陣の中から偉そうな中年の男性記者がサナに問いかけてきた。

「それは困りますよ。私たちはこれが仕事ですから」

 その言葉のあとに、周りの人たちが「そうだそうだ」と便乗する。

「(やはり、人が集団的になることは本当に恐ろしい。この娘もそのうち耐えきれなくなるでしょうな。)」

「うっさい!仕事だか何だか知らないけど、こっちは迷惑よ。」

「そっちが容疑者を出してくれれば、帰りますよ。」

 この一言にサナは殺意の目を向けた。何せ自分の姉を犯罪者呼ばわりされたも同然だ。

「姉さんを犯罪者呼ばわりするな!」

「うるさいですね。たかが浮気で半殺し、これ犯罪ですよ。浮気は男のアクセサリーだというのに。」

 無論、そんな常識はない。ただの言い逃れだ。哀れな行為だ。

「最低。アンタみたいな奴は絶対にゆるさない!」

「暴力ですか、あなたも犯罪者ですね。」

 サナは殴りかかろうとしたが、玄関から出てきた龍星に止められた。

「ここで手を出したら、サナ姉ちゃんが悪者だよ。」

「でもね、こういう奴には。」

「いいから、まかせて。」

 サナは後ろに引き下がり、まだ小学生の龍星が報道陣の相手をする。

「君みたいな子供が何かね?」

「こっちから言わせてもらいます」

 どうやら龍星には、何か反論そして論破へと繋がる言葉がある。

「さきほど、あなたは浮気は男のアクセサリーと言いましたね。」

「そうですが、何か?」

「あなたは人を犯罪者と言いつけた。でも、浮気を男のアクセサリーとか言っている人には言われたくないですね。浮気は人を裏切る行為で、とてもみじめですね。」

 龍星の発言で周りの人たちは何も言えなくなった。

 中年の男性記者はすぐに適当な反論をぶつける。

「君のような子供が大人の世界に入り込んでくるんじゃないよ。」

「子供に論破されて悔しいですか?1つ言っておきましょう、僕はあなたよりも知的ですよ。」

 普段の優しい性格から一変、影魅のことを思っているため、小学生とは思えない発言の連発だ。

 すると、中年の男性記者はため息をつき、辺りの記者たちに一言。

「これ以上は無駄と見ましたよ。皆さん、またの機会にお伺いしましょう。」

 報道陣の記者たちは不満を口にしながら、その場を立ち去った。

 中には空き缶やゴミを敷地内にポイ捨てする記者、顔色が悪くてマスクをしている記者がいた。

「本当に嫌な奴らね。…龍星、追い払ってくれてありがとう。」

「うん。また、来るんだよね。あの人たち…。」

「ええ、迷惑な奴らは懲りないもの。」

 時間はあっという間に過ぎて、その次の日に最悪の事態が起きた。

 朝から聞こえたサナの声に起こされる。

「姉さん、起きて!母さんが大変なことになっている!」

 目を覚ますと目の前にはマスクをつけたサナがいた。

「母さんの熱が40℃のあって、咳が止まらない!」

「病院に連絡は入れたの?」

「遅くても3分はかかるって。」

 影魅はすぐに着替えた。そして、母親のいる部屋へと向かった。

 部屋の戸を開けると、布団の上で苦しんでいる母親を龍星がつきっきりで看病している。

「龍星!何で母さんがこうなったかわかる?」

「多分だけど、昨日来た記者の中に顔色が悪い人がいたんだ。僕たちがお母さんに近づいたから、こうなったんだと思う。」

「どこまで来ても、うざったい連中ね。」

 その時、救急車のサイレンが聞こえた。そして、数十秒後にチャイムが鳴り、救急隊員の声が聞こえた。

「母さんをお願いします。」

 救急隊員はタンカーで母親と影魅、龍星、サナを救急車に乗せて病院へと向かう。


~病院~

 母親が病院に搬送されてから20分経った。

 検査が終わって流行性感冒インフルエンザで発症から32時間が経っていることも判明した。 

「母さんはどうなるんですか?」

「すまない。あまり言えないことなのだが、助かる見込みはない。」

 医者の口からは衝撃の発言。実のことを言うと、母親はインフルエンザではあるが、希少なケースのインフルエンザ脳炎を発症していた。なお、この病に特効薬は存在しない。

 そして、2時間後。母親の様子は急変、息をするのも一苦労の状態だ。

「母さん!死なないでよ!いやだよ!」

 影魅は母親の手を握りながら、声を荒げる。だが、母親は苦しんでいるため話すことがやっとだ。

「…影魅、龍星、サナ、ごめんね…。」

 母親は何回も咳き込み、そして息を引き取った。

「母さん…?ねえ、死んじゃいないよね…?起きてよ…母さん‼」

 無慈悲にも死体は動じない。何回も体をゆすっても何も起こらない。

「いや、嫌だ…。いやあああァァァ‼」

 悲痛の叫びをあげるが、それも無意味だ。負の感情が影魅を包み込む。

「姉さん!どうしたの…?…!?」

 叫びに反応した龍星とサナが病室に入る。そして、信じたくない光景を目の当たりにする。

「母さん…、そんな…。」

「信じたくないよ…。」

 あとから来た龍星とサナも、母親の死体を見てしまう。

 影魅は何も言わずに、病室を去ろうとする。サナに止められるが、それは振り払って涙を流しながら、病院の入り口へ。

「サナ姉ちゃん!影魅姉ちゃんを追いかけて…。僕は誰かを呼んでくるから。」

「わかった…。」

 残酷な現実がその場を包み込み、悲しみを生む。


 病院から離れ、現実からも離れようとする影魅は、いつの間にか町はずれにある自殺で有名な場所。そこに影魅は立っていた。

「私なんか死んでしまえばいいのよ…。」

 高い崖の上に影魅は立っている。下を見ても、暗くて底が見えない。

「…姉さん!そこから離れて!」

 突然聞こえてきたのは妹のサナの声だった。後ろを振り向かずに、返事をする。

「嫌、もう私は死んだ方がいい…。さよなら…。」

 影魅が足を地面から離して飛び込んだ次の瞬間、先ほど立っていたはずの足場は崩れてサナも巻き添えになった。

 2人は空中で人生の最後だと悟った。だが、そんな2人を謎の光が包み込み、空中で姿を消す。


~星空影魅の意識の世界~

「……」

 気がつけば自分は、よくわからない世界にいた。

 そこは辺り一面を見渡しても、何もなく白い光に包まれた殺風景な場所だ。

「…私は死んだのね。」

「違う、お前はまだ生きている。」

「!?」

 声の聞こえた方を振り向く、そこには自分の姿をした者がいる。

 影魅はこう考える。目の前にいるのはもう1人の自分なのではないかと。

「その通り、私はもう1人のお前だ。そして、ここは意識の中の世界。」

「意識の中の世界?それにあなたは?」

「私はお前のもう1つの人格、お前が須藤博に殺意を向けた時に私は目覚めた。あのクズを痛めつけるのは最高だった。殺せなかったのが残念だ。」

 もう1人の自分が本性をあらわにしたかのように喋る。その内容は寒気がたち、不快だった。

「…あなた、本当に私なの?とてもそうとは思いたくない。」

「ほう、こんな目に合わせた私が憎いか?」

 相手は自分の姿をしているため、反論をすることは難しい。

「憎くはない。それより、私はこの後どうなるの…?」

「気にすることはない。でも、お前の表の人格になるのは私だ。」

「それってどういう事…?」

 ここで自分が何かに飲まれて、意識を失った。

 それと同時に影魅の体の主導権を握ったのは、もう1人の影魅――クリーチャー。


 目が覚めれば、そこはファンタジーの世界、さっきまで近くにいたサナの姿は見当たらない。

「誰かが、私を転送するのに失敗したか。まあいい、ここは私がいた世界だからな。」

 ここでクリーチャーは自分が死んだ時を思い出す。自分はフェイズというドラゴンに戦いを挑み、戦いに負けて死に、その魂は影魅のもう1つの人格になった。それが始まりだ。

「そういえば、影魅の弟の星空龍星とか言ったな。今度会った時に、殺してやるか。」

 今はクリーチャーが体の主導権を握っているが、影魅は心の中で危険を感じた。

 クリーチャーは広大な草原を歩き出す。確かな記憶をもとに、町へ向かう。

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