忘れもの
久々に学校の授業のためだけに書いたリハビリ作です。
拙すぎる文章なので読みづらいと思います
最近よく見る夢がある。
それはとても楽しくてワクワクするものであり、懐かしいものであり、そしてとても悲しい夢であった。
何故楽しくワクワクするはずの夢なのにとても悲しいのかと言うと決まってその夢を見て目覚めると泣いていたのだ。
なぜ泣いているのかがわからずでも夢の内容も覚えていない。それなのに私の心には虚しさを残すだけだったのだ。
悲しく泣いていたはずなのにそれが覚え出せない感覚は私をイラつかせる原因にもなった。
「佳奈はよく泣くよね? 何か嫌な夢でも見たの?」
一緒に住む親友の何気ない一言は私の心を削っていった。
「うーん、嫌な、夢なのかな? 最初はとても楽しいの。でも途中から悲しくなるの。でもそれがわからないの。なにか私にとって大切なことなはずなのに」
大切なこと、思い出せない、それが私を苦しめる。
これは私が体験した、ある冬の出来事だ。
私が過去に置いてしまった思い出と悲しみを拾いに行った、そんな物語である。
「佳奈は過去に忘れ物ってある?」
え?と私は私の親友である優衣の顔を見た。
優衣の顔はとても真剣で、いつもの人々を安心させるような笑顔を浮かべる優衣ではなかった。
「私はね、佳奈。
いっぱい過去に忘れてきちゃったよ?
初恋も青春もそして色んなことを。
ほんと、私の人生は後悔だらけ。
色んなことを過去に忘れて前だけを進んできちゃったの。見たくない現実から目を逸らして自分が望む未来しか見てなくていろんな人を傷つけてきた。
酷い時なんて私が好きになった人の彼女さんの悪い噂を流したりもしたのよ?誰々と二股してるとか、放課後援交してるとか。今思ってもなかなかにえげつない事よね。
しかもねその彼女さんって私の幼馴染みだったのね。
いつも一緒にいて、楽しいこと辛いことを分かちあってきた私の一部とも言えるような幼馴染みだったの。最後まで私を信じていてくれたのに、私はそれを裏切り続けたの。
結局、彼女振られちゃったの。
彼が彼女を信頼できなかったみたいでね?その出来事があって彼女は人間不信になって閉じこもっちゃったの。
これは私が過去に忘れてきた思い出の一つ。他にもたくさんあるの。
佳奈、貴女は過去に忘れ物はある?」
優衣は自分の過去話をした事なんて一度もなかった。今までずっと一緒にいてきたはずなのに私は何も知らなかった。人は何かしらの秘密を抱えてると言われている。大なり小なりそれぞれの秘密がある。
「なんでこんな事をいきなり話したかって言うとね、佳奈。貴女には忘れ物を忘れたままにして欲しくなかったの。
私はずっとそれを心の奥底に仕舞い込んで忘れ物にしてたの。
でもねこの間彼女が亡くなったって教えてもらったの。目を逸らして忘れてる間に謝る相手がいなくなっちゃったの。
だから後悔を残さないで。目を逸らさないで。過去に忘れたものを思い出して。」
優衣のそんな声が私の耳を通り、脳に染み渡った。
「あのね、優衣。私わからないの。過去に何かを忘れてきたはずなのに、わからないの。大切な何かがあったはずなのに! 忘れるべきじゃない、覚えていなさいと言われていたはずなのに! 私、忘れちゃったの」
そっか、と優衣は私の肩を支えながら抱きしめた。
いっぱい泣いたんだと思う。わんわんと子供が泣きじゃくるように。
長い間泣き続けた。お日様が真上にあったはずなのに、今は夕日が指す時間になっていた。
「あのさ、佳奈。今度佳奈の生まれた土地に行ってみよっか」
「え? なんで」
「大切なことだったんだよね? 忘れ物を取り戻しに行こ!」
「いいの? 私はきっとろくな人間じゃなかったよ? 幻滅をすると思うよ?」
「そんなことで私たちの絆は壊れることはないよ。だってさっきの私の話を聞いて、佳奈、泣いてくれたじゃない。
だから私は佳奈を信じるの。
私を信じてくれた佳奈を信じられなくなったら、きっと私は私じゃなくなると思うの」
だから、 立ち上がろう? と優衣は私に優しく言って手を伸ばした。
それぞれの本音をぶつけあったその日は何も起こることはなく終わっていった。
私はね、きっとその人に恋をしてたんだと思う。だけど叶うはずのない恋だと知っていた。何故なら___
『……な……奈…………佳奈っ!』
ん、と目を開けると優衣が私を揺すっていた。
焦点が未だに合わない目で恨めしそうに優衣を見る。
「……優衣、どうしたの?」
「…………佳奈、貴女泣いてたのよ? 心配で起こしてあげた親友に向かってその言い方は酷いんじゃない?」
ぷんぷん、と頬を膨らませそっぽを向く優衣。
私はと言うと慌てて指を目の下に持っていき、そこで初めて自分の頬が濡れているということに気がついた。
「私っていつから寝てた?」
もう、と優衣はそっぽを向いたまま、30分ぐらいかなと答えてくれた。
私たちは今バスに乗っている。
飛行機を乗って北海道まで行って、それから電車を使ってひたすら上を目指した。
そして今は目的地行きのバスに乗っている。
乗ってすぐに私は寝ていたようだが優衣曰く
『最初の10分ぐらいは普通だったの。でも10分過ぎたぐらいから怪しくなって、それでさっき突然に涙を流し始めたのよ』
という事らしい。
でもやっぱり私にはなんの夢を見たのか思い出せなかった。
目的地に近付くにつれて鮮明になっていく夢。でも私は何一つ覚え出せない。その事が再び私を蝕んでいく。
「佳奈。今は覚え出せない自分を責めないで。ゆっくり、ゆっくりでいいの。だって貴女の思い出の地はすぐそこなのよ?
だから自分を責めないで…」
優衣はこの間のように私を包み込むように抱きしめてくれた。
「ありがとう、優衣。
私は過去に向き合いたいの。私が忘れてしまった後悔を取り戻しに行きたいの。
だから手伝ってくれてありがとう、優衣。
きっと、私だけじゃ勇気がなくて忘れ物を忘れたままにして前を向けなかった。」
「怖い?」
「やっばり怖いよ。私自身の過去を知るのは。忘れちゃいけないことを忘れるほどなんだよ?
でもね、今はそんなに怖くないの。たぶん優衣がいるからかな?」
さっきまで自分が震えていたのがわかっていた。
怖かったのだ。でも自分には優衣がいた。優衣が居てくれたから私は私自身の過去と向き合える気がした。
そっか、と優衣はそっぽを向いていた顔を私に向けて優しく微笑んでくれた。
たわいもない話をしながらバスは進んでいく。
私が忘れてしまった記憶を求めに行く旅は順調と言えるほど順調に進んでいった。
私は祖父の言いつけを守れなかった。ソレに近づいてはいけない。ソレと仲良くはしてはいけない。ソレは____
『……て……きて……起きて、佳奈』
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。それはとても優しい声でまるで母親のようだった。
『起きなさいって、佳奈!』
その声は突然怒鳴り声に近いものとなり、同時に強く揺すぶられ始めた。
うーん、とようやく私の意識は戻り始めた。
眠い眼をゆっくりと開けると呆れたように見てくる優衣と目が合った。
「貴女ね…今日は早くに起きて村を回るんじゃなかったの? それともう朝ごはんの時間よ。ほら早く顔洗って、シャキッとして!」
身を起こしてようやく意識がはっきりし始めた。
昨日は着いた時間が遅かったのと旅の疲れでどっと疲れた私たちは村にある民泊に泊まったのだった。
急いで携帯を開き、時間を確認する。
ちょうど8時だった。
朝ごはんは8時半までと言われていたので急いで顔を洗い、寝巻きから私服に着替える。
急いで広間に向かうと先に朝食を食べていた優衣が呆れたように見ていた。
「佳奈、貴女髪の毛はちゃんとしなさいよ。いたるところに寝癖が残ってるじゃない。後で私がやってあげるわ」
もう、とぷんぷんと言う怒る優衣にごめんね、一言告げて私も朝食が置いてある前に正座をして、いただきます、と小さく言ってから食べ始めた。
民泊を出た私たちは村の中を歩いていた。
その村はとても時間がゆっくりと流れていた。とても穏やかな村だった。
「私はここに住んでいたんだね。全然覚えてなかった」
「とても穏やかな村なのね。時間の進みが遅く感じるほどね」
ゆっくりと歩いていく。新鮮なはずなのに私にはどこか懐かしく感じさせるこの場所は、でもやはり覚えていないのだった。
無言で歩きながらそこにたどり着いた。そこはほとんど覚えていないはずの私でも見覚えがあるところだった。
突然走り出した私を優衣は急いで追いかけてきてくれた。
いくらか走りようやくそこにたどり着いた。
肩で息をしながら、その建物を見つめる。
少しずつ私の中で散らばっていた記憶の欠片が形を取り戻していくのがわかった。
「はぁっはぁっ、どうしたの、突然走り出して。はぁっはぁっ」
息も絶え絶えな優衣に向かって私は
「私ね、少しずつだけど思い出したの。私は確かにこの村に住んでたの。
少し長くなるけど私の話聞いてくれる?」
優衣は私の言葉を聞いて、私の顔を見てしっかりと頷いてくれた。
少し足が震えた。手にも汗が出てきた。喉がカラカラになった。それでも私は私が忘れてきた過去を精算するんだ! と自分鼓舞する。
段々と震えが収まり、喉が喋れるぐらいには潤ってきた。
「この村にはね、ある掟があったの。今も続いてるのかわからないけど、先祖代々その掟を守ってきたの。
その掟ってね、ツノが生えた赤ん坊が生まれた時、村に大いなる災いが起こる。しかし生まれて間もない時ならば災いは起こることはない! って言うものだったの。
馬鹿らしいよね? そんなことあるはずないのに。
そんな中ある赤ん坊が生まれたの。頭にツノが生えた赤ちゃん。その子の親は急いで先生と看護師に口止めをしてもらったの。その掟を守る家は廃れてきたんだけど未だにあったから。
そんな中私も生まれたの。同じ病院で同じ日に。
私の両親はお人好しだったの。いえ、その人がお母さんの親友だったからなのかな。今になってはわからないけど黙っていたみたいなの。
そこから私と彼は幼馴染みになったの。いつも一緒に遊んだわ。あの日々は楽しかった。
でもそれは突然終わりを告げたわ。ある日遊んでいたら祖父に見つかってしまったの。
祖父は掟を守っていた人だったの。祖父に見つかった彼はこの場所に連れてこられ、鎖に繋がれてしまった。
食べ物も飲み物も与えられず彼は死んでしまったわ。
彼が死んだことを理解した時私は考えるのをやめてしまったの。抜け殻って言うのかしらね。それを心配した両親が祖父を振り切って東京に逃げてきたの。」
ようやく思い出したその記憶を頼りに私はどんどん先に進んでいく。
「ごめんね、いっくん。遅くなっちゃった。でもちゃんと来れたよ?」
私の初恋の思い出と私の後悔を私はようやく忘れものから拾い上げることができたのだった。
私のあとを追いかけてきた優衣は私が骨を抱きしめている事に驚いていたが、優しかった。
「ようやく拾えたのね」
と。